こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
地球でのドラマは終った。
いま、世紀を超えた《エピック・ロマン》が世界を翔ける!
Amazonプライムで(課金して!)鬼才デビッド・リンチ監督のによる1984年『デューン/砂の惑星』を鑑賞しました。
原作はアメリカのSF作家フランク・ハーバートの全六作品から構成される壮大な宇宙叙事詩「デューン・シリーズ」の第一作『デューン 砂の惑星』(1965年)。
人類のサバイバルと進化、生態学、宗教と政治権力の葛藤を描き、文学としても古典的名作と言われる大河小説。
この原作小説が無ければ『スターウォーズ』や『風の谷のナウシカ』なども生まれなかったとされる伝説の物語をリンチはどう料理したのか。
で、何故、この作品を「今」観なければならなかったのかと言いますと・・
来月、10月15日からリブートされた新作『DUNE/デューン 砂の惑星』の全国公開が予定されているからです。
さて、リンチによる1984年作品はいったいどんな映画であったのか、さっそく本編でございます。
映画の冒頭、銀河皇帝シャッダム四世(ホセ・ファーラー)の皇女イルーラン姫の独白から始まります。
「それは10,191年のことでした・・」(ええ~!?)
皇女イルーラン姫
まずこの最初の一言でブッ飛びます。近未来や、せいぜい100年先を舞台にしたSF小説は数あれど、そんな遠い未来を舞台にしてテクノロジーや社会を描き切れるのか?
「当時、最も貴重な物質は香料メランジ・・」
このメランジという香料は全宇宙の中で惑星アラキス(別名:砂の惑星デューン)でしか採掘することができない不老長寿の秘薬。
そして、摂取を続ければ新たな能力を覚醒させたり、宇宙を「折りたたんで」自分は動くことなしに他の宇宙空間へ超光速移動(ワープ)することができると言う・・うむぅ、そりゃ貴重だろうさ。
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砂嵐の砂漠を背景にしたクレジットが進行すると、今度は独白者が入れ替わり『宇宙ギルドの極秘報告』が。
「四惑星をめぐる陰謀がありメランジの生産が危ぶまれる。四惑星とは香料の生産地アラキス(デューン)、アトレイデ家のカラダン、ハルコネン家のギエディ・プライム、宇宙皇帝の本拠地カイテイン・・」
ここは画面に図解まで入っていて、実に丁寧な説明です。
宇宙皇帝シャッダム四世
どうやらこの冒頭部分は、映画を観る人に物語の世界観や背景を易しく説明してくれているようです。
すなわち・・この世界では一人の権力者が一つの惑星を支配し、その中で宇宙皇帝を筆頭とするヒエラルキーが形成されている。ただし「宇宙ギルド」は宇宙皇帝よりも上位の権力を持っていると。
そして、宇宙ギルドの使者が事の真偽を質すために宇宙皇帝シャッダム四世を訪れるところからストーリーが始まります。
ギルドの使者との謁見
ところが宇宙皇帝は、惑星アラキス(デューン)の香料生産を管理させるためアトレイデ家の当主レト・アトレイデス(ユルゲン・プロホノフ)に領事として赴任するよう命じたのは陰謀で、アトレイデ家と対立するハルコネン家に急襲させて滅ぼす事が狙いだ・・と簡単にゲロってしまう(笑)
その話に宇宙ギルドは動ずることなく「ならば、レト当主の息子ポウルは確実に殺せ」とけしかける。
そう・・レト当主と(妾の)修道女レディ・ジェシカの間に生まれたポウル・アトレイデス(カイル・マクラクラン)こそが本作の主人公。
ポウル・アトレイデス
彼が宇宙の秩序を揺るがすほどの能力を秘めていることを察知した皇帝と宇宙ギルドは自らの既得権益を死守するため、アトレイデ家ごと滅ぼそうという一蓮托生の関係にあったのです。
かくしてレト・アトレイデスは謀殺され、辛くも難を逃れた主人公ポウルと実母ジェシカの二人は見知らぬ砂の惑星を逃避行。
途中、デューンに生息する巨大な砂虫(サンドワーム)に追われながら、誰も足を踏み入れないとされた禁断の地「南極」で自由民フレメンらに遭遇。
ポウルとフレメン軍団
彼らと共に二年間の軍事訓練を行い、父の仇討ちと全銀河の抑圧された民衆のために立ち上がるのです。
さて、ポウルとジェシカの命運や如何に? 彼が秘めているという能力の正体とは? はたまた強大な皇帝軍を相手にした彼らの解放闘争は成功するのか?
