こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
果たして彼らは
生きて帰れるか。
Amazonプライムで2018年日本公開(2016年制作)のロシア映画『サリュート7』を鑑賞いたしました。
しかし"日本公開"と言っても映画祭として東京渋谷で7回、大阪梅田で4回だけ特別上映されただけなので、劇場で観た方は限られるはず。
それで終わらすにはもったいないほど素晴らしい映画だったのです。
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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サリュートと言うのは1971年から旧ソ連が世界で初めて運用を開始した宇宙ステーションのシリーズ名。
そのうち1982年に打ち上げられた最後のサリュート7号が3年後に原因不明のシステム・ダウンし、これを修理するためにソユーズで宇宙飛行士が派遣されました。
そう・・今回の映画『サリュート7』は実話をベースにした物語。
さて、ハラハラドキドキのミッションの内容は如何に!?
映画の冒頭、宇宙ステーションの修理を行うため船外活動をしている男女の宇宙飛行士が。
「そのうち大気圏外のセックスとか実験するようになるんじゃない?」
「そのためのシュミレーターが作られたりして?」(笑)
などと冗談を言い合っていると「聞こえてるぞ。斬新な提案が聞けてうれしいよ」とバイコヌール宇宙基地から。(驚!)
ロシア映画というと、どこかこう陰鬱な雰囲気のものが多いですが、珍しく洒落たセリフから入ります。(うむぅ、これはぁ・・)
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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そういう軽いノリの映画なのかと思いきや、そこで事件発生。
船外補修で打ち込んでいたピンが女性飛行士の手袋を掠めて小さな穴が開いてしまうのです。
急激に空気圧が減少を始める危機的状況に、男性飛行士ウラジミール(ウラディミール・ヴドヴィチェンコフ)は冷静に対処し、彼女を船内に誘導するのですが、その最後の瞬間、背後の宇宙空間を振り返ると「信じられないもの」を見た様子で固まってしまう・・。
あれ? これはノリノリじゃなくエイリアン物!?
地球に帰還後「何が起こったのだ」と尋問を受けたウラジミールは、「光を見た・・あれは天使の形をしていた」と答え、幻覚による不適格者の烙印を押される。
以後、飛行資格を剥奪され、地上勤務で後進の教育指導に当たることに。
ウラジミール
そうこうするうち月日は流れ、冒頭で述べたサリュート7のシステム・ダウン事件が発生。あらゆる機能が停止したステーションはいつどこに落下するか分からない。
折しも米ソ冷戦のさなかで敵対中のアメリカがスペースシャトルを打ち上げ、サリュートの軍事機密を盗もうとしている情報がもたらされる。
ソ連指導部は機密を盗まれるくらいなら撃ち落とせと檄を飛ばし、自分たちの努力と技術の結晶を失うバイコヌール基地の現場技術者たちは大パニック。
ヴァレリー
バイコヌール基地の宇宙開発責任者ヴァレリー(アレクサンドル・サモイレンコ)は、緊急に補修チームを派遣することを決定するが、ここでまた難題が判明。
制御を失ったサリュート7は軌道上で回転を始めており、この状態で手動ドッキングするのは至難の業。熟練の飛行士たちにシュミレートさせるが誰も成功しない。
ヴァレリーはサリュート7の設計者であるヴィクトル(パーヴェル・デレヴィヤンコ)を派遣することにし、残りの人選を彼に一任することに。
ヴィクトル
折しもヴィクトルは親友のウラジミールと釣りの真っ最中。ヴァレリーが派遣した伝令から危急の報告を受ける。
・・ここで中々いいシーンが。
ウラジミール「まさか俺が呼ばれなくて嫉妬してると?」
ヴィクトル「・・否定はしない」
ウラジミール「お前は宇宙遊泳もしたことがない、ただの宇宙服の技師だろ」
(やっぱり嫉妬してるじゃん:笑)
普通ならここで喧嘩になってもおかしくない状況。だがヴィクトルは手に持ったグラスを掲げて一言・・「乾杯!」
・・ここでグッと来ました。実はヴィクトルは妻が臨月を迎えており、危険な任務はどうしても避けたい状況。
一方のウラジミールは、ソ連クルーの中で唯一手動ドッキングに成功した事のある宇宙の英雄。(今では地に堕ちた英雄だけれども・・)
本来なら誰よりも役目を買って出たいはず・・でも行くことはできない。
ヴィクトルはそんなウラジミールの心の葛藤を痛いほど知っていて、彼を傷つけまいとする・・だから小さくグラスを上げて一言だけ・・「乾杯」。うん、オトコだよヴィクトル!
