◆小山さんノート
2013年、「小山さん」は亡くなった。 彼女が暮らした公園のテントには80冊を超えるノートが遺された。 街を歩いて出会うものたち、喫茶で過ごす時間、闇と光。「小山さん」が生きた日々の記録があった。
本書は2015年から8年をかけて文字起こしされたノートからの抜粋とワークショップメンバーのエッセイを収録。 ぽつりぽつりと呟くような日記かと想像しながら本の扉を開いてみて「うわぁ」と声に出た。 文字がごんごんほとばしる。
思わず両手で抑え込みたくなるくらい、詰めこまれたものが飛び出し、刺さる。 そっと静かに、でもバチバチに自分を生きた「小山さん」と街で出会ってみたくなった。

(2025.7.9読了)
◆父の記憶
幼い頃、日曜日の朝は父の隣に座って「日曜美術館」を視るのが習慣だった。父はいつもにこにこと番組を楽しんでいた。あたしは、そんな父の様子を見ているだけで嬉しかった。番組の内容は解らなかったけど。
その日は、筆を口にくわえて絵を描く人を特集していた。父は、無言でテレビの画面をじっと見つめていた。いつもと違う父の横顔を、あたしはじっと見つめた。その光景は、あたしの中に記憶された。
数十年が経ち、旅の途中で見つけた美術館に 立ち寄った。エントランスでは「日曜美術館で特集されました」の映像が流れていた。 あの日の「日曜美術館」だった。 筆を口にくわえて絵を描く人 それは、星野富弘さんだった。
あの日、父は何を思っていたのだろう。 戦地にあっても絵を描くことをやめなかった父は、同じ"絵を描く者"として星野さんをどのように見ていたのだろう。 今となっては確かめる術はない。 父の本棚には、今も星野さんの詩画集が遺されている。 星野富弘さんの訃報に際し、父との思い出をくださったことに感謝をこめて。
(2024.5.1記録) |