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「Dark Forest」(佑樹のMusic-Room)
by 岸波(葉羽)【配信2019.6.2】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 すべてを賭ける
 夢はあるか

 長らくお待たせをいたしました。「書こうと思いながら書けなかった主要映画」の棚卸し…その最終回は山崎賢人が主演する「キングダム」でございます。

 しかしあしっ!

 4月19日に封切られたこの超大作、興収50億を超え、6月2日の本日に至ってもまだまだ大好評ロングラン中。あらららら・・。

キングダム

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 原泰久原作のコミック「キングダム」は週刊ヤングジャンプ連載中で、これまで単行本54巻が発行され、売上累計が3300万部(49巻発行時点)、第17回手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した超人気作品。

 昨年春、第50巻発行を記念して映画化が発表されました。僕ですか?もちろん全巻欠かさず揃えておりますとも♪

 このコミックは息子の拓郎が珍しく強押しで薦めて来まして、最初に古本屋で10巻あたりの2~3巻を購入したのが運の尽き。

 たちまちドハマりいたしまして、現在に至るまで新刊の発行を心待ちにしている「キングダム」フリークとなってしまったのです。

 それが実写映画化されると聞き及び、どんだけ公開の日を待ちわびた事か。

 さて、その出来ばえや如何に!?

 

 映画の冒頭で、戦国の七雄が割拠する春秋戦国時代末期の時代背景が説明された後、早速、森の中で剣技を交わす二人の少年の姿が。

 この二人は奴隷の身分である信(山﨑賢人)と漂(吉沢亮)。

 少年たちはかつて垣間見た秦国の大将軍王騎(大沢たかお)に憧れ、「いつか大将軍になる」という大志を抱いて鍛錬に励んでいました。

キングダム(信:山﨑賢人)

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 そんな二人の姿を遠くから見つめる人物が。それは秦王政の側近である昌文君(髙嶋政宏)。

 彼は二人の雇い主の元を訪れ、宮廷に仕えさせるために漂(吉沢亮)を身請けしたいと申し出る。

昌文君(髙嶋政宏)

 別離を惜しみながらも親友漂を送り出した信。そして一月後、そんな信の元へ息も絶え絶えとなった血まみれの漂が帰ってくる。

 聞けば王宮で王弟セイキョウ(本郷奏多)の反乱が勃発し巻き込まれたと。漂は一枚の地図を示し「これをお前に渡しに来たんだ。ここへ向かってくれ。いいな信、託したぞ!」と…。

「二人で大将軍になるって言ったじゃないか!」と動揺する信に、漂は苦しい息の下から「お前が羽ばたけば俺もそこにいる。俺を天下に連れて行ってくれ。」と絞り出して息絶えます。

漂(吉沢亮)

 漂から託された地図と宝剣を携え、地図が示す黒卑村へ急ぐ途中、ゴロツキたちに絡まれる信。そしてそれを見つめるフクロウの姿をした異形の人物。

 ゴロツキらを始末した信が約束の場所に到達すると、そこに居たのは…漂!?

 実は、その人物こそ王弟セイキョウ(本郷奏多)の反乱から逃れてきた秦王政(吉沢亮:二役)だったのです。

 さらにそこへ反乱軍の刺客朱凶(深水元基)が追い付いてくる。この朱凶こそ親友漂を手にかけた暗殺者でした。

 信は対決を挑むことになります…。

朱凶(深水元基)

 苦戦の末、朱凶を倒した信と政に謎のフクロウ装束が話しかけてきます。

 被り物を取ったその正体は異民族の少女河了貂(橋本環奈)。二人へ道案内の協力を申し出ます。

河了貂(橋本環奈)

 信と政、そして河了貂の三人は行動を共にすることになり、やがて救援に駆け付けた側近昌文君(髙嶋政宏)らの敗残兵とともに、かつて修好関係を結んでいた山の民の協力を求めるべく旅立つのですが…。

山の民の女王:楊端和(長澤まさみ)

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 今回の映画「キングダム」は、現在54巻まで進行中のうち1巻から5巻途中までのエピソード。

 実際、実写映画化の話を聞いた時には、原作があまりにも壮大なため「どの辺まで扱うのだろう?」という素朴な疑問が。

 仮に営業成績の結果「続編」が制作されるとすると、キャストの年齢的な成長も考えれば、10巻程度は消化しておきたいと考えますよね?

 しかし制作者は、敢えて序盤のエピソードである「王弟反乱編」までに留めたようです。

 確かにエピソードを広げれば人物像の掘り下げが難しく、散漫な進行になってしまったでしょう。

 映画化第一作をここで止めたことは、結果、大成功だったと思います。

王弟セイキョウの反乱

 それにしても山﨑賢人クン、見事に信を演じてくれました。本当は映画を観るまでは、彼には難しい役なのではないかと思っていました。

 というのも、彼は実にいい役者さんなのですが、マスクが甘すぎるところがあるからです。

 まあ「性格がいい」というところから来ているのですが、役者としてはそれが幅を狭める欠点になりかねないぞと。

 「ジョジョの奇妙な冒険/ダイヤモンドは砕けない 第一章」を観た時も、ジョジョになり切った素晴らしい演技…だとは思ったのですが、東方仗助のある意味の「冷たさ」を表現するのに彼の「優しさ」が邪魔をしている。

 そして何よりもコミックの東方仗助に比べて体格が丸すぎる。シャープさが足りないのです。

 ところがっ!

