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「Freezing Conflagration」(佑樹のMusic-Room
by 岸波(葉羽)【配信2023.4.22】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 ひとりのレプリカントが目覚めた時
 人類の存亡を賭けた戦いが始まる。
 究極のSFアクションエンターテインメント大作

 2015年公開、ブルース・ウィリスが出演している『デッド・シティ2055』をAmazonプライムで視聴。

 そう、「主演」ではなく「出演」・・それも悪のラスボスとして。

 彼が失語症による引退を宣言したので、どうしても彼の出演作品が見たくなり探して見つけた作品でした。

 しかあしっ!!

デッド・シティ2055

C)2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT, LLC

 右下のポスターを見て分かるように、どう見てもウィリスが主演級の扱い。

 こういう場合、二つの事が考えられます。

 その一つ、実は作品がピカレスク・ロマンで、悪役が主役であるケース。

 もう一つは、単にブルース・ウィリスの知名度に寄りかかって興行的成功を画策した作品であるケース。

 さて、いったいどちらなのか、早速その内容です。

 

 セックス、ドラッグ、殺人…
 あなたの欲望を全て叶える近未来リゾート都市”VICE”

 映画の冒頭、いきなり二人の強盗が銀行を襲撃するシーンから。しかし、すぐにパトカーに包囲され、人質を銃で殺し始める。(・・なんだこりゃ?)

 と思ったところでストップモーションとなり、画面横からブルース・ウィリスが登場。彼は言う・・

「絶対に実現できない大きな欲望を抱いたことは? もし法など存在しなければお咎めは一切受けません。まさに理想の世界でしょう。よりよい現実”ヴァイス”へようこそ!」

デッド・シティ2055

C)2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT, LLC

 そう、これは企業王ジュリアン(ブルース・ウィリス)が創設した享楽的なリゾート都市”VICE”(ヴァイス)のプロモーション・ビデオなのだ。

 時代設定は2055年の近未来。高度なAIを装備した”レプリカント”(人造人間)が生活する疑似都市の中で、利用者の富豪たちは自由なセックス、暴力、ドラッグ、果ては(レプリカントに対する)殺人まで、何でもありの世界。

 ジュリアンは、このヴァイスが存在する都市の税収の半分を納めており、誰も彼に逆らうことはできない。

はぐれ刑事ロイ:主人公??

 しかし、ジュリアンを苦々しく思っているはぐれ刑事ロイ(トーマス・ジェーン)は、何とかヴァイスを駆逐できないかと一人考えている。

 ヴァイスの住人であり利用者から見れば享楽的行為の対象でしかないレプリカントたちは、一日ごとに記憶が初期化され、殺された(壊された)身体も補修され、全く新しい一日を繰り返す。

 そんな中、暴行されて殺された女性レプリカント、ケリー(アンビル・チルダーズ)は、再起動後に前日の忌まわしいシーンが記憶に蘇って来る。

快楽殺人鬼の餌食に

 恐怖に駆られてヴァイスから逃げ出すケリー、それを追うヴァイスの警備兵たち。やがてケリーは、はぐれ刑事ロイと行動を共にし、レプリカントの尊厳を弄んだヴァイスに復讐を誓う。

 さて、二人の反乱は功を奏するのか? また、何故にケリーだけが記憶初期化に不具合を生じたのか? 彼らに対するジュリアンの反撃や如何に!?

デッド・シティ2055

C)2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT, LLC

 ざっと、そういったストーリーなのですが、やはりブルース・ウィリスの存在感は凄い。

 しかしこの映画、二つの懸念をもって観始めました。その一つは、もちろんウィリスの失語症との関係。

 彼が「名作」と呼ばれる作品をモノにしたのは2000年代まで。その後は、脚本がダメダメな作品にも出演したこともあり、評価はダダ下がり‥。

 最後に好評を博した作品は2012年、シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーと共演した『エクスペンダブルズ2』でしょうか。

『エクスペンダブルズ2』

 出演シーンこそ短かったですが、伝説のヒットメーカー三人の共演という事もあり、興行的にも大成功。確かな存在感を醸し出していました。

 その後、2013年にダイ・ハードシリーズ最終作『ダイ・ハード/ラスト・デイ』に出演しましたが、まあ、精彩を欠いた映画でしたね。

 それが不振に終わった後は、オリジナル・ビデオ作品にチョイ役で登場するなどしていましたが、2015年にウッディ・アレンがメガホンを取る映画で「台詞が覚えられない」という理由で降板・・失語症が進行していたのでしょう。

『ダイ・ハード/ラスト・デイ』

 彼が大好きな僕は、2010年代中盤以降の主演・準主演作品もずっと観てきましたが、「なんでこんな作品に出演した?!」と思わせるモノが続々。

『デス・ウィッシュ』は酷かった‥。

 これらは、ほぼ全ての観客・批評家からディスられたため、"最低映画"を表彰する2022年のラジー賞に『ブルース・ウィリスが2021年に見せた最低演技部門』が新設。

 2021年にウィリスが出演した8本の映画がノミネートされ、その中から最低映画としてSF作品『コズミック・シン』が受賞。

『コズミック・シン』

 しかし、その授賞式から三日後、ウィリスの家族が「ウィリスが失語症を患っていること」を発表。世界を驚かせました。

発表を受けて、ラジー賞事務局は部門自体の撤回を決めた。

 やはり、あのウィリスが凡作しか撮れなかったのにはワケがあったのか‥。

 しかしその後、周囲の関係者が「出れうるちに何本でも出して稼がせる」と意図したとする陰謀論も出る。(真偽は定かではない)

