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「Blue Island」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2008.10.19
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 その謎を、愛そう。

 ご存知フジテレビ系月9ドラマ、福山雅治主演の「ガリレオ」を、テレビドラマ版のスタッフ・キャストが総動員して映画化した「容疑者Xの献身」。

 10月4日に全国公開されるや否や興行収入の一位に躍り出て、現在もトップをばく進中でございます。

 しかぁしっ!!

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

(C) 2008 フジテレビジョン

 福山雅治の歌は大好きなものの、彼のキャラクターがいまいち好きになれない僕としては、どちらかというと別の映画を見に行きたかったのですよ、実は・・・。

岸波 ケイコ、映画でも観に行かない?

明日、出張だから忙しいのよ。

岸波 見たいな~、オダギリ・ジョーの「たみおのしあわせ」。

忙しいって言ってるでしょ!

岸波 あ~あ、福山の「容疑者Xの献身」でもよかったのに。

福山ですって!? だから、忙しいって・・・

岸波 ん?

言うのはこれくらいにして、行くわよ、さあ福山!

岸波 ええー!!

 というわけで、意図したワケではなかったのですが、観るハメになってしまった「容疑者Xの献身」、さて、その結果は?

 この探偵ガリレオシリーズは東野圭吾原作の推理小説で、これまで「探偵ガリレオ」と「予知夢」の両短編集と初の長編である「容疑者Xの献身」が刊行されています。

 昨年秋に、福山雅治を主役の物理学者湯川学に据えて、短編を原作としたテレビドラマ「ガリレオ」が放映されて一気に人気が爆発。

 単行本は今年8月時点で400万部を超えるミリオン・セラーとなりました。

 テレビドラマの方もケイコにつられて観ていたのですが、この湯川学は推理ドラマの探偵役としてはかなり異色です。

 一見、不可能犯罪~いやむしろ“超常現象”とでもいうべき犯罪トリックを、物理学の知識と彼一流のヒラメキで解いていくのです。

 犯人を捜すというより、謎そのものを解明することに生きがいを感じるタイプで、決め言葉が「実に面白い!」・・・そうそう、彼のモノマネをする芸人がよく使っていますね。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

(C) 2008 フジテレビジョン

 さて、映画「容疑者Xの献身」は、「オール讀物」に連載されたガリレオ・シリーズ初の長編を原作にしたものですが、テレビ版とはかなりテイストの異なる作品に仕上がっています。

 テレビ版では、物理学者湯川がその天才的な頭脳で快刀乱麻のように謎を解いていくのですが、今回の湯川は推理がことごとく的を外し、苦悩する姿で描かれるのです。

 それもそのはず、「容疑者Xの献身」を書いた東野圭吾は、文藝春秋のインタビューに次のように話しています。

(東野) 今回は主人公が犯人、容疑者のほうなんですよ。その人物像に自分でも魅力を感じていたので、じっくり長篇で書きたいなと思いました。

(記者) 主人公の石神は湯川の学生時代の好敵手だった数学者という設定です。

(東野) 湯川を悩ますことができる犯人ってどんな人間かなと思って。今回は正統派の論理を駆使する人間ということで、それができるといったら物理学者に対してはやっぱり数学者かなという発想です。

 そうなんですね。今回の映画も主人公である「容疑者X」の視点で進行するのです。

 その「容疑者X」である数学者石神を演じるのが、「ALWAYS」や「クライマーズ・ハイ」の堤真一。

 前二作の役柄とは全く違ったキャラクターを、観終わってみれば“この人しかいない”というくらい見事に演じ切りました。

 実に芸達者な俳優さんですね。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

(C) 2008 フジテレビジョン

 さて、そのストーリーですが、学生時代は数学の天才と呼ばれながら、今はしがない高校教師をしている石神のアパートの隣室に花岡靖子(松雪泰子)と娘・美里が越してきます。

 花岡靖子は元夫、富樫慎二と離婚し、水商売で娘を育てていましたが、ようやく昼の勤めができるようになり、石神もよく利用する弁当屋で働いています。

 ところが、元夫、富樫が彼女の居所を突き止め、突然アパートに現れます。

 この富樫は疫病神のような男で、靖子がどこに引っ越しても執拗に後を付け狙って金や復縁を迫りに来るのです。

 この日も、靖子に復縁を断られると暴力を振るい始め、その弾みで母娘は富樫を殺してしまいます。

 自分の部屋に居た石神は、隣室の異変を察知すると二人に手を差し伸べ、先々を読んだ完全犯罪の論理を構築して、自分の指示に従うよう花岡母娘に指図すると、富樫の死体を運び出すのでした。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