信(山﨑賢人)

 今回、山﨑賢人クンは野生児:信の役作りのために10キロの減量をして臨んで来たのです。しかも、より筋肉質になっている。

 さらに、肉体ばかりでなく精神面でも信に近づこうと努力し、演技に磨きをかけて来ている。

 そう感じたのは、漂が死んだ後、秦王政に出会ったシーンで、”この王を助けることが漂から託された最後の望み”という事を理解しながらも、”影武者として身代わりに漂を死なせたこの男を決して許すことができない”という相反する感情を表現した演技。…これって難しいですよ、とても。

信(山﨑賢人)

 怒りと悲しみと…そこに山﨑賢人クンは、さらに笑いを加えてきた。まるで自分自身の運命をあざ笑うかのような哀しみの笑いを。

 素晴らしい! これは原作にも無い演出です。まさに原作超え。

 絶望に苛まれ、それでも使命を果たさねばならぬ時、男はやはり”笑う”しかないと僕は思うのです。

 それは佐藤信介監督の指示であったのか、いや、きっと彼自身が考え抜いた結論だったに違いない。

 よほど真剣に演技に向き合ってこなければとうてい到達できなかった境地だと僕は思います。

キングダム(信:山﨑賢人)

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 また、特筆されるのは、原作のキャラクターとキャストがとにかく瓜二つということ。

 上の何人かの写真でもお分かりのように、原作を知る者にとっては驚くほど原作そっくりのキャスティング。ファンも納得の人選です。

 これほど原作キャラに寄せたキャスティングと言えば「20世紀少年」以来ではないでしょうか。

 後に信軍の大軍師となる河了貂役の橋本環奈は、映画「銀魂」で”変顔上等!”のヒロイン神楽役を見ていただけに「えええ~!」と驚いたものですが、いざ映画に登場してみれば、澄んだ真っすぐな眼差し…河了貂のイメージそのもの。脱帽です。

河了貂(橋本環奈)

 また「この役者を見つけるのは難しいだろう」と訝っていたのが、山の女王楊端和と秦の大将軍王騎のキャラ。

 楊端和は歴史上では男性ですが、原作では「女王」という設定で、気性の荒い山の民の各部族を統一した超豪傑…だけども誰もが憧れる超美人というトンデモナイ女傑キャラ。

陽端和(長澤まさみ)

 それがまさかの長澤まさみ。もし「コンフィデンスマンJP」を観た後なら「えええ~!」となっていたところ(笑)

 …でしょうが、こちらを先に観たので、楊端和役のハマリ具合に感動。いやむしろ、少し惚れちゃったかも。あはははは!

 また一方の王騎大将軍ですが、原作では凄いクセ者。人格高潔・思慮深い名将なのですけれど、とにかく見た目が異様。

原作の王騎大将軍

 唇厚く「ンッフ~ン」というオカマ言葉らしき口癖がある怪人物で、どちらかと言えば…そうですね…マツコ・デラックスみたいな見かけ(大笑)

 それが…やってくれました大沢たかお。しかも、映画のために17キロも増量して!すっかり王騎になっちゃってます。凄いですね、俳優さんというのは。

王騎大将軍(大沢たかお)

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 主人公:信のモデルは後の「秦の将軍李信」であることがコミック第1巻の最初のページに示されています。

 『史記』の王翦列伝によれば、李信は秦王政に仕え、歴戦の武功を買われて将軍にまで上り詰め、中国統一戦の最前線を担った武将の一人。

 将軍蒙恬とともに大国楚を攻めて大敗するのですが、その後も粛清を受けずに秦に仕え続けているなど、秦王政の厚い信任があったことを窺わせます。

 また後年、宋の時代に編纂された『新唐書』の「宗室世系表」によれば、李信の祖先は何とあの老子(李耳)。

老子(李耳)

 李信の子・李超は漢の大将軍で、さらにその子孫は、五胡十六国次代の西涼の李暠へと続き、唐の高祖李淵もその系譜だとか。(詩人李白も李暠の9世の子孫。)

 子孫が唐王朝を開いたなんて、実はトンデモナイ人物だったんじゃないかと思われますが、何せ出典は宋代の史料。疑問符が付いています。

 ただ逆に考えれば、唐の宗室を粉飾する目的で李信の系図が使われたというあたり…やはり只者ではありません。

 評伝が存在せず謎の多い李信将軍…この人物を敢えて主人公に据えた原作者原泰久の慧眼もまた素晴らしい。

 何となれば、史実の制約を最小限に、ストーリーを膨らませることができるのですから。

陽端和の軍勢

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 さて映画の進行ですが、山の女王楊端和の協力を取り付けた政らは、山の民とセイキョウ支配下の秦とで盟約を結ぶと偽り、軍に紛れて王宮に侵入します。

