こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
涙がこぼれそうなとき、
歌があった。
フランス映画「コーラス」を見てきました。
2004年のフランスで最大のヒットを記録した映画(870万人動員)だそうで、“フランス国民7人に一人が涙した映画”という触れ込み・・・まあ、どちらかといえば涙腺が弱い僕にとっては苦手なタイプの映画です。
それにも関らず見に行ったということは、そう・・・ケイコのたってのお誘いがあったからに他なりません。
そんな「コーラス」について、出がけ前にとある話を聞いてしまいました。
その話とは・・・
この映画を家内と待ち合わせするために、大和伸一写真展“君の物語を・・”で時間をつぶそうと、「ギャラリー宙」に入って見ると、そこで意外な噂を・・・。
MIZO画伯がいわく・・・“あれを見てきた友人の話によると、どうやら皆は、映画が始まる前に泣いてしまうそうだよ”・・・ってオイ! 見る前から泣いてドウスル?
そんなオーバーな話があるわけないと一笑に付した僕でしたが、いざ、福島フォーラムに出向いてみたら、あろうことかあるまいことか、何とこの僕までが「コーラス」が始まる前に“ウルウル状態”に陥ってしまったのです!
そのヒミツは、予告編。
まずは、韓流映画の純愛路線で厳しいジャブが入り、続いては「四日間の奇跡」の凄まじいボディーブローが炸裂・・・追い討ちをかけるように「星になった少年」のアッパーカットで既にグロッキー状態。
とどめは、「カナリア」の主人公の少年が妹をかばういじらしいシーンで完全にノックダウン・・・これでもかという感動予告編の波状攻撃に、涙腺が全開してしまったのです。
まるで、予告編だけでも元を取ったようなお得なラインナップですね、 あっはっはっは!
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晩年のモランジュ
(ジャック・ペラン) |
世界的な指揮者モランジュは公演先で母の訃報に接し、葬式のために故郷に帰ってきます。
すると、自宅で物思いにふける彼を慰めるために旧友が来訪し、幼い日のアルバムを見せるのです。
旧友の心遣いに癒されたモランジュの表情にようやく明るさが戻り、「お、この写真の教師は!」というところから回想風に本編がスタートします。
どうです、どこかで見たような導入でしょう?
ホラ、「タイタニック」も“碧洋のハート”の写真から思い出話が始まりましたよね。
この晩年のモランジュを演じているのは製作者でもあるジャック・ペランですが、彼の作品「ニュー・シネマ・パラダイス」でも同じ導入をしているんだそうです。(←僕は見ていない。)
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新任音楽教師のマチュー
(ジェラール・ジュニョ) |
本編の舞台は、1949年のフランスの片田舎。
ワケアリの子供たちを収容した全寮制の学校「池の底」に新任の舎監が赴任するところから物語が始まります。
心がすさみ切った「池の底」の子供たちと出会い、彼らを救うために何かができないかということで、一度は自分が捨て去った音楽の楽しさを教えることを決意する・・・そんなオチコボレ音楽教師が奮闘する物語です。
本編の主人公である音楽教師が学校に到着すると、門のところで悲しげな目をして両親を待ち続ける少年ペピノと出会います。
このペピノ、実は「土曜日に迎えに来る」と言い残して去った両親は既に亡くなっており、今日が何曜日かも分からないほど幼いペピノは、来る日も来る日も土曜日と信じて待ち続けていたのです。
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「先生、ぼくたちの歌声は、
ママに届くかな…。」
たった一つの願いを歌に込めたこどもたちが
フランス中のハートをつかみました。
それは、聴くだけで涙があふれる不思議な歌声でした。
(from「コーラス」) |
この愛くるしい少年を演じているのは、ジャック・ペランの実の息子で、この「コーラス」がデビュー作となるんだそうです。
実に可愛いんだなぁ、この子。
悪ガキばかりの生徒たちの中で、唯一“純真”を体現しているキャラクターなんですね。
しかし、彼はいじめられっこの上に自閉症で、歌を歌うこともできません。
そんなペピノを音楽教師は一番気にかけて守ってやろうと決意します。
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いじめられっこのペピノ
(マクサンス・ペラン) |
一方、この学校の校長先生は、生徒のことなんか全く考えていないのです。
いたずらざかりの子供たちが、何か悪さをするたびに容赦ない体罰を与えて食事も与えず監禁するようなどうしようもない利己主義者。
何せ、彼の教育方針と言うのは“やられたらやり返せ”というのですから、子供たちの気持ちを第一に考える音楽教師とウマが合うはずがないのです。
音楽教師がコーラスを教え始めると、子供たちの生活態度に変化が現れ、この校長も理解を示し始めるのですが、結局は自分が評価されたいための動機から。
ここまで、徹底した悪人として描くやりかたはどうなのか?
