こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
騙し合いバトル、開幕!
ウソを見破り、ウラを暴け。
今回こそ『新・エヴァ』を観たかったのですが、またもケイコの強烈なオシに負け、大泉洋に「あてがき」されたというストーリー『騙し絵の牙』の方を観て参りました。
「とにかく、みんな嘘ついてるんだから!」
うむぅ・・ソレってそんなに面白いこと?・・とは思いながら(笑)
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騙し絵の牙
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会
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本来ならば昨年の6月に封切り予定だったこの作品、コロナ禍のために上映日が延期となり9か月遅れの公開となりました。
キャストは主演の大泉洋はじめ松岡茉優、佐藤浩市、國村隼、リリー・フランキー、木村佳乃、斎藤工などキラ星の如く。
監督は『桐島、部活やめるってよ』で第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した吉田大八。
さて、満を持したその内容は如何に!?
映画の冒頭、「将軍」と呼ばれる大物ミステリー作家二階堂大作(國村隼)のデビュー40周年記念パーティで、二階堂からコメントの無茶振りをされたのは、文芸出身ではあるものの現在はカルチャー誌「トリニティ」の編集長を務めている速水(大泉洋)。
大手出版「薫風社」の中で、はっきり言って「トリニティ」は亜流。会場がざわつく中で、速水は当意即妙なユーモアを交え、会場を笑いの渦に包む。
うん、この男、只モノでは無い。
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「将軍」二階堂大作(国村隼):中央
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会
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この「騙し絵の牙」は、グリコ・森永事件をモチーフにした「罪の声」(2016年)で第7回山田風太郎賞や週刊文春ミステリーベスト10で国内部門一位を獲得した塩田武士が、大泉洋を主人公として「あてがき」した小説として知られます。
しかあしっ!!
メガホンを取った吉田大八は脚本制作にあたり「原作を一度バラバラにして映画用に再構築」しており、原作とはなかり違った内容になっています。
原作で主要な役割を担った速水と同期の小山内甫は登場しないし、速水(大泉洋)とその右腕編集者高野恵(松岡茉優)は原作では"不倫関係"にあったけれども、そんなエピソードはおくびにも出てこない(笑)
最も異なるのは、主人公速水というキャラクターから敢えて「あてがき」された大泉洋要素を排除したこと。(ええ~!)
大泉自身、映画.comのインタビューで『(原作で当て書きされていたのに)私が出た映画の中で一番、私っぽくなかった』と感想を述べています。(笑)
さて物語は、大手出版「薫風社」が舞台。その社長が急逝し、専務の東松(佐藤浩市)が新社長に就任。ライバルと目された社長の息子伊庭惟高(中村倫也)はアメリカに飛ばされる。
東松新社長は社内の大改革に着手し、伝統にあぐらをかいて赤字を垂れ流す文芸誌「小説薫風」やネットに押されて売り上げの減少が続くエンタメ・情報誌の「月刊トリニティ」などの廃刊を画策します。
その情報を聞きつけた編集長の速水が、ありとあらゆる手段を講じて「トリニティ」の廃刊を阻止しようと活躍する・・というストーリー。
ん?コレって本当に騙し合いの「コン・ゲーム」もの?
話は横道に逸れますが、ファッション誌の編集長を務めていたカリスマ彰は、かつて『ファッションの達人!』で「紙からWebに挑戦状」というタイトルの記事を上程したところ。
元記事が書かれたのはおそらく2005年頃ではなかったかと思います。
出版業界のピークは1990年代末で、インターネットが広まるにつれ、業績は一貫して右肩下がりの衰退路線です。
ピークの1996年に2兆6563億円あった市場規模が2017年までに半減。
「ファッションの達人!」#17
やはり、出版好況を支えた週刊漫画誌をはじめとする雑誌類が売れなくなっていることが原因でしょう。
一方で電子書籍の売り上げは増加傾向ですが、残念ながら紙・電子を合せてもトータルではジリ貧です。
つまり「薫風社」の置かれている状況は現在の出版業界が直面しているリアルな課題。どこの出版社でも同じようなリストラ・・あるいは廃業が現実の問題となっているのです。
もはや「騙し合い」がどうこうで小さなパイの分捕り合戦をやっている場合ではなく、主人公の編集長速水がどんな打開策を繰り出すのか・・興味はそこに絞られてきます。
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騙し絵の牙
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会
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速水の基本戦略は「話題作り」。
まずは、人気モデルの城島咲(池田エライザ)がミリタリー・マニアであることを突き止め、「トリニティ」誌上で作家デビューをさせる。
