◆旅に病んで夢は枯野をかけ廻る ・・・松尾芭蕉
芭蕉が亡くなる四日前に詠まれた句。今年亡くなった同級生の後藤君が、良くない体調を押して最後の夫婦旅行に出かけ、結局、その道すがらに容態が悪化。とんぼ返りで入院しましたが、そのまま息を引き取りました。「死の直前」というのは、誰しもこんな気持ちになるのかもしれません。
◆けふのうちに とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつて おもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじとてちてけんじゃ) ・・・『永訣の朝』宮沢賢治
宮沢賢治の『永訣の朝』の冒頭。身体の弱い妹が末後の床で賢治に求めたのは「あめゆじとてちてけんじゃ」(「雨雪(降り積もったみぞれ」)のひと椀だった。貧しい家に生まれた彼女にとって、それは最後の贅沢だったのだろう。そしてこう続く・・そのけなげさに涙がとまらない。
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまえはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
※これをテーマにした大和伸一写真館第12集「永訣の朝」>>
◆歌詠めば
想ひ出のひとと手をつなぐ
世はそれぞれの旅寝の夢に ・・・辰巳泰子
大好きな現代歌人の一人。その言葉は情感深く胸に響く。僕の「想ひ出の人」は母かなぁ・・淋しい晩年を過ごしていた気がする。今、生きていれば、もっともっと恩返しがしたかった。
※これをテーマにしたAngel's Photo Gallery「石灯りロード」>>
◆はやくきてくたされ。
はやくきてくたされ
はやくきてくたされ。
はやくきてくたされ。
いしょの(一生の)たのみて。ありまする ・・・『シカの手紙』野口シカ
あまりにも世に有名な野口英世の母シカの手紙。英世が「志しを得ざれば、再び此地を踏まず」と会津を旅立ち、渡米してから12年。息子に一目会いたさに、文字を書けなかったシカが囲炉裏の灰に指で字を書く練習をしながら書かれたこの手紙が英世の元に届きます。この手紙に感動し感想を書き残したことが今のWeb版「岸波通信」を始めるきっかけとなりました。
※これをテーマにした岸波通信その39「シカの手紙」>>
◆湯豆腐やいのちのはてのうすあかり ・・・久保田万太郎
淋し気な情景が、やがて最晩年を迎えるであろう自分自身の姿に重なります。もしも連れ合いに先立たれ自分一人が残ったなら、粗末な湯豆腐をアテに燗酒をあおり、人生のあれやこれやを回想する日々が続くのでないか。歳を重ねるにつれ、その想いは強くなります。 |