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「AUTUMN」(Music Material)
by 岸波(葉羽)【配信2021.2.21】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 ミッション
 <時間>から脱出せよ。

 こちらは昨年公開されたクリストファー・ノーラン監督の最新作「NETET テネット」のキャッチコピー。

 今このcinemaアラカルトではカリスマ彰の『絶対に観てはいけない駄作シリーズ』がアツい(笑)のですが、その中に同監督の「ダークナイト」や「ダンケルク」など興行的にも成功し、評価も高い作品が取り上げられています。

 あまり一方的に「能無し監督」と決めつけるのもナンなので、ちょっと僕からも書いておこうかと。

TENET テネット

(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 クリストファー・ノーラン・・確かに異色の監督ではあります。アカデミー賞も多数受賞する一方、嫌いな人間からは徹底的に嫌われている。

 その原因は、彼が非日常の事柄を非日常の撮り方をしているところにあるのではないでしょうか。

 ま、簡単に言うと『分かりずらい』という事ですが(笑)

 ともあれ、さっそく行ってみましょう。

 イングランド人でコピーライターの父とアメリカ人の客室乗務員の母の間に生まれた彼は、ロンドン大学英文学科に入学すると短編映画の制作に着手します。

 なぜ映画製作を専攻せず英文学の道を選んだかについては「視点を広げるため」としており、この「視点を広げる」という考え方が彼の映画製作に通底しているように感じられます。

1.「メメント」(2017年 クリストファー・ノーラン監督 1時間53分)

 10分前、俺は何をした?

 最初の長編映画は1998年の「フォロウィング」、そして二作目があの怪作「メメント」(2000年)でした。

メメント

(C)2000 I REMEMBER PRODUCTIONS,LLC

「メメント」の主人公は、身体中に「メモ」の入れ墨をした男。何故、そんな事をしているかと言えば、彼は強盗に襲われて妻をレイプ・殺害され、自らは頭部に損傷を負ったため、"新しい記憶は10分しか持たない"ので、真犯人に復讐を遂げるため、重要な事を忘れないよう入れ墨でメモを残しているのです。

 うん、これだけで十分に「非日常」。そんじょそこらには居そうもないキャラクター。でも、この映画の「非日常」性はそこではありません。

 なんとこの「メメント」、最近の10分間の出来事から"時間を遡って"ストーリーが進行するのです。

 たぶんコレだけで、カリスマ彰はちゃぶ台をひっくり返すのではありますまいか(笑)

 ミステリ&シネマ・パラダイスのPie造さんは「メメント」について、こう書いています。

Jack Pie造 ミステリ&シネマ・パラダイス#830『メメント』(Memento)

 この作品には痺れた。釘付けになるとはこの事だと言わんばかりに引き込まれた。クリストファーノーラン の作品は、いつも手が込んでいるが、やはり凄い監督だと思う。余韻半端ない。デビットボウイの曲がハマる。

 つまり、そういう事。初見で映画を見ると『何が起きているか分からない』状況に放り込まれるのです。

 こういう人気漫画、思い出しませんか? そう・・荒木飛呂彦の大ヒット作「ジョジョ・シリーズ」です。

 いったい『何が起きているか分からない』ワクワク感・ドキドキ感を求める人にとってはたまらない好物なのですよ。

 そして、それを演出するためにノーラン監督は『時』を操るのです。

この辺りも、時を操るスタンド使い「ディオ」を彷彿させる。

ディオ@ジョジョの奇妙な冒険

2.「TENET テネット」(2017年 クリストファー・ノーラン監督 2時間31分)

 これは極秘任務だ

 で、最新作の「TENET テネット」ですが、これも「時間の逆流」がテーマ。

 未来から"時を逆流させる装置"「アルゴリズム」が9つのパーツに分けて現在に送り込まれており、それを完成させて世界全体の時を逆流させるのが悪のラスボスの目的。

 つまり、順行の時間軸と逆行の時間軸で世界を衝突させ、まもなく尽きる自分の寿命の道連れにしようとしているのです。

 それを阻止しようと奮闘するのが主人公の「名も無き男」(ジョン・デヴィッド・ワシントン)というお話です。

TENET テネット

(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 実は、先の「メメント」も同じプロットが別の形で用いられています。

