こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
80代で生まれ、若返っていく
数奇な人生を生きた、ある男の物語
封切りの日2月7日、ケイコと観て参りました「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」。
しかし、この映画を見ると決めるまでには大変なドラマが・・・。
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ベンジャミン・バトン
(C) 2008 Paramount
Pictures Corporation
and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved. |
ねぇ、ケイコ。僕は「007」をもう一回観たいな。
一回観たじゃない。それに、また寝ちゃうからダメ。
今度は大丈夫だってば。
ワタシはどっちかと言うと「マンマ・ミーア」!
うーん、「夫婦50割引」で入って、別々に映画を観るってのは?
できるワケないでしょ。
それじゃ、中をとって「ベンジャミン・バトン」にしよっか?
しかたない、手を打とう。 (だけど、どの辺が“中”なんだ・・?)
~そんな明快な理由で、ベンジャミン・バトンを観ることになった僕たち。
さて、その決断は凶とでるか吉とでるか???
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は、主演がブラッド・ピットと「エリザベス」で孤高の女王を熱演したケイト・ブランシェット。
「セブン」のデビッド・フィンチャー監督が、再びブラッド・ピットとコンビを組み、フランシス・スコット・フィッツジェラルドの同名の短編小説を映画化したもの。
2008年度のアカデミー賞では、最多13部門にノミネートされました。
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ベンジャミン・バトン
(C) 2008 Paramount
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映画の舞台は、第一次世界大戦末期のニューオーリンズ。
主人公のベンジャミン(ブラッド・ピット)は80歳の老人の姿で誕生し、徐々に若返って行くと言う数奇な運命を背負った男として描かれています。
“SFでもないのに、どうしてこんな不可解な設定が必要なのか?”
この映画は、最初から大きな謎を観客に提示します。
映画の冒頭、たった一人の息子を戦争に送り出した時計職人のエピソードが語られます。
息子は、戦争の中で戦死。
傷心の時計職人は、駅の待合室を飾る大時計の製作に没頭します。
大統領を迎えた除幕式で、何と、職人が披露した大時計の針は逆回転。
彼は、「失われた時は決して戻らないけれど、もしも時間を逆回転させられるならば、戦争で死んでしまった人々の命も蘇らせることができる」と言い放つのでした。
あきれ返る大統領・・・。
そんな突拍子もないスタートに、観客の心はいきなり鷲づかみされるでしょう。
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ベンジャミン・バトン
(ブラッド・ピット)
(C) 2008 Paramount
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さて、そんな時代背景の中で、ボタン工場の経営者の家に生まれたベンジャミン。
難産であったため、母親は息子と換えに命を落としてしまいます。
ところが、そこに駆けつけた父親が見たものは、老人の姿をした何とも不気味な赤ん坊。
彼は、命を落とした妻のこともあって半狂乱に。
赤ん坊を取り上げるなり、病院を抜け出して河に投げ込んで殺してしおうと・・。
しかし、すんでのところで思いとどまると、街をさまよい、一軒の家の玄関先に捨て子をします。
それを見つけたのは、その建物で老人ホームを営んでいた黒人の女性ケイニー。
彼女は、赤ん坊の姿に驚きはするものの、「きっとこれは神様のお恵みだわ」と、自分で育てる決心をします。
ケイニーは子供が埋めない身体だったのです・・・。
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ベンジャミン・バトン
(C) 2008 Paramount
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ケイニーの溢れるばかりの愛情に包まれて、すくすく育つベンジャミン。
とは言っても、他人とは逆に80歳の老人の身体から徐々に若返るのですが・・。
そうした中で、近所の女の子デイジーと運命の出会いをするのです。
ベンジャミンと時を同じくして生まれたデイジーは、他の人々のようにベンジャミンを特別な眼で見ることはせず、友達のように接してくれました。
「病気なの?」~とデイジー。
「長く生きられないと言われた。・・・でも、多分違う」~とベンジャミン。
二人の間に生まれた友情とほのかな恋心・・・
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ベンジャミン・バトン
(ブラッド・ピット)
(C) 2008 Paramount
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そして時計の針は進み、ある日、ベンジャミンの人生に決定的な出来事が。
子供が生めないはずだった育ての親ケイニーに赤ちゃんが授かるのです。
思い悩んだ末、家を出る決心をしたベンジャミン。
幼なじみのデイジーは、泣きながら「どこに居ても、必ず私に手紙を頂戴ね」と。
別々の人生を歩みだすベンジャミンとデイジー。
彼らの将来に、いったい何が待ち受けるのか・・・?