(C) 2008 フジテレビジョン

 そして、旧江戸川の川原で、顔を潰され指紋を焼かれた富樫の全裸死体が発見。

 草薙刑事(北村一輝)と内海刑事(柴咲コウ)は元妻である花岡靖子に目をつけ、そのアリバイを崩そうとします。

 しかし、アリバイ崩しがあと一歩というところになると、次々にアリバイの証拠や証人が現れ、そのたびに捜査が振り出しに戻ります。

 内海刑事は、天才物理学者の湯川(福山雅治)に捜査を手伝うよう依頼するのですが、最初、湯川は興味を示してくれません。

 ところが、花岡靖子の隣室に学生時代のライバルであった石神が住んでいることを聞くと、俄然、身を乗り出し、「警察に協力はしないが、独自に捜査させてもらう」と言うのです。

 湯川は、花岡母娘のアリバイが鉄壁であることと石神の存在とに引っかかりを感じたのでした。

 こうして、天才物理学者湯川と天才数学者石神の互いのプライドをかけた知恵比べが始まるのです。

石神(左)と湯川

石神(左)と湯川

(C) 2008 フジテレビジョン

 僕は、この映画を見る前に二つのことを考えていました。

 その一つは、敵味方に分かれた二人の天才の駆け引き・・・という図式から、「デス・ノート」のライトと探偵Lの丁々発止の読み比べです。

 そして、もう一つ・・・最初に犯人が分かっていて最後にドンデン返しがあるという前情報から、“最初に殺したと思っていた被害者は実はまだ生きていて、本当の殺人者は別にいる”のだろうということを。

 しかぁしっ!

 映画の冒頭で殺害シーンが出てきますが、間違いなく富樫は花岡母娘に殺されているので、「あれ?」という感じです。

 そうすると、どんでん返しというのは犯人そのものではなくて、謎解きの話だったのかと?

 ふっふっふっふ・・・すると、天才同士の手に汗握る駆け引きそのものがテーマなんだな。読めた!

 ・・・・・・・・・・。

 違いました、全く。(マイガッ!)

 駆け引きなどという軽いテーマではなく、見終わった後で心に鉛を打ち込まれたような重い気持ちにさせられます。

 それもそのはず、この「容疑者Xの献身」は、第134回の直木賞受賞、第6回の本格ミステリ大賞の受賞に加え、2005年の「週刊文春ミステリベスト10」第一位、2006年の「本格ミステリベスト10」第一位、同じく2006年の「このミステリーがすごい!」第一位と、五冠を達成した凄い力作だったのです。

(甘く見ていた・・)

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

(C) 2008 フジテレビジョン

 この原作は「文藝春秋」連載時点では「容疑者X」というタイトルでしたが、単行本化されるに当たって「容疑者Xの献身」と改題されました。

 この“献身”と言うのが作品の大きなキーワードになっています。

 石神は、人生に絶望して自殺しようとしていたまさにその時に、明るい花岡母娘が引っ越してきて思いとどまっていたのです。

 つまり、彼にとって、花岡親子は単なる愛情とか好意の対象ではなく、自らの命を救ってくれたかけがえのない存在~生き甲斐でした。

 しかもそれは、「だから手に入れよう」などという不純な気持ちではなく、自分を捨ててまでも守りきるという“無私の愛”なのです。

 うーん・・・切ないです。

 映画のラストシーンで、遂に湯川は母娘の罪を被って犯罪者になろうとする石神と対峙し、彼の推理をぶつけます。

 しかも、それは映画を観ている観客(全ての進行を知っている人々)さえも、度肝を抜かれる真実が告げられます。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

(C) 2008 フジテレビジョン

 上にも引用した文藝春秋のインタビューで、作者の東野圭吾はこう言っています。

(東野) 僕はミステリー作家と呼ばれて、これまで結構いろんなタイプの作品を書いてきています。

 中には『秘密』のように、ミステリーと定義するのが微妙な作品もありますが、一つの事件を扱った、正統派ミステリーの中では、自分の最高傑作じゃないかなと思っていますね。

 久しぶりに本当にミステリーらしいミステリーを書いたという気がします。こんなにうまくいくとは思わなかったです、自分でも、ほんとに。

(記者) 担当編集者も見事に騙されました(笑)。


 決して結末の読めない「容疑者Xの献身」。

 まさに、魂に響くストーリー。

 この映画は、堤真一(石神役)の代表作になるのではないでしょうか。

 

/// end of the “cinemaアラカルト76「容疑者Xの献身」”///

 

(追伸)

岸波

 たいへん重い映画でした。あまりのことに涙さえも出ませんでした。

 “献身”という物がどのような物なのか、答えを突きつけられた気持ちです。

 このような作品を観ると、いわゆる“感動大作”という部類の映画が単なる“お涙ちょうだい”と感じてしまうほどに・・。

 そういう内容ですから、福山演ずるガリレオも、テレビとは対極のキャラクター~不安や悲しみを表す人間に変化しました。

 メガホンを取った西谷監督は次のように言っています。

「例えば、今までだったら『さっぱりわからない』という湯川のセリフには学者にとっての喜びがあった。

 だから、『さっぱりわからない』は『実に面白い』につながる。

 ところが、今回は同じ言葉でもニュアンスが違う。

 謎を解明することへの不安と悲しみがのぞく。」

 ~そういうことだったのですね。

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

初日の舞台挨拶

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト77” coming soon!

 

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