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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結局、バイコヌール基地の飛行士たちは誰も手動ドッキング訓練に合格することができず、ヴィクトルの進言によってウラジミールと二人だけでミッションに向かう事に。
ミッションにどのくらいの期間を要するか分からず、酸素と食糧を積み込むために人数(通常最低三人)を減らさざるを得ないこと・・そして最高司令部の「失敗して犠牲になる場合、数が少ない方がいい」という鬼のような計らいによる(笑)
ともあれ、二人を乗せたソユーズが打ち上げられた後も急展開につぐ急展開、トラブル続出で息をもつかせぬサスペンス。
果たしてミッションは成功できるのか、そして二人の命運や如何に。
映画の性格が分からないままに見始めましたが、ここへきてようやく全貌が明らかになってまいりました。
これはロシア版『アポロ13』。実話をベースに、絶体絶命のピンチを機転と勇気と友情で乗り切る不可能ミッションテーマ。
しかし問題は・・ 何せロシア映画ですから”ハッピーエンド”とは限らない。そう・・ロシア映画ですから。(大事なところなので二度言った:笑)
それほどに二人は絶望的な状況にどんどん追い込まれて行くのです。
凍結したサリュート内での極寒の作業。時間が無い中での睡眠不足。遂にはソユーズの火災発生とヴィクトルの大火傷・・妄想に捉われ常軌を逸した行動まで。
極めつけは、火災による酸素不足で一名しか地球に帰還できない事が明らかになる。はたまた業を煮やしたソ連指導部は二人を乗せたままの撃墜命令・・など。
いやぁもう、手に汗握るというか握りっぱなしの状態です。(笑)
コレ「実話ベース」だよね? もしかしてバッド・エンディングなのに映画化しちゃったの・・ロシア映画だから? うわ~観るんじゃなかった・・などとあらぬところまで不安が広がる。
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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今、プライムビデオを見直しながらこれを書いているのですが、とにかく主演の三人、ウラジミールとヴィクトルと現場司令官のヴァレリーの演技が素晴らしい。
一番の佳境は、一人しか帰還させる事が出来ないことが分かって、その事実を個室から無線で告げるシーンでしょうか。
自らも宇宙の英雄であった司令官ヴァレリーは、宇宙開発のために失われてきた多くの同僚・部下のことを忘れない情に厚い親分。その彼が「一人、死んでくれ」という命令を出さざるを得ないのですから。
そしてその命令を聞くウラジミール・・ココはセリフを聞き直しても「どちらを帰還させる」のか判然としないのですが・・「船長が最後に脱出する」というセリフが前に出ていたので、ヴィクトルを犠牲にしろという流れだったでしょうか。
ただ、それを聞いたウラジミールはヴィクトルに「酸素不足でお前ひとりだけ帰還させるという指令だった」と告げます。「・・お前には間もなく子供が生まれる。必ず生きて帰れよ」ウラジミールは自ら犠牲になることを覚悟したのです。
しかしコレだけでは終わらない・・これを聞いたヴィクトルが喰ってかかる。
「もし俺だけ生き残ったとして、生まれて来た子供に、そしてお前の妻や娘に俺がどんな言い訳ができる!? 何て言えばいいんだ!」と・・。
自分の命より互いに相手を思い遣る二人・・泣けました。号泣です。てか、いま書きながら泣いてます。
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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どうです、凄い映画でしょう?
この作品が日本で拡大ロードショーされなかった事が残念です。
ところで、この決死のミッションで実際にサリュートへ向かった二人の飛行士の写真があります。名前はジャニベコフとサビヌイフ。
本当に二人だけの特例ミッションだったという事は、やはり今回の映画で明らかにされている「理由」が存在していたのかもしれません。
ジャニベコフとサビヌイフ
通常の飛行では、宇宙船とステーションの距離が20~25kmになると、ドッキング装置が作動して自動でドッキングしますが、サリュートが完全に「死んだ」状態なので、ソユーズから目視しながら手動で回転するドッキング穴を捉えるという非常に危険性の高いミッションでした。
映画では二度目に成功しますが、実際にはワンチャンスでこの手動ドッキングに成功しています。
また、二人が入ったサリュートの内部は電源を喪失していて真っ暗で気温もマイナス10度。生命維持装置は動かずテーブルの上には前のソユーズが残していったクラッカーと塩のタブレットが残されていたと言います。
これは、新しいクルーを迎えるためのロシアのしきたりです。
「宇宙兄弟」には離陸前にロケットを見上げながら立ちションをするという"しきたり"が書かれていましたっけ(笑)
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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映画では、一人だけ帰還する作戦を勝手に放棄し、二人が最後の力を合わせて船外に出て、サリュートの電源システムの回復に命を懸けることになります。
ここはもう力技です。二人は一昼夜、宇宙空間でハンマーを振るい続け、地上ではヴァレリーが、同じ状況を再現させたレプリカを叩き続けます。
三人の男たちの魂の共同作業。それはもう延々と・・観ているこちらも思わず拳を振ってしまいます。(疲れたなぁ:笑)
そしてラスト。感動のエンディングが待っています。
電源制御パネルを覆い隠していたカバー部品を力で吹き飛ばし、サリュートの再起動が始まったところでアメリカのエンデバーがランデブーして来ます。
彼らもまた同じ宇宙飛行士。船外で奮戦していた二人を見つけると、敬意を評して敬礼するのです。いや~ ココが一番泣けた。
互いに困難を知る船乗り同士の心意気ってやつでしょうか・・。
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サリュート7
(C)CTB Film Cie & Lemon Films
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『サリュート7』は、一時WOWWOWで放映されたりしましたが、後はレンタルで見るしかありません。
現在はAmazonプライムの無料ラインナップに入っていますが、その期間も4月末日まで。
タダで見るなら、今がチャンスですよ~!!
/// end of the “cinemaアラカルト247「サリュート7」”///
(追伸)
岸波
現実のミッションでは、太陽光システムを復旧しつつジャニベコフが110日間を宇宙で過ごし、迎えに来た次のソユーズで帰還し、技術者のサビヌイフはその後も滞在を続けました。
ということで最後の画像は、星の町に帰って来たジャベニコフが家族とともに歓迎を受けている実際の写真。
思えば月面着陸だけはアメリカの「ファーストマン」に先んじられましたが、宇宙を初めて飛んだのが旧ソ連のガガーリン。宇宙に初めて24時間滞在したのも旧ソ連のチトフ。そして、人類初の船外活動(宇宙遊泳)もまた旧ソ連のレオノフでした。
初めての宇宙ステーションの運営が軌道に乗るまでには、どれだけの困難と労苦があったことか。
その一端をこの映画で垣間見たような気がします。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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バイコヌールに帰還して歓迎を受けるジャベニコフ(右端)
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To
be continued⇒ “cinemaアラカルト248” coming
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