 入り口で人数を制限され、多勢に無勢のまま攻撃に打って出た政や陽端和の正面軍は苦戦を強いられますが、抜け道を通って玉座のセイキョウを目指した信ら別動隊の活躍により、セイキョウや竭丞相(石橋蓮司)など首謀者達は追い詰められます。

 そこに立ちはだかったのが不死身の巨漢ランカイと元・将軍の左慈(坂口拓)。

 いやぁ、この左慈…映画独自設定のラスボス・キャラですが、その強いのなんの。一騎当千のバジオウら山の民の精鋭が全く歯が立ちません。

左慈(坂口拓)

 この左慈もそう、最初の刺客朱凶もそうですが、この映画には非常に魅力的な悪役が登場します。

 最初、恐ろし気な仮面を被って登場し、後から仲間になる陽端和ら山の民もまたある意味そうでしょう。

 ”魅力ある悪役”…これはストーリーを面白くするうえで大切な要素かもしれませんね。

 また、反乱を企てる王弟セイキョウは、この上なく憎たらしいキャラ。それを演じている本郷奏多クンは、まさにはまり役。憎たらしさ倍増です(笑)

王弟セイキョウ(本郷奏多)

 ただ、この王弟反乱編では悪のシンボル的なセイキョウですが、後の呂不韋対決編では改心して味方となり、我が身を犠牲に政を守って死んでいくのです。

 是非、改心後のセイキョウを演じる本郷奏多クンも見てみたいと思います。

キングダム(秦王政:吉沢亮)

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

 信が強敵左慈を倒し、反乱の糸を引いていた丞相竭氏(石橋蓮司)の首を取り、自軍の元に逃げるセイキョウ(本郷奏多)を政&陽端和の部隊と挟み撃ちに追い詰めたところで急展開!

 突如、城内に大将軍王騎(大沢たかお)の軍勢がなだれ込んで来たのです。

 さて、いったい彼らは敵か味方か!?

 原作者の作家原泰久は「キングダム」第54巻の末尾に収録された「20,000字インタビュー」の中で、子供の頃は映画監督になりたかったという夢を語っています。

 そんな彼が紆余曲折あってコミック作家となり、「キングダム」を連載して13年目、実写化の脚本にも関与することになり、さぞ万感極まる思いがあったことでしょう。

 興行的にも大成功を収めるのは確実となり、早速、続編の話もチラホラと…。

 映画「キングダム」は、原作者原泰久同様、コミックのファンにとっても納得の作品となったのではないでしょうか。

 

/// end of the “cinemaアラカルト219「キングダム”///

 

(追伸)

岸波

 映画冒頭の信と漂の剣技シーンは実に見事な殺陣で驚愕。精悍な信を演じるために10キロの減量を行い、剣技の訓練をしたという山﨑賢人クンの苦労が実っていますね。

 でも僕… 実はこの信の相手、親友の漂ではなくて、後に信の右腕となる副長羌瘣(きょうかい)だと勘違いしていたのです。

 信と羌瘣(きょうかい)はよく二人で剣技訓練をしていますし、髪も長い感じで美形…こりゃあ、一気に途中のエピソードから入ったのかしらん?…と。

副長羌瘣(きょうかい)

 実は僕、この羌瘣(きょうかい)の大ファンなのですね。身体は小さいけれどスピードのある剣で信の危機を救ったり、鬼神のような活躍をする女武将なのですよ。

 ところがその実態は、当代のイケメン中のイケメン吉沢亮クン(漂)でした。

 なるほどね…彼の後輩が吉沢クンのことを「先輩のイケメン度は国宝級です!」と言っていたのがうなずけます(笑)

 ということで、もし続編が作られるとしたら、今回は登場しなかった羌瘣(きょうかい)を誰が演じることになるのか…今から期待度マックスなのあります♪

 そしてまた続編が作られるとしたら…僕が注目しているのは二人です。

 一人はセイキョウ役の本郷奏多クン。本文にも書きましたが彼はこれまで憎まれ役がほとんど。しかし次なるエピソードでは悪の権化から最大の味方に転じ、政のために犠牲となって死んでいきます。

 これはもう主役級の役柄。役者としての見せ所。その時、どんな一皮むけた演技で魅せてくれるのか。彼の役者人生の大きな転機となることは間違いありません。

 そしてもう一人が河了貂役の橋本環奈さん。彼女は性格的に軽い役しかやって来なかったので、今回の「キングダム」が成長の転機になりました。だがッ!!

 ただの小娘である河了貂は、この先「少しでも近くで信を支えたい」という想いから大軍師を目指して修行に出ることになります。

 そして軍師になれば、自分の采配一つで多くの仲間たちを死なせることが分かっていても命を出さねばならぬ苦悩に気づく…そしてそれは現実に。

 彼女が成長した河了貂をどのように演じるのか。これもまた役者としてステップアップするための大きなハードルとなるでしょう。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

「キングダム」大ヒット御礼舞台挨拶(5/25)

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト220” coming soon!

 

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