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「Takeoff」(佑樹のMusic-Room)
by 岸波(葉羽)【配信2011.6.3】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 その日 大阪が 全停止した。

 万城目学原作の「プリンセストヨトミ」・・・急に時間が出来て映画館に飛び込んだので、実は、特に期待した映画ではありませんでした・・・がっ!!

 チケットを買おうとすると・・・

「大変混んでいます。残りは一番前と中ほどの端の席ですが・・?」

 ええー! (そんな人気映画だったの・・・?)

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 うーむ・・・確か予告編では、大阪国の総理大臣という怪しい人物が出てきて、日本国と大阪国が一触即発の事態になるというような奇妙なストーリーだったような。

 そうか、戦争が始まって大迫力のスペクタクル・シーンが連続する超ド級映画なのか?

 頭の中が「??」でいっぱいになりながらも、とりあえずケイコと二人、中ほど端っこの席に陣取りまして見始めました。

 すると・・・

(いったいこの映画はナンなんだ・・・!?)

 ありえない事が次々に発生、理解を超えるストーリー進行・・・荒唐無稽な話なのに、登場人物たちは実に真剣に演じている。

 これはスペクタクル映画ではない。で、SF映画でもなければ歴史伝奇映画でもない。

 むしろ普通の日常が淡々と流れる中で小さな違和感が積み重なり、“世界が狂い始めている”というような奇妙な感覚。

 そうだ、これは『世にも奇妙な物語』の世界か!

 (閑話休題)

 それでは早速、その“奇妙さ”の核心に迫りましょう。

 

 慶長19年(1614年)、大阪夏の陣において徳川幕府は豊臣宗家を攻めて滅亡させました。

 大阪城を染める紅蓮の炎は京都からも見えたといいます。

 千姫の助命嘆願にも関わらず、秀頼は淀殿らとともに籾蔵の中で自害。

 秀頼の嫡子国松は父の秀頼と5月8日に盃を交わし、田中六郎左衛門(乳母の夫)・乳母と共に城を落ちます。

 映画の冒頭はまさにこのシーンから。

 国松と乳母を執拗に要に追跡する徳川方の武将達・・・その一人(堤真一)は、市井へ繋がる地下の抜け道に入ろうとする国松を発見し、乳母を斬殺。

 洞窟の入口で、逃げようともせず、しっかと睨み返す少年国松と対峙する・・。

プリンセストヨトミ

 場面は切り替わり、大阪の街を彷徨う女性が一人。

 奇妙なことに、あきらかに日中にも関わらず無人の市内。

 食堂では、たった今まで大勢の人がタコヤキを食べていたと思われる形跡があるのに誰も居ない。

(ん!? いったい何が起こっているんだ?)

 そしてテロップが・・・「7月8日金曜日午後4時 大阪」・・・話はそこから4日前にさかのぼる。

 どうです? つかみはバッチリでしょう。

 国松の安否が分からないまま、いきなり現代に場面転換。しかも、その現代の大阪は“ありえない”状況になっているのです。

 うーん、うまいなぁ、この冒頭の場面運び。(うんうん)

 しかもその直後、「大阪無人の謎」も放り投げて場面は会計検査院へ。

 あららら、どーなるの!?

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 税金の無駄遣いを許さず調査対象を徹底的に追い詰めることで有名な“鬼の松平”(堤真一)は、部下の鳥居忠子(綾瀬はるか)と、日仏のハーフでクールな新人エリート調査官、旭ゲーンズブール(岡田将生)を伴って大阪方面の調査に向かいます。

 何箇所かの調査を順調に終えた彼らが、次に向かった先は、国からの補助を受けているとある学校法人。

 ところが、学校の敷地に入るとなにやら生徒達の人だかりが。

 様子を窺ってみると、セーラー服を着た一人の少女が全身に石灰をかけられてイジメにあっている。

「あなたたち、何をやってるの!!」

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 気色ばむ鳥居(綾瀬)、逃げ出す子供たち・・・そして、彼方から彼女を救いに来る勇敢な女子生徒!

 そして、イジメられていた少女に駆け寄ると・・・・何と!!

(えー! お前、男かよっ!?)

 いや~もう、この時点で観客のハートはわし掴みです。

 国松の安否、無人の大阪、セーラー服を着た性同一性障害の少年・・・解決しない伏線の張りまくりでございます。

(いったい、どー繋がんの!?)