 10分ごとの逆行時間のシーンがカラーのシークエンス、事件の出発点から順行時間のシーンがモノクロのシークエンスで撮影されており、ラストシーンで二つの流れが繋がるのです。

 この二作品は、対象が個人から世界へ広がっていますが、実際はワン・アイディアではないでしょうか。

「メメント」と「テネット」というタイトルも韻を踏んでるし(笑)

3.「ダンケルク」(2017年 クリストファー・ノーラン監督 1時間46分)

 35万の兵士を救った
 第2次世界大戦最大の奇跡の実話

 もう一つ、「時を操って」いるのがカリスマ彰が酷評した「ダンケルク」。この映画では、陸・海・空の切り離された三人の視点で映画が撮影されています。

「陸」の視点は主人公の一人トミーが敵から撤退しながら味方の救援を待つ一週間の物語。

「海」の視点は、別の主人公ドーソンが民間船で救援に向かう一日の物語。

「空」の視点は、三番目の主人公ファリアが非難兵に襲い掛かるドイツ空軍を迎撃する一時間の物語。

 そして、この三つは映画終盤で一つに収束するのです。

ダンケルク

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

 台本には殆どセリフが存在せず、彼らの行動をもってのみサスペンスが描かれるため、否定派であるタイムズ紙のケビン・マーハーは「他の戦争映画と比較してビデオゲームのようだ。最も重要な要素であるドラマを提供することを無視している」と評しました。

 後にノーランは自らの考えを明らかにし「キャラクターへの共感は彼らのストーリーとは無関係だ。私は台詞を通して自分のキャラクターのストーリーを伝えたくなかった」と表明しています。

 多くの戦争映画は、戦争のさ中に放り込まれた個人のドラマを通して悲惨さや教訓といったものを描きますが、ノーランは真逆の方法論で戦争そのものの不条理を描きたかったのでしょう。

4.「インセプション」(2010年 クリストファー・ノーラン監督 2時間28分)

 お前の頭へ侵入する。

 さて「時を操る」といえば、もう一作「インセプション」があります。

 主人公ドム・コブ(レオナード・ディカプリオ)のチームは、ターゲットの夢の世界にチームごと潜り込み、相手の深層心理に新たな記憶や意志を埋め込んで行動を操ることを生業にしています。

 ここでターゲットの深層心理が強く拒否反応を示したり防御行動をとる場合は、夢の中でさらに眠らせて第二階層の深層心理を標的にするのです。

インセプション

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

 しかし、今回のターゲットは「夢使い」を防ぐ訓練を受けているため、さらに第三階層、第四階層へと潜航するのを余儀なくされます。こうなると、何らかのアクシデントで戻ってこれない(精神が破壊される)リスクもあり、ある意味命がけの作戦となるのです。

 さて、この「夢潜り」の設定ですが、第一階層の数秒間は第二階層の数分間、第三階層では数時間というように時間の経過が異なります。

 実際、第一階層で車ごと橋から落とされ、それが水面に激突する数秒間のうちに第二階層へ潜り、そこでも時間が無くなってどんどん深く潜ることを余儀なくされます。

 ホラ、これって「ダンケルク」の複数の時間軸と共通すると思いませんか?

 この何層もの時間軸のドラマが『同時に』展開されるので、SF設定に慣れていない向きは途方に暮れることでしょう。

 このように、クリストファー・ノーラン監督のストーリーメイキングは極めて斬新なものであるために、そこを楽しめるSFファンでないと置いてきぼりを食らうのです。

5.「インターステラー」(2014年 クリストファー・ノーラン監督 2時間49分)

 必ず、帰ってくる。
 それは宇宙を超えた父娘の約束ーー。

 彼のもう一つの代表作「インター・ステラ―」ではどうか?

