こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
『マトリックス』から16年。映像革命の、新章はじまる。
映画『エイプリル・フール』が観たいというケイコを強引に押し切り、ウォシャウスキー姉弟による新たなSF巨編『ジュピター』を観てまいりました。
もちろん決め手はこのキャッチコピー。
『マトリックス』シリーズでは紛れもなく“映像革命”を成し遂げた姉弟(いや、あの時点では兄弟か・・)の実績を高く評価してのものです。
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ジュピター
(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
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しあしっ!!
確かに映像や世界観の斬新さでは驚愕の『マトリックス』でしたが、ストーリー自体は難解すぎて訳が分からないという印象を与えた前科が。
2008年にの『スピード・レーサー』(日本のアニメ『マッハGoGoGo』の実写化作品)は興行的にも失敗。
2012年に製作予算1億米ドルという巨額を投じて制作した『クラウド・アトラス』に至っては費用の3割程度しか回収できない興行成績にとどまり、“史上最高額のドイツ映画”という伝説だけを残してアッサリと上映打ち切りになるなど、実験的な精神は高く評価されつつも興行的には厳しい評価を浴び続ている姉弟であります。
さて、汚名挽回をかけた今回のSF超大作『ジュピター』は、どのような映画であったのか?
そのストーリーですが、「シネマ・トゥデイ」に掲載されている要約によると・・・『遺伝子操作された元兵士のケイン(チャニング・テイタム)は、ある女性を守るという任務のために宇宙から地球に派遣される。シカゴで清掃員として働くジュピター(ミラ・クニス)は、殺伐とした大都会での暮らしに嫌気が差していた。だが、実は彼女こそが、地球のみならず宇宙を変化させる可能性のある遺伝子を備えた唯一の人物だった。』とのこと。これだけでは何のことか分かりません(笑)
主人公は、シカゴで清掃員として働いているジュピター(ミラ・クニス)というごく普通の女性。まだ誕生する前、家に強盗団が押し入り、大切にしていた天体望遠鏡が持って行かれることに抵抗した父親が射殺された過去があります。
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ジュピター(ミラ・クニス)
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誕生したジュピターは母親と共に伯父夫婦一家の居候となり、大家族の中で大人へと成長。大人になった彼女に与えられた日課は毎朝のトイレ掃除・・単調な毎日に飽き飽きしています。
そんなある日、同居している従兄弟が大金を手にするチャンスがあるとジュピターに提案。その方法とは、子供のいない夫婦のために自分の卵子を売ることでした。
卵子摘出のために病院に赴いたジュピター。ところが、その病院の医師たちは、DNA検査によってジュピターが間違いなく本人であることを確認すると、看護師に『殺せ!』と。
う~ん・・何が起きているのかさっぱり分かりません。
あわやという時に謎の男ケインが登場。次々と医師や看護師を撃ち殺そうとすると医師たちは骸骨のような怪物に変身。どうやら人間ではなかったようです。
病院から救出するも飛空艇に乗った新たな追手が登場。都会の摩天楼を背景にド派手な空中戦が展開されることに。
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ジュピター
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舞台が変わって木星の大赤斑の奥深く。そこには異形の文明が築かれていました。羽の生えたガーゴイル型の獣人、真っ白な皮膚の人間、骸骨のような姿の怪人・・ところが彼らを統治していたのは地球人と同じ姿をした三人の兄妹。
彼らは全宇宙を統治する王家のメンバーなのですが、何故かそれぞれに地球人であるジュピターを探索しています。
実は、ケイン自身も、ジュピターを抹殺しようとする別の一派から彼女を守るための王家の傭兵だったのです。
宇宙全体を統治する立場にある“王家”の兄妹たちが、どうして地球人のジュピターを争って探そうとしているのか?
王家の人間たちと地球人は、どうして同じ姿をしているのか?
そして、彼らの目的とは?
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ジュピター
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キャッチコピーで大見えを切った“映像革命の新章”という言葉は、決してでたらめではありません。
今まで見たこと無い映像という意味では『トランスフォーマー』シリーズや『アバター』も挙げていいかと思います。
でも、この『ジュピター』全編を覆う映像の壮大さは筆舌に尽くしがたいレベルのものがあります。
今まで見たことがないデザインの宇宙船が木星のガスの大海から姿を現すシーン、大赤斑の奥に潜む超巨大宮殿の姿など、思わず息をのむ美しさです。
映画はもともと2014年7月に公開される予定でしたが、2000箇所以上のシーンに特殊効果を付けるためということで2015年2月6日に公開が延期されました。
この半年あまり時間をかけた~その成果はしっかりと映像に表れています。
しかし、それにもかかわらず・・・
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ジュピター
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それにもかかわらず、この映画のシナリオのチープさはどうでしょう。
“核心の謎”である王家の三人がジュピターを求めた理由は、“ジュピターのDNAが既に亡くなっている彼ら三人の母親のDNAと全く同一だった”というところにあります。
偉大な統治者であった母親の再来としてジュピターを『王』に据え、その力を借りて三人はそれぞれ“自分だけに”絶対的な権力と富を集中させようとしていたのです。
う~ん、なんだかなぁ・・。全宇宙を統治する~いわば神のような存在なのに、考えていることは相続争いかいっ!
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ジュピター
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いやいやもう一つありました。彼ら王家の人種は寿命が数万年(・・数百万年だったかも知れません。正確に覚えていないがとにかくやたらと長寿)なのですが、細胞を入換え続けることによって永遠の命が手に入る。
地球人とは、彼らが作り出した細胞摂取のためのクローン牧場のようなものであり、そろそろ『収穫』の時期を迎える。その『収穫』の利権も独り占めできるという理屈なのです。
この動機・・共感できません。
人間一人の体細胞を入れ替えるのに、地球人何十億人分もいらないだろ?