プリンセストヨトミ

 学校法人の検査の後、財団法人「OJO(大阪城跡整備機構)」の検査も終え、その前のお好み焼き屋で昼食をとる一行。

 ところが、松平(堤真一)は自分の携帯をOJOに忘れたことに気付き、一人、目の前のOJO事務所ビルへ。

 ・・・しかし、誰も応答がない。

 やむを得ず、声を出しながら階上の検査会場へ行って携帯を見つけ、ビルを出ようとしたところでハッとします。

「このビルは静か過ぎる。さっきまでいた職員たちはどうした?」

 事務室へとって返し、恐る恐るドアを開ける松平。

 ところがっ!!

 ついさっきまで事務室を埋め尽くしていた職員達が、煙のように消えているのです。

 思わず、デスクの引き出しを開ける・・何も入っていない!! どの机も!!

 ほーらね・・・“世にも奇妙な物語”の世界そのものでしょう?

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 今目の前で起きた事柄が信じられず、日を改めて追加検査のためOJOを訪れ、執拗に経費の使途を詰問する松平。うーん・・どうもアヤシイ。

 挙句は、謝礼経費の支出先となっている膨大な数のボランティアへ、直接電話確認することを部下に命じます。

 いやーオイ。そりゃ鳥居と旭でなくたってブータレますよ、松平さん。

 結果・・・何もアヤシイことは出てこない。

 それでも、自分の中の違和感を納得させられない松平。

 そんな彼に、部下の鳥居(綾瀬)が言います。

「これでOJOが嘘をついているとしたら、大阪中が口裏を合わせていることになりますよ!」

 あっはっは!確かにそうだ。

 大阪中が・・・・口裏を・・・・・・合わせている!!!???

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 松平はやがて、“大阪中が口裏を合わせなくてはいけない”真相までたどり着きます。

 財団法人OJOとは、実は、ある目的を持った地下国家「大阪国」の使命を達成するために作られた組織。

 その使命とは、国松の子孫として現代まで血筋が繋がっている豊臣家の王女を守ることだったのです。

 大阪の男たちは生涯にただ一度、死期を悟った父親に連れられて大阪国の地下通路を歩き、そこで『大阪国の存在と使命』を託されるのでした。

 王女(プリンセストヨトミ)が誰であるのかは、大阪国総理大臣ほか少数の幹部しか知らず(王女本人も自分のことを知らない!)、いざ王女に危険が迫った際には、総理大臣の指令によって、全てを投げ捨てて駆けつけなければならない。

 ・・・たとえそれが、王女を害する勢力(日本国)との『戦争』であったとしても。

 そして、それは現実になるのです・・。

 うーん・・・凄い話だけど、現実感ありませんよね?

 まさに荒唐無稽。

(いったいこの映画はナンなんだ・・・!?)

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 でも、映画を見た後、この原作者である万城目学のことを調べて納得が行きました。

 万城目学は大阪府出身の人気小説家。

 2006年に「鴨川ホルモー」でデビューし、いきなり「第4回ボイルドエッグズ新人賞」を受賞、「本の雑誌」におけるエンターテインメント1位に。

 テレビ・ドラマ化された第2作「鹿男あをによし」は「第137回直木賞」候補。(受賞は逃した)

 そして、今回の「プリンセス・トヨトミ」でまたも「第141回直木賞」候補、さらには「星雲賞」の日本長編部門候補になる実力派でございます。

 でも、驚くのはまだ早い。これら三作は、「実在しないけれども共通する世界」が舞台となっているのです。

 つまり、日本ではあるけれど、この日本とは少し違う『パラレル・ワールド』の個別エピソードとして描かれているのです。(何と言う壮大な仕掛け!)

(※「トヨトミ」と「鹿男」には、ともに難波宮の隣に架空の「大阪女学館」が登場し、同じ剣道部顧問が登場。「ホルモー六景」で、京都に住む主人公のアルバイト先である料亭“狐のは”は、「鹿男」に登場する校長の実家など。)

 これに気が付いた時、やっと合点がいきました。

 荒唐無稽な事件の渦中にあって、登場人物それぞれが、あまりにも“真面目”に役柄を演じているのです。

 これが現実世界であったならば、誰かしら「そんなことあるワケないやろ、なんでやねん!」と突っ込まねばならないところで、違和感もなく真面目に対応するのです。

(これこそ、観客の心に不安定感、奇妙な非現実感を積み重ねていくシカケなのですが。)

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 観客の心を惹き込む何とも見事なストーリー・テリング。

 エンディングのテロップを見て「なるほど!」と思ったのは、制作が“あの”亀山千広であったこと。

 亀山千広と言えば、「踊る大捜査線 THE MOVIE」や「のだめカンタービレ 最終楽章」、「アマルフィ」、「ハッピー・フライト」などを制作している超ヒット・メーカー。

 監督はと見れば、「ショムニ」、「古畑任三郎」、「王様のレストラン」、「HERO」・・・いえいえそれよりも何よりも「世にも奇妙な物語」の鈴木雅之なのです。

(こりゃあ、面白くないワケがない!)

 また、「トヨトミ」のスタッフは、テレビ・ドラマで評論家から絶賛を浴びた「鹿男」のチームがそのまま担当しているのです。

 そして、キャストがまた豪華。

 筆頭は何といっても松平役の堤真一と大阪国総理大臣(普段はしがないお好み焼き屋の大将)中井貴一。

 二人は最後に、日本国の誇りと大阪国の命運を賭けて、民衆の前で対峙するのですが、この議論の迫力たるや凄いものがあります。

 おそらく並みの俳優が語ったならば、あまりの荒唐無稽さに吹き出してしまいそうなガチなせリフを真剣な表情でやり取りする。

 僕はこのシーンで、不覚にも涙が零れそうになりました。

プリンセストヨトミ

 部下の検査員である鳥居役、「鹿男」や「仁-JIN-」にも登場している綾瀬はるかはもちろん、旭 ゲーンズブール役の岡田将生は、「重力ピエロ」や「ホノカアボーイ」などで2009年度映画賞の新人賞を総なめにした異能のイケメン君。

 これに、和久井映見や宇梶剛士、菊池桃子、平田満、江守徹、宅間孝行、玉木宏などキラ星のごとき布陣でございます。

 そして、陰の主役。

 自分自身をトヨトミの末裔とは知らず、性同一性生涯の幼なじみ大輔(大阪国総理大臣の息子、真田幸村の子孫)を守ってムチャを繰り返すプリンセス・・・橋場茶子に新人の沢木ルカ。

 2000人を超える大阪公開オーディションで選ばれただけあって、その存在感、ボーイッシュな風貌は同年代の俳優を寄せ付けない輝きを放っています。

(だけどやっぱり、原作そのものが凄いんだな・・)

 最近、雑誌に出た書評で、評論家の名前は失念しましたが、万城目学を評して、『彼は今までのどの作家の系譜にも属さない。おそらく将来、彼の系譜に属する作家も出てくることはないだろう。』という最大限の賛辞を贈られていましたっけ・・。

プリンセストヨトミ

プリンセストヨトミ

(作:万城目 学)

 さて映画のストーリーは、性同一性障害の幼なじみ大輔を守るために、単身で暴力団事務所に殴り込もうとする(プリンセス・トヨトミ)茶子。

 それを阻止して、危険から救おうとする鳥居(綾瀬)。

 ところが、茶子と争って車に連れ込んだ様子を大阪国幹部が目撃。

 会計検査員とは仮の姿で、きっとプリンセスを拉致しようとした日本国のスパイに違いないと誤解を受け、事態は大ごとに。

 総理大臣にプリンセスの危機を報告する幹部、それに応える総理大臣は、400年間封印してきた「大阪国民一斉蜂起」の合図を指示します。

 大阪城から紅蓮のオーラが立ち昇り、街中にはいたるところに豊臣家の紋所:瓢箪が掲げられます。

 それを目にするや、大阪中の男たち・・・飲んだくれていた男たちや地下鉄の運転手、果ては警察官から消防士まで、全てを投げ捨てて総理の下に集合。

 大阪は無人の街と化すのでした。

 さて、日本国と大阪国の対決の行方は?

 誤解を受けた鳥居とプリンセス・トヨトミの運命やいかに?

 両国家の命運を担って対峙する松平と大阪国総理大臣真田はどうするのかっ!!

プリンセス トヨトミ

(C))2011 フジテレビジョン 関西テレビ放送 東宝

 実は、この主人公松平には、隠された秘密があります。

 それは、とても悲しい・・・決して取り返しのつかない過去への「罪の念」でした。

 すべてを終えた後、決して一人で行ってはならない(「親の死期に子を連れて生涯ただ一度だけ」が掟)大阪国の地下通路に向かう松平の姿・・・。

 いったい彼は、何をしようというのか?

 さすがに、これだけは書けません。

 皆さん、是非、貴方自身の目で確かめてください。

 そして・・・号泣してください。

 

/// end of the “cinemaアラカルト127「プリンセス トヨトミ」”///

 

(追伸)

岸波

 この映画のエンディング・テーマ「Princess Toyotomi 永遠の絆」を歌っているのがケルティック・ウーマン。

 これがまたいい曲なんですよ。

 アイルランドの美女4人組の素敵なハーモニーに癒されること必定!

 ということで「プリンセス トヨトミ」、4拍子も5拍子も揃った見事なエンターテインメントでございました。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again ! 

プリンセストヨトミの出演者

プリンセス トヨトミの出演者

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト128” coming soon!

 

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