次に、「小説薫風」の新人賞に『バイバイするとちょっと死ぬ』で応募しながら文芸誌の保守的な姿勢から落選となっていた矢代聖(宮沢氷魚)の才能を見出し、新進気鋭のイケメン作家としてデビューさせる。
矢代のイケメンを利用して雑誌のモデルとしても採用し、挙句は矢代と城島咲の偽恋バナをリークしてゴシップ記事をどんどん広める・・といった具合。
城島咲と矢代聖
一方で編集者の高野恵(松岡茉優)は、一世を風靡したベストセラー作家でありながら煙のように姿をくらましてしまった謎の大御所(リリー・フランキー)の行方を追い、連載を獲得しようとする。
大御所(リリー・フランキー)
そうした努力により「トリニティ」は息を吹き返すかに見えましたが、好事魔多し。
ストーカーに付け狙われた城島咲(池田エライザ)が自宅まで踏み込まれ、隠し持っていた3Dプリンター製の銃で対抗する発砲事件が起きてしまう。
はたまたイケメン作家の矢代聖(宮沢氷魚)は、同社の宮藤常務(佐野史郎)が率いる「小説薫風」に引き抜かれてしまう・・などなど。
果たして速水は幾多の難関を乗り切り「トリニティ」の廃刊を阻止する事ができるのか? ・・とまあ、そんな流れになっています。
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騙し絵の牙
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会
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ところで、この作品の封切り前、「全員クセモノ」・「騙し合いバトル」・「大逆転の奇策」など派手なキャッチコピーで煽っていました。
だがこれは観客をミスリードするものではなかったか、という想いがあります。
実際、「全員クセモノ」なのかと言えばそんなことは無く、速水に対抗した宮藤常務(佐野史郎)は先代社長が大切にした「文芸路線」を守ろうとしただけだったし、トリニティの廃刊を画策する新社長東松(佐藤浩市)は先代社長の夢であった自前の配送センター設立「KIBAプロジェクト」の実現のために必要な方策(赤字誌の廃刊)を取ろうとしただけ。
高野恵(松岡茉優)
速水の下で活躍する編集者恵(松岡茉優)が最終的に速水のもとを去り、実家の小書店の復興に人生をかけることにしたのも決して裏切りでも騙しでもないはず。
読んでいない原作での設定は分かりませんが、こと映画に限れば速水が一方的に策を仕掛けたようにしか見えません。
その意味では「大逆転の奇策」だけは正しいコピーだと思います。
「全員クセモノ」や「騙し合いバトル」はコン・ゲームもの・・例えば『コンフィデンスマンJP』のような作品に使うべき言葉で、今回の作品に適切だったとは思いません。
過去にも不用意なキャッチコピーや予告編が映画そのものを台無しにしているケースを上げてきましたが、今回も釈然としないものが残りました。
一例:#20「ステルス」
映画の後半では『バイバイするとちょっと死ぬ』の作家が実は矢代聖(宮沢氷魚)ではなく、謎の大御所(リリー・フランキー)であったというサプライズが用意されています。
しかしそこから先、ストーリーが無理筋のような気がして共感できません。
最終的に速水の真の目的が社長東松(佐藤浩市)が進めようとしている「KIBA計画」を阻止し、前社長の息子伊庭惟高(中村倫也)を社長に迎え入れる事だったというのは唐突だし、それなら他にいくらでも手段があったと感じるからです。
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騙し絵の牙
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会
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それにも増して苦い思いが残るのは、もし現実に速水のような「話題作り」の方法で業績の回復を実現できたとしても一過性のものに過ぎず、『紙』媒体の出版は決して『夢よもう一度』に繋がらないと思えるのです。
この辺り・・かつて「紙からWebに挑戦状」を書いたカリスマ彰なら、当事者として否定せざるを得ないのではないか?
まあ、そんなワケで、良くできた裏切りのストーリーではあるけれど、根本的なところでファンタジーではなかったか。
うむぅ・・久々に辛口の評価となってしまいました。残念!
/// end of the “cinemaアラカルト245「騙し絵の牙」”///
(追伸)
岸波
あれこれ突っ込んでしまいましたが、終盤の奇策・・「将軍」二階堂大作(國村隼)を味方に引き入れ、彼の往年の名ミステリーを原作として漫画で蘇らせるというアイディアには感心しました(笑)
一方で、(電子媒体を含めても)出版物が売れない、まして(鬼滅の刃のようなモンスターは別として)単行本も売れない、文芸誌・小説誌のマーケットがどんどん縮小する中で、「芥川賞」・「直木賞」のような文芸賞の価値自体もかつてとは違ってくるのではないか・・そんな淋しい想いに捉われます。
この映画の関連では「KIBA計画」と名づけられた意味とか、キャストの演技についてとか、いろいろ小ネタはあったのですが、上に書いた通り「根本のところで共感できない」ので、省略してしまいました。
ん・・待てよ?
これってもしかして「《岸波版》絶対に観てはいけないシリーズ」と銘打っておけば良かったか!?
しまった~!!(汗)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !
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