【2011/7/26】
シャリンゲイからオスロ郊外の自宅へ戻ってきたエリザベスが、昼前にホテルまで来てくれて、オスロでの数時間を同行してくれる。
ノルウェイでは、人々は英語をよく話すけれど、街なかでの英語表記はあまりなくて、必要な場所を探すのに苦労していた。
さっそく彼女に換金につき合ってもらってから、彼女が経営しているヨガスタジオをのぞいた後、ユニークな建築のオペラハウスへ向かう。
彼女の世渡り術はおもしろい。
オスロはパーキング不足の上に、路上駐車の罰金は高い、そこでオペラハウス周辺に停める手段はー 工事現場のおじさんに「停めさせて!」とお願いして、クレーン車の隣にちょこんと停め、お礼に投げキス。
「これが私のやり方よ」と微笑む。うーむ、ちゃんと女であることを生かしている…。
オペラハウスは海に向かって傾斜する広いテラスがあり、そこで思い思いの時間が過ごせる。しばし、エリザベスと海を眺めながら話した。
オペラハウスは、木を内装素材として上手に生かしている。
木をうまく建築に生かした例はあちこちに見られ、オスロ空港の天井にも取り入れられていた。
バイキング船の曲線を想像させ、ノルウェイらしさが感じられる。
その国に豊富にある安価な材料を現代建築に生かし、それがその国の個性も表している。
2時頃には列車に乗って、リレハンメルへ移動することになっている。
ノルウェイの最後の数日を、リレハンメルで暮らすアーティスト、エギルのお宅にお世話になるのだ。
彼は、昨年のフィンランドでのアート・イー・ビエンナーレの参加アーティスト同士として知り合い、今回参加した [KUNST I NATUR 2011]を紹介してくれた。
「列車に乗りさえすれば、乗り換えなしで2時間半程度で着く」と聞いていたのに、駅でチケットを売った駅員にエリザベスが確認すると、「ここでバスに乗って、XXXXで降りて、列車に乗り換えるように」と言われる。
ええっ!どこで乗り換えるって?
…いよいよ不安になる私の表情を察して、私のスーツケースをバスに積み込む運転手に向かって、エリザベスが「私の友人にちゃんと教えてやってよ!」とかなんとか、ノルウェイ語で念押ししているようだ。
慌ただしかったけど、ありがとう、エリザベス!
後でわかったことだが、バスでの移動は、オスロ駅付近が工事中のためだったらしい。
バスが停まったところで乗客は一斉に降りた。スーツケースを受け取ると、運転手は乗り換えの駅の方を指差してくれた。
列車の窓から南北に長いミョーサ湖が見えてきた。
この最北端に位置するリレハンメルは、1994年の冬季オリンピックの開催地だ。開会式にトロールが出てきた記憶がある。
また、愛想が悪いノルウェイ人に笑顔をつくらせるために、口の両端を引き上げるグッズが考え出されたという、笑えるニュースも。
ノルウェイの駅のホームは、階段も改札口も通らずに外とつながっている。重いスーツケースでも坂路を引くだけで移動でき、持ち上げる必要がない。
このやり方は、ヨーロッパでときどき見かけた。出迎えの人も入場券など買わなくていい。
ホームにエギルが待っていて、車でお宅へ。
奥さんのブリット、大学生の息子のシンガード、愛犬ロンニャ、友人アーチストのマーレットと対面し、すぐに夕食をごちそうになった。
魚と野菜のスープはエギルが、日本の蕗に似た酸味の植物入りケーキをシンガードが作ったという。
家族みんなで協力しあう雰囲気がいいね。みんなの関心は、やはり日本の震災や原発のその後のことだ。
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宮城県石巻市で被災した大川小学校の復興の様子
(Wikipedliaより)
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郷里福島の人々の暮らしや、東北沿岸の被災地を訪ねた時のこと、東京都民の省エネの工夫のことなどを話した。
あまり日本の情報が入らないノルウェイの人々にとっては、興味深いことらしかった。
食後、エギルとマーレットに、東北の復興のために私が考えている企画「精神の"北"へ」のためにノルウェイでもリサーチをしている件を話したら、彼らはすぐに反応した。
前にも書いたが、自主企画「精神の"北"へ」とは、日本の東北を中心に、世界の北域の人々の精神性やその表現に焦点をあて、あらためて東北を再認識するための国際展のことだ。
世界には東北と同じように、過酷な歴史や寒冷な気候条件のハンディを負いながらも、独自の文化や伝承、技術を育んできた地域がある。
地理的な“北”という括りだけではなく“北”という精神性も浮き上がらせるようなものにしたいと思う。ずっと暖めていたこのアイデアを、福島県立博物館の企画“東北へのエール”にも応募している。
エギルは何度か電話をし、リレハンメル博物館のディレクターