こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
生きねば。
ジブリの「風立ちぬ」を観てまいりました。
実はこの映画、ガリレオの「真夏の方程式」を観にいった時に4分ほどの特別予告編が流れまして、それだけで号泣したという映画でございます。(ちょっとオトク感♪)
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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今回のcinemaアラカルトの記事は、とある公的なサイトに掲載するために書いたもので、いつもより短め。そして、若干ノリが違いますけれど、ま、書き直すのも面倒なので、「前文」を入れ替えてそのまま掲載することに。←(手抜きともいう。)
それでは「風立ちぬ」…いつもとちょっと違うテイストのcinemaアラカルトでございます。
皆様、お仕事の疲れをどのようにリフレッシュされていますか?
“ワーク・ライフ・バランス”を持ち出すまでもなく、仕事の活力は豊かなプライベート・ライフがあってこそのこと。逆に言えば、家庭生活が充実されている方ほど、仕事でも“デキル人”なのではないでしょうか。
で、私のリフレッシュ方法の一つは映画鑑賞。ジブリの最新作「風立ちぬ」が封切られたので早速観てまいりました。
『風立ちぬ』は宮崎駿監督が「崖の上のポニョ」以来5年ぶりに自ら演出を手がけた長編アニメーション作品です。
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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そしてもう一つ、『風立ちぬ』と言えば、結核療養のサナトリウムを舞台とした堀辰雄の名作にも同名の作品が。
予告編の中でも、主人公が見上げる窓にそれらしき薄幸の少女が登場し、ユーミンの主題歌「ひこうき雲」の名フレーズ“♪高いあの窓で あの子は死ぬ前にも 空を見ていたの~”が流れます。
なので、本編もきっと二人の叶わぬラブストーリーが中心だろうと思っていたのですが、予想は見事に外れました。
そもそも主人公のパートナーとなる菜穂子は、(それと判るかたちでは)中盤まで登場してきません。
では何が描かれるかと言いますと、飛行機好きの少年二郎が、世界的に著名な飛行機製作者カプローニに憧れ、自作の飛行機を飛ばす夢を実現するまでのストーリーが“本線”になっているのです。
この「二郎」のモデルが、日本が誇る航空技術者、ゼロ戦の設計者としても有名な堀越二郎です。
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ゼロ戦の設計家 堀越二郎
(C)Wikipedia |
そう・・ジブリ版『風立ちぬ』のポスターに「堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて」と書かれているのは、宮崎駿が堀越二郎の半生と堀辰雄「風立ちぬ」に着想を得て作ったオリジナル・ストーリーだから。
最初は「モデルグラフィック」誌上で宮崎駿の漫画として連載され、擬人化された登場人物を人間に置き換えて映画化したのが今回の『風立ちぬ』なのです。
そのストーリーですが、幼い頃から飛行機にあこがれていた青年二郎は関東大震災の混乱の中、少女菜穂子と運命的な出会いを果たします。
大学を経て三菱内燃機製造(現在の三菱重工業)に就職し、飛行機設計者としての見聞を広めるためにドイツの輸送機製造工場などを訪れます。
彼自身の設計による試作機が失敗し、再起のために訪れた軽井沢のホテルで油絵を描いていた菜穂子と再会。
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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病弱な彼女はサナトリウム暮らしを余儀なくされるのですが、それを押して結婚。
心機一転、飛行機製作に打ち込んむ二郎でしたが、純粋に飛行機が好きなだけの自分が戦争に加担することになってしまう矛盾に思い悩み、そうこうするうちに菜穂子の病状が悪化して・・という内容です。
このアニメで驚くのは、細部までこだわった映像技術です。
CGが嫌いな宮崎監督は、全て手描きアニメーションにしたと言うことですが、二人が出会う森の泉で“揺れている水面”のリアリティ、まるで実写取り込みとしか思えない“降りしきる雪”、夜の工場地帯の逃走劇で死角に入った後の灯りに浮かび上がる人影の動き・・頭で考えた図柄ではなく、実写映像を筆で再現したような仕上がりです。
また“チンチン電車の動き出す時の音”、ホテルのレストランの“背景の動きから聞こえる音”、関東大震災が始まる時の“不気味な地鳴りの音響(これは人の声で作った!)”など、リアリティがとことん追求されていて、ディズニーの“いかにもお話の世界”という趣のアニメとは“次元が違う”と感じました。
(良い悪いではなく、目指すところが違うのでしょう。)
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カプローニと二郎少年
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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映画序盤で登場する関東大震災のシーンでは、東日本大震災の惨状を思い起こさずにはいられません。
1923年の関東大震災、その後大恐慌を経て長い戦争の時代に突入する当時の人々。
映画の端々で描かれる戦時下の苦しみは、フクシマで言えば、追い討ちをかけた放射能被害とダブってきます。
そうした時代背景の中で、それでも健気に、前向きに生きようとする人々の姿。
きっと、この映画を観た福島県の人たちは格別に“感じるところ”があるのではないでしょうか。
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漫画版の「風立ちぬ」
(C)Wikipedia |
小金井市のスタジオジブリで開催された映画の完成報告会で、宮崎監督は「自分の映画を見て初めて泣いた」と明かしました。
考えてみれば“アニメーションは子供のためのもの”という考えを貫いてきた氏にとって、初めての“大人向けアニメ”でした。(※「コクリコ坂から」の演出は息子である宮崎吾郎。)
映画では、自分の死期を悟った菜穂子が“せめて少しの間でも”と意を決してサナトリウムから抜け出し、それを受け入れた二郎との束の間の家庭生活が描かれます。
そのことが死期を早めることになると抗議する妹に対し、二郎は「僕たちは一日一日をほんとうに大切に生きているんだ」と覚悟を述べるシーンがあります。
こうした言葉に共感することができるのは、やはり人生の経験を積んだ大人でしょう。
主人公二郎の声優を「エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督が務めたことも話題となりましたが、(当時なら当たり前の)抑揚をおさえた話し方を“台詞棒読みだ”と非難するネットの書き込みが散見されます。
「アニメだから」ということで親に連れられて行った子供たちやファンタジーを期待して観にいったヤングには、難しすぎる映画だったかもしれません・・。
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アフレコ中の庵野秀明氏 |
宮崎監督は、どういう想いでこの映画を撮ったのか?
「評伝を作るつもりはなかった」と完成報告会での宮崎監督。
「リーマン・ショックと東日本大震災後、ファンタジーを簡単に作れない時代が来た。模索する中で、思い切ってこういう作品を作ってみたら別の展開があるかもしれないと思った。悪戦苦闘した。」と述べています。
また映画について、主題歌「ひこうき雲」を歌ったユーミンは「時間がないと知っている人の輝きが描かれている」と言いました。
東日本大震災の前と後では明らかに世界が変わりました。生きる希望を見失うほどのダメージを受けた人も大勢います。
そうした中で人生も終盤に差し掛かった宮崎駿が“悪戦苦闘”しながらも残したかったメッセージとは何か。
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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“風立ちぬ”という言葉は、ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』の一節“Le vent se leve, il faut tenter
de vivre”を、堀辰雄が訳したものです。
小説『風立ちぬ』の中では「風立ちぬ、いざ生きめやも」という有名な詩句として登場します。
宮崎駿は映画『風立ちぬ』のキャッチコピーをこう表現しました。・・・『生きねば。』
彼のメッセージが、多くの人の心まで届くことを祈ります。
(※『風立ちぬ』は公開9日間で累計動員220万人、累計興収も28億円を突破し、映画ランキング二週連続首位の大ヒット中。8月に始まるベネチア国際映画祭のコンペ部門に出品が決定。)
/// end of the “cinemaアラカルト149 「風立ちぬ」”///
(追伸)
岸波
"とある公的なサイト”に出稿したのは以上まで。ということで、こちらではさらに補足したいと思います。
二郎少年(あるいは青年になってからも)の夢の中にたびたび登場し、彼を導くことになる航空機製作者のカプローニは実在の人物。
1908年、イタリアのジョヴァンニ・バッチスタ・ジャンニ・カプロニ伯爵(Giovanni Battista Gianni Caproni)は航空機会社を起業し、1911年にイタリアで初めて実用航空機を製造しました。
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カプローニ伯爵(左)
(C)Wikipedia |
映画の中では、巨大な機体に9枚の主翼を付けた非常にユニークな遊覧機を作って飛ばしました。
ところが、このトンデモナイ形の飛行機は、実際にカプローニ社が製造したもので、「無尾翼飛行艇カプロニ Ca.60」と呼ばれます。
本当に飛行できたのか?
実は、試験飛行で僅か18メートルだけ浮かんだ後、墜落してしまいました。
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カプローニ社Ca.60
(C)Wikipedia |
彼は、戦闘機の製造を迫る国家に対して協力するポーズを取りながらも、実際には、この無尾翼飛行艇のように、空にかける自分の夢を大切にした人物でした。
二郎が試作機の飛行プレゼンに失敗して落ち込んだ時にも夢に現れ、「創造的人生の持ち時間は10年だ。君はその10年を大切に生きろ。」と励まします。
この言葉には胸を打たれました。
また、愛する菜穂子を失い、自分の作ったゼロ戦が多くの若い兵士の命とともに消えてしまった敗戦後、再びカプローニは二郎の夢の中に現れます。
それはまさに人生のどん底のタイミング。そこで告げられるカプローニの言葉こそ「風立ちぬ」のテーマではないかと思います。
常に自分の感情をコントロールしてきた二郎が、唯一、慟哭したのがこのシーンでした。
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カプローニ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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ただし、僕が一番感動したのは別のシーンでした。
東京で束の間の夫婦生活を送っていた菜穂子は、いよいよ自分の死期が近いことを悟ると、二郎や二郎の姉夫婦(もしかすると叔母?)に別れも告げず、再びサナトリウムに旅立って行きます。
その行動に気づいた妹が追いかけようとするのを引き止めて、姉が言う言葉があります。
ここはもう涙がとめどなく流れました。(※クライマックスなのでここには書きません。)
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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それにしても、この「反戦映画」に対して、韓国のマスコミが「戦争を賛美している」と非難する記事を載せたのにはあきれました。
おそらく、堀越二郎がゼロ戦の設計者であることだけを捉え、映画も観ずに記事を書いたのでしょう。
もし、観てから書いたとすれば、全く理解力を欠いていると言わざるを得ません。
そういう的外れな考えで、軽々しい批判をすることは、韓国という国家の品格や栄光ある韓国民族の品格を貶めるだけであることに何故気づけないのでしょう。
僕は韓国人の友人も多いだけに、残念でなりません。
そして、本文にも書きましたが、ネットで作品の悪口を書いて盛り上がっている若い人たちがいます。
この映画を理解するためには、ある程度、人生の経験を積んでいる必要があると思います。
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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ウチのケイコが映画を観て開口一番・・・「これは若い人には難しいんじゃないかな」と言いました。
一緒に観ていたお客さんは若いカップルがほとんどだったのですが、その3割くらいはポカンとした表情でした。
そう・・・テーマが深すぎて、デート映画には向かないのです。
しかし、分かる人には分かる。
さて、貴方は“分かる人”でしょうか?
それなら是非、映画館に足を運ばれることをオススメします。
では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See
you again !
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風立ちぬ
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
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