 この作品で人類は、環境破壊によって末期症状に陥った地球を捨て、別の銀河系に移住するため、土星近傍に発見されたワームホールを潜り抜けて12名の先遣隊がそれぞれ別の地球型惑星の探査に向かっています。

 そのうち3名から居住可能の信号が届き、その確認のため主人公の宇宙飛行士 ジョセフ・クーパー(マシュー・マコノヒー)ら4名のチームが旅立ちます。

インターステラー

(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 その一つ水の惑星は、巨大ブラックホールの近傍にあり、惑星での1時間は地球の7年間に相当することから、地球に家族を残しているクーパーは着陸に躊躇・・とここで時間問題が出てきます。

 まあ、この惑星での天を覆う巨大津波など目を見張るスペクタクル・シーンなどもあるのですが、さらに話を進めますと、結局、クーパーは地球への帰還を断念し、ブラックホール内側の四次元世界に迷い込み、時空を超えて地球の娘に通信を試みる事になるのです。

 僕が驚いたのは、映画の中で四次元世界を『可視化』していること。

 地球上の我が家の書斎が時間軸に沿って無限に連なるシーンは、SF大好きの僕をうっとりさせるのに十分な迫力でした。

 こうしてみると「時間を操る」のはノーランの手法の一つに過ぎず、究極、「非日常の世界」を映像化してみせるのが彼の狙いではないかと思うのです。

 余談ですが、「インターステラー」の科学コンサルタントを務めた物理学者のキップ・ソーンは後に2017年、重力波検出装置の構築及び重力波発見への決定的な貢献でノーベル賞を受賞しました。

物理学者キップ・ソーン

 もちろん付加されたフィクションの部分もありますが、しっかりと科学的知見に立脚したシナリオができたのは彼の貢献と言えるでしょう。

インターステラー

(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 そんなノーラン監督、以外にもインターネットやCGなど先端技術が嫌いな事でも知られています。

「TENET テネット」でボーイング747を倉庫に激突させるシーンではCGを用いず実際の機材を突入させたり、「インターステラー」で地球を俯瞰するシーンでジェット機の先端にカメラを装着して成層圏からの画像を撮ったり、「ダークナイト」のビル爆発シーンでも実際のビルを破壊したり・・という具合。

 インターネットから得た断片的な知識より書物からの体系的な知識を尊重すべきとして、極力、映画の中では携帯電話やPCを用いません。

 今は常識となっているデジタル撮影も彼の好みではなく、常にフィルムカメラの横に立って現場を指揮し、コダック社と将来にわたる大量のフィルム供給契約を締結したことで、コダック社がフィルム製造を継続することが可能になったのは有名な話。

 また一方で「音」についてはかなりの拘りがあり、彼の映画はほぼ全編「無限音階」による挿入曲が使われています。

 そう言えば、ネットには「TENET テネット」の挿入曲がすべて逆廻しで演奏されているバージョンもリリースされていて、それを聴いてぶっ飛びました(笑)

 とにかく破天荒で「観客を選ぶ」作家なのです。

 ただ幸運なのは、そうしたシークエンスを理解できなくとも、目の前に繰り広げられる映像美で観客を魅了できることでしょう。

 興行収入の面からみると、「ダークナイト」が全米興収歴代二位の大ヒット、「インセプション」(2010年)、「インターステラー」(2014年)、「ダンケルク」(2017年)のいずれもが全米興収1億8000万ドル超のヒットとなっており、アカデミー賞複数部門ノミネート・受賞となるなど、稀代のヒットメーカーの一人であることは間違いありません。

 というワケで、クリストファー・ノーランは、時間を操り「非日常の世界」を撮り続けるクセの強い監督ですが、コアなSFファンにとっては掛け替えのない存在であり、興行的にも成功している名クリエイターの一人と言えましょう。

 

/// end of the “cinemaアラカルト239「クリストファー・ノーランとは何者か?”///

 

(追伸)

岸波

 クリストファー・ノーラン監督のラインナップは、ここで取り上げた「メメント」以下のSFサスペンス作品の流れのほかダークナイト・トリロジー、「マン・オブ・スティール」、「バットマンvsスーパーマン/ジャスティスの誕生」、「ジャスティス・リーグ」などのアメコミ物があります。

 僕はあまりアメコミ物は好きではないので(観てはいますが)論評は控えます。

 そうそう、ノーラン監督は「いつかボンド映画を監督したい」とも言っていますので彼が撮った007を観てみたいような・・いや、全然別モノになりそうでちょっと怖いような(笑)

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

TENET テネット

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト240” coming soon!

 

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