そもそも何万年も何百万年も生きて来て、まだ長生きしたいと思のか?
権力とお金(?)と寿命・・まさに人間的欲望むき出しの、こんな小悪人の種族が全宇宙を統治する立場になれる・居られるという設定が荒唐無稽に感じます。
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ジュピター
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そう言えば、この宇宙を統べる王国というか統治機構がどういうものなのか全く説明がありませんでした。
三兄妹・・特に長兄の発言のなかに『資本』という言葉が繰り返し出てきますので、そもそも『統治』している感覚はなく、自分の個人的利益のために宇宙を『経営』しているだけなのかも知れませんが。
謎解きの答が“神様の正体は我田引水の小悪人だった”という設定なのですから、大きなテーマを期待する方が無理だったのでしょう。
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ジュピター
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この『ジュピター』のストーリー設定については、LAさんという方が自身のブログで、こんな感想を述べていました。
『あれだけ音楽に拘る監督なのに今回は殆ど出来合とも思えるありきたりなスコアをのべつBGMとして使っている。 映像は所謂コンピューターゲーム系の映像でかなり古さを感じが一部の美術デザインに過剰なディティールが加えられている。 また不自然すぎるほど、わざとらしい情緒的な台詞が付け足されているような気がする。 この辺の違和感も途中から路線を変更して完成と予算緊縮がトッププライオリティになって、でっち上げているからだろう。 』
なるほど・・途中で資金がショートして、無理やりまとめるしかなくなったと。
でもなぁ・・『マトリックス』の時も回収されない伏線が山ほどあったし、『それは観た人がそれぞれ考えて貰えばいい』というスタンス、はっきり言って好きではありません。
お金さえ十分あれば、もっといいものができた・・果たしてそうでしょうか。『マトリックス』のようになってしまう可能性もないとは言えません。
よく(ダメな方の)芸術家に居るのですが、とにかく訳の分からないものを作って、それを見た誰かが勝手に深読みをして“これは素晴らしい”と評価してくれるのを待っている・・そういうスタンス、好きではありません。
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ジュピター
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Wikiを見ると、この『ジュピター』の製作費も『クラウド・アトラス』の時と同様1億ドル規模の予算が費やされているとのことです。
アメリカ本土では、2015年2月5日の先行上映と翌6日の初日とで740万ドルの興行収入がありましたが、近年公開されたディストピアSFの初日の興収『エリジウム』(2013年:1110万ドル)、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年:1060万ドル)と比較して大きく下回っています。
その後、海外公開のロシア連邦では週末興行収入ランキング初登場1位という成績を上げていますが、元々の製作費が破格のため、黒字にまで挽回することができるかどうか。
映画批評サイトでの評価も低く、Rotten Tomatoesでの批評家支持率は24%。「15年前に公開された『マトリックス』のような魔法を期待している人たちが本作を見たなら、深く失望するはずだ。」とハリウッド・レポーターのトッド・マッカーシーは述べています。
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ケイン(チャニング・テイタム)
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いろいろと辛口感想になってしまいましたが、登場人物では、助っ人ケイン役のチャニング・テイタムが好演。
この俳優さん、『G.I.ジョー』シリーズのデューク役などを演じ、僕のお気に入り俳優の一人。
目元が涼やかでセクシー。ちょっとミステリアス。狼と人間のDNA合成で生まれた有翼人という設定にぴったりです。(でも、狼と人間なのにどうして有翼人なんだ? この辺の説明がどうにも甘い気がする・・。)
そんな『ジュピター』のお話の内容ですが、そんなことを吹き飛ばすぐらい映像のインパクトはあります。
もう一回言います。映像のインパクトは凄い!
そっか・・キャッチコピーで“映像革命の、新章はじまる。”としたのは、そこしか褒めるとこが無かったからか(笑)
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ジュピター
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そうそう・・言い忘れましたが、この映画『3D』なんですよ。ん?SFなら当たり前・・って、そうじゃないんです。
『3D感』が強烈に感じられる工夫が凝らされているのです。
まず人物を大写しにして中間の人物(や物)、そして遠景を組み合わせたシーンを意識して作っている。
そうすることで、手前と奥の二元的立体感だけでなく、手前・中間・遠景の重合的立体感が得られる。さらに、日本語版字幕は、画面のぐっと手前に浮き上がるように表示される。
これによって得られる画面への没入感は半端ではありません。観客は「メタ」な位置ではなく、物語の中に入ったように感じられるのです。こういう効果を初めて実現したところにもウォシャウスキー姉弟の非凡な才能が見て取れると思います。
重ねて言います。映像のインパクトは凄いですっ!!
/// end of the “cinemaアラカルト164 「ジュピター」”///
(追伸)
岸波
感想を書き終えて、あらためて挿入写真を眺めてみると、当然のことですが“核心的シーン”はスチール写真にはなっていないなぁと。
(それでも“垣間見る”ことはできていると思いますが。)
木星の大赤斑深層に築かれた異形都市の世界観は本当に凄い。
建築物のデザインもそうなのですが、一番は都市の高低差。
横に広がるのが当然の都市づくりですが、この深層都市(地下ではない。ガス深層部なので。)は都市層の上にまた都市層を載せたような上下に長い構造になっているのです。このシーンは是非見てもらいたいです。
あと、注目はエンディング・ロールの人名配置。中央揃えになっているのですが、これが単純ではない。
時には三人の名前を横に並べたりして、全体として眺めてみると、これこそ木星深層都市の重層構造に見えてきました。そう・・文字ではなく構造に見えてくるよう組み建ててあるのです。
こういった細かい部分にもウォシャウスキー姉弟の美意識が現れているように感じました。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See
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