この「ベンジャミン・バトン」、観客が号泣するような場面はありません。
でも・・・ベンジャミンとデイジーのひたむきな人生、そして“予定された悲劇”に着々と進んでいくストーリーに、胸が締め付けられる思いがします。
“予定された悲劇”・・・彼らは、それぞれの人生で多くの出会いと別離、栄光と挫折を経験してから再び巡り合うのですが、ちょうどそれは、時間軸を逆向きに生きて同年代になった時。
その人生の絶頂から先に待ち受けるのは、どんどん年老いてゆくデイジーと若返ってゆくベンジャミンという、“長いお別れ”そのものです。
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デイジー
(ケイト・ブランシェット)
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ケイコが、この映画を見た後で言いました。
このお話を書いた人は、きっとアルツハイマーの肉親がいたのね。
今は僕たちと一緒に暮らしているケイコの母親は、数年前からアルツハイマーが進行し、一時は二人して思い詰めるほどの地獄の日々がありました。
アルツハイマーの進行を遅らせる薬は、性格を凶暴化させる副作用があるからです。
夫に尽くし、子供たちを愛し、自分のことなど投げ打って家族を愛し続けた彼女は、ある日、孫たちが大好きだったコロッケを作ろうとして作り方を忘れている自分に気づいたその日を境に、人生に絶望するようになりました。
フィッツジェラルドの著作の中では、1925年に発表された「グレート・ギャツビー」が有名ですが、「夜はやさし」こそ彼の最高傑作作であると考える評論家もいます。
この「夜はやさし」は、精神科医の主人公が富豪の娘と恋に落ち、やがて、精神的に不安定となった彼女に翻弄され転落していく人生を美しい文章で綴っています。
しかし、この作品は、社交界の花形であった彼の妻、ゼルダ婦人が統合失調症を発症し、やがてアルコールに溺れて生活を破壊していく彼の実体験に基づいたものではないでしょうか。
愛し合った二人が、その愛の記憶を忘れ去っていく「ベンジャミン・バトン」の悲しいストーリーもまた、同じ体験がベースになっていると思います。
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同年代になった二人
(C) 2008 Paramount
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人生の絶頂時、ベンジャミンとデイジーの間に愛の結晶が生まれます。
男の子であれば、自分と同じ運命を歩むのではと恐れおののくベンジャミン。
しかし、生まれてきたのは玉のような女の子。
その喜びもつかの間、ベンジャミンの心には新たな恐怖が芽生えます。
自分はやがて、こんなに愛しているデイジーも娘のことも分からなくなって行く。
そんな将来の自分がデイジーに重荷になってはいけない。
ベンジャミンは、デイジーに重い決断を打ち明けることになるのですが・・・。
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デイジー
(ケイト・ブランシェット)
(C) 2008 Paramount
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驚きの演技は、プリマドンナとなるデイジーの青春時代から80歳の老婆までを自分自身で演じたケイト・ブランシェット。
その年齢の幅と内なる感情を表現する演技力には脱帽です。
また、ブラピについては、現実の年齢までを生で演じ、そこから若返っていくシーンには、過去の出演作品のCG処理でバーチャル・出演。
若々しいブラピの新たなる演技(?)にも大注目です。
久々に、ハリウッド映画の底力を見せた今回の作品でした。
/// end of the “cinemaアラカルト84「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」”///
(追伸)
岸波
この映画、はっきり言って“オトナの映画”です。
『評判だったので見に行ったけど、チョー退屈』という若い人の感想を見て悲しくなりました。
「歳とともに誰もが子供にかえっていく」という事実を実感として分からなければ、この深い哀しみを理解することは難しいでしょう。
また、映画のスタッフや関係者には、この映画に対して特別な思い入れがあった人も多かったようです。
ブラピがインタビューに答えて、次のように話しています。
『僕たちはこの限りある人生というものについて良く話したよ。企画を練っている間に、デビッド(フィンチャー監督)は父親の死を体験した。エリック(・ロス=脚本家)も母親の死について話していたし、撮影中にはアンジーのお母さんも亡くなったからね。』
「ベンジャミン・バトン」・・・悲しいだけの映画ではありません。
映画のラスト・シーン、娘に看取られながら、天寿を全うしようとするデイジーが最後に残す言葉・・・貴方の心を洗わずにはおかないでしょう。
では、また次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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アンジー、ブラッド・ピット
&フィンチャー監督
(1月29日のジャパンプレミアにて) |
eメールはこちらへ または habane8@ybb.ne.jp まで!
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