人間を善・悪で染め分けるのでなく、“いいところも悪いところもあるのが人間”という「あいまいの価値観」を大切にする日本的な感覚からは、少し違和感を感じてしまいます。
きっと、日本人が描くのであれば、この利己的な校長さえも音楽教師のひたむきな努力に共感し、最後には善人のキャラクターに変化したのではないかと思います。
きっと、善と悪に色分けしてしまうのは、キリスト教的な感覚なのでしょう。
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少年時代のモランジュ
(ジャン=バティスト・モニエ) |
ところで、この物語の実質的な主人公として描かれているのは、少年時代のモランジュ。
悪ガキたちのリーダー的存在で、性懲りもなく悪さを繰り返すたびに校長に“反省房”に監禁されるほどの筋金入りです。
そんな彼ですから、生徒たちがコーラスの楽しさに目覚め始めても、一人独房にいた彼は状況の変化に付いて行けずに、「あれ?」という感じ。
でも、そんなモランジュこそ実は声楽の天才で、歌わせてみると天使のような美しい歌声を持っていたのです。
モランジュを演じた少年は、この映画によって全ヨーロッパのアイドルになっているそうですが、実はノートルダム寺院専属サン・マルク合唱団のソリストを務めている少年だそうで、感情細やかに歌い上げる透明なボーイソプラノには、まるで心が洗われるような感銘を受けました。
映画は、音楽教師に導かれた子供たちが、噂を聞きつけた伯爵夫人の前で素晴らしいコーラスを披露してクライマックスを迎えるのですが、その直後に意外な展開を見せます。
なんと第一の功労者である音楽教師が、あの意地悪な校長から、出火事件の濡れ衣を着せられて学校を追放されるのです。
しかも、校長の言いつけで、生徒たちとのお別れも許されずに旅立って行こうとする時に、あのペピノだけが自分の重たい荷物をしょって「連れて行け」とすがります。
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モランジュ
(ジャン=バティスト・モニエ) |
かくして回想シーンは終わり、現在のモランジュのシーンへと戻ります。
実は、音楽教師が追放される場面で、“フランス人の7人に一人が泣いた”と目されるエピソードが描かれるのですが、さすがにそこはヒ・ミ・ツ・・・いつの日か貴方の涙を絞るために伏せておきましょう。
でも・・・
僕が思わず泣いてしまったのは、おそらくほとんどの人が泣いたであろうそのシーンではなく、現在のモランジュが彼を慰めている友人の名を呼んだ一瞬なのです。
そう・・・その旧友こそペピノ。
自閉症で泣き虫で歌も歌えなかったおじゃま虫のペピノが、音楽教師とその後の人生を共にするうち、こんなにまで成長していたのですね・・・。
ああ、感無量!
貴方もこの映画で美しい涙を流してみませんか?
/// end of the “cinemaアラカルト15「コーラス」” ///
(追伸)2018.2.26
岸波
初期のcinemaアラカルトには「追伸」がないんで、体裁を揃えるために何か書こうと思いましたが、う~・・・何も浮かんできません。
あれほど「美しい涙」を流したはずだったのに、この体たらくとは。
やはり、身も心も汚れてしまったのでしょうか。(身も?)
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See
you again !
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ジャン=バティスト・モニエ
(←透明感のあるボーイソプラノに感動!) |
eメールはこちらへ または habane8@ybb.ne.jp まで!
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To
be continued⇒ “cinemaアラカルト16” coming
soon!
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