 人間やはり”退け時が肝心”と考えさせた事件でした。

デッド・シティ2055

C)2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT, LLC

 こうした渦中にあって未見だった『デッド・シティ2055』、まだ名優の片鱗を残した演技なのか、そうでないのか・・心配しました。

 もう一つの懸念は、制作があの「ライオンズゲート」であったこと。

 同社はカナダから始まった制作会社で現在はアメリカに進出してサンタモニカに拠点を置いていますが、低予算ホラー映画『ソウ』シリーズや『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、ゲームを映画化した『ハンガー・ゲーム』シリーズなど、どちらかと言えば”キワモノ”でノシ上がってきた会社。

最近では『ラ・ラ・ランド』などアカデミー賞受賞作も制作しているが。

ブレア・ウィッチ・プロジェクト

 どうもブルース・ウィリスのキャラと相性がいいようには思えない。さらに言えばこの『デッド・シティ』というタイトル。

 これは2019年にベネズエラ・メキシコ合作で作られた”全市民ゾンビ化”をうたい文句とするC級ホラー映画のタイトルと同じ。

 映画.comの評価蘭でも5段階で2.2という低評価の作品・・わざわざこの超駄作映画のタイトルをパクって来て、しかも内容は全く関係が無いときた(笑)

 そんなこんなで、不安要素満載だったのでした。

デッド・シティ

 で、結果どうであったか? はい「駄作」でした。

 世界観の設定は『ブレード・ランナー』や『ウエスト・ワールド』に近く、既視感たっぷりであるものの、そう悪くはない。

 しかし脚本に何のヒネリもなく、はぐれ刑事ロイとレプリカント・ケリーのたった二人の銃だけで、ヴァイスの部隊を壊滅に追い込む。無理筋過ぎて、何のカタルシスもない。

 しかも、ヴァイスの警備部隊が大勢でマシンガンをぶっ放すのに、一発も二人に当たらない。

『マトリックス』のようにかわす訳でもない。何十人もの銃撃がフツーに当たらない(笑) 

かわす必要なし!(笑)

 そして、キャッチコピーにある「ひとりのレプリカントが目覚めた時、人類の存亡を賭けた戦いが始まる」・・そんなモノは始まらない。一つの建物の中で撃ち合うだけの局地的テロ。

 よくもココまで話を盛ったものだ。おそらく主人公は無頼刑事ロイなのだろうが、自分が気に入らないヴァイスを壊すために片っ端から殺しまくる。

 動機に共感できないし、魅力的なキャラでもない・・全く感情移入できない。

 これは、カリスマ彰ならずとも『絶対に観てはいけない映画』決定です。

デッド・シティ2055

C)2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT, LLC

 だかしかし・・

 ブルース・ウィリスの演技だけはさすがの貫禄でした。失語症などという事を感じさせない。

 かれがソコに登場して静かに語り始めるだけで、作品のクオリティが一枚も二枚も上がる感じがする。(それを入れてもC級作品ですが。)

ブルース・ウィリス

 考えてみれば、その他のダメダメ作品もウィリスの存在感や演技だけはしっかりしていた。脚本や演出が最低なだけ。

 どんな作品であっても、彼自身の登場シーンでは決して手を抜かない。役者としての矜持を感じました。

 この10年間、出演した作品は酷いモノばかりでしたが、それでも演技に手を抜かず”ブルース・ウィリスここにあり”と感じさせてくれたことに感謝です。

 ブルース・ウィリスよ、永遠なれ。

 

/// end of the “cinemaアラカルト360「デッド・シティ2055」”///

 

(追伸)

岸波

 そうそう・・レプリカント・ケリーが記憶の初期化に不具合を生じた理由ですが、彼女だけは、このレプリカント開発者の技師が、死んだ妻に似せて特別に作った試験体だったのです。

 レプリカントは、記憶中枢にこそAIが組み込まれていますが、元々人間のDNAを培養して皮膚から内臓に至るまで再現した人造人間。

レプリカント・ケリー

 姿カタチも死んだ妻そっくりで、培養した大脳皮質に「記憶」が残っていたために電気的消去だけでは初期化できなかった(という設定)。

 それにしても「記憶」は後天的なものであるし、色々と無理な設定だと思います。

 そもそもこの作り方ならロボットよりクローンに近く、「殺してもいい」対象にはなり得ないと思うんですがね。

 一番酷かったのはラストシーン。

 ロイ刑事に殺されたジュリアン(ブルース・ウィリス)の目が最後に再び開く・・で、エンディング。

 何その思わせぶり!? ジュリアンもレプリカントだったって事?

 これも有りがちな演出だし、予想が付いたし、まさかパートⅡを狙った伏線? ・・そういう事だったのでしょう。でもバレバレだよ。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !

デッド・シティ2055

C)2014 GEORGIA FILM FUND TWENTY-EIGHT, LLC

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト361” coming soon!

 

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