全銀河の未来はポウルに託された!
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さて、「デューン」が映画化に漕ぎつけるまでには、様々な紆余曲折がありました。いや、小説「デューン」が世に出るまでにも・・。
原作者のフランク・ハーバート(1920年~1986年)は雑誌の編集者をする傍らで小説の執筆を開始。
6年間の膨大な調査と執筆期間を経て1965年に完成した「デューン 砂の惑星」は長大なSF小説でしたが、生態学をテーマにした初めてのSF小説であったため、多くの出版社が難色を示します。
フランク・ハーバート
最終的に12の出版社に拒絶され、ある出版社は「私は10年に一度の間違いを犯しているのかもしれないが・・」と前置きして拒絶したエピソードが残っています。
ところが13番目、フィラデルフィアの小さな出版社「Chilton」が刊行のオファーを受諾。
1965年に出版されるや、その年の「ネヴュラ賞長編小説部門賞」を受賞し、翌年にはヒューゴー賞も獲得。フランクは一躍SF界の新星として脚光を浴びることに。
この小説に注目した映画プロデューサーのアーサー・P・ジェイコブスが1971年に映画化権を取得したが制作開始前に本人が急死する。
ついで映画化権を買い取ったフランスの映画組合が『エル・トポ』のアレハンドロ・ホドロフスキーを起用し映画化に着手。
アレハンドロ・ホドロフスキー
この作品のために、シャッダム四世役にサルバドール・ダリ、ハルコネン男爵役にオーソン・ウェルズ、レト・アトレイデス公爵にデイヴィッド・キャラダインを配し、コスチュームデザインにジャン・ジロー、音楽にピンク・フロイドなど錚々たるメンバーが集結。
ところが完全主義者のホドロフスキーは、長大な原作を忠実に再現するために10時間の長編とすることを主張。
結果、この途方もない構想を支える財源の目途が付かず計画は頓挫します。
後の2013年、ホドロフスキーはこの制作過程をまとめた『ホドロフスキーのDUNE』を公開しました。
この時、特殊効果を担当していたダン・オバノンは、計画のお流れに落胆しながらも奮起して自作のSF脚本を書き上げ、後に『エイリアン』として発表する事になる。
『エイリアン』
しかる後、次に映画化権を買い取ったイタリアの映画制作者がリドリー・スコットを起用して映画化を図るもスコットが制作の遅れに業を煮やして降板。
次に白羽の矢を立てたのが、『イレイザーヘッド』(1976年)や『エレファントマン』(1980年)で注目を浴びていたデビッド・リンチだ。
デビッド・リンチ
リンチは、ジョージ・ルーカスから『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』の演出をオファーされていたのを断って『デューン』の監督に就任。
かくして1984年、"映画化不可能"という噂も立ち始めていた『デューン/砂の惑星』は、制作費120億円という空前のSF超大作が遂に日の目を浴びることになる。
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さて、映画の内容はどうであったか?
さすがにSFXは昔日の感を感じるが、当時の技術としては『スターウォーズ/新たなる希望』がそうであったように最先端のものだったでしょう。
それよりも異色を放っているのは、デビッド・リンチお得意の悪趣味感溢れる人物表現だ。その極めつけは銀河皇帝の手先となってアトレイデ家を襲撃するハルコネン男爵(ケネス・マクミラン)。
香料メランジの摂り過ぎで宙を浮いて移動する特殊能力を発現させたものの、身体は肥満し全身に膿疱が浮き出ている。
ハルコネン男爵
また、銀河ギルドの使者もまたメランジの副作用で怪物のような異形に変化している。
いくら不老不死とは言え、こんな人間でなくなってしまうのでは御免ですね(笑)
ストーリー展開はどうだったか?
主人公ポウルは自由民フレメンのリーダーの娘チャニ(ショー・ヤング)と恋に落ちて結婚。
チャニとポウル
やがて、謀殺されたレト・アトレイデスの子を宿していた母レディ・ジェシカは妹アリア(アリシア・ウィット)を出産。
アリアは異常に早く成長する娘で、母や兄同様「特殊な発声で相手を操る」能力を駆使して参戦。
仇側では、レト・アトレイデスを殺したハルコネン男爵の甥でポウルと同年代のフェイド(スティング)が登場・・など、次々と新たなキャラクターが出てきて・・さすが大河小説。
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しかし、人物像の掘り下げなどはいま一つで、駆け足でストーリーを追った感は否めない。
実は、デビッド・リンチが撮ったフィルムはリンチ自身が編集権を持たなかったため、制作側の判断で大幅に尺をカットされたのです。
この壮大な物語をスケールダウンさせダイジェストのような形にした判断は裏目に出て、興行的には惨憺たる結果に。
自分自身、この作品の映画化に失敗したホドロフスキーは「才能があるリンチがこんな駄作を作るはずがない。ハリウッドのスタジオ体制の犠牲になったのだ」と皮肉交じりに述べたという。
ただ、この映画が残したレガシーは大きいでしょう。
デューンの怪物サンドワームの造形は『風の谷のナウシカ』に影響を与え、異形のワープ・ナビゲーターの造形は劇画『ベルセルク』にも登場。
ナビゲーター
主演のポウルを演じたカイル・マクラクランは、以後、デビッド・リンチ監督映画の常連となり、次の『ブルーベルベット』やTVシリーズ『ツイン・ピークス』で大ブレイク。
レト・アトレイデの副官ガーニイを演じたパトリック・スチュワートは、後に『スター・トレック』のピカード船長役を射止める。
スチュワートは米国版『風の谷のナウシカ』でユパの声を担当した。
パトリック・スチュワート
若き日のスティングや『ブレードランナー』でレイチェルを演じたショー・ヤングの新たな魅力(フレメン族のチャニ)を発見することもできる。
と、まあ、デビッド・リンチの『デューン/砂の惑星』は残念な結果に終わった訳ですが、その伝説が『ブレードランナー 2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によって蘇えるのが10月15日公開の『DUNE/デューン 砂の惑星』です。
ラッシュを観るに、主演のポウルを演じるティモシー・シャラメは中々に魅力的なキャラクター。
ケイコと共に、公開日に観に行こうと心に決めました。
/// end of the “cinemaアラカルト269「デューン/砂の惑星」”///
(追伸)
岸波
原作者のフランク・ハーバートですが、デューン・シリーズ発表後の1974年、妻のビバリーは癌手術を行い、闘病生活を経て10年後の1984年に亡くなります。
デビッド・リンチの『デューン/砂の惑星』が公開されたのが同じ1984年。彼はこの映画をどんな想いで観たのでしょうか。
その2年後の1986年、デューン・シリーズの第六作目『デューン/砂丘の大聖堂』が発表されますが、後書きには亡くしたビバリーへの献辞が書かれています。
その2月、フランクはビバリーを追うように膵臓癌でこの世を去る。ビバリーへの想いが綴られた『デューン/砂丘の大聖堂』は彼の遺作となりました。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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新作「DUNE/デューン 砂の惑星」の主人公ポウル
(ティモシー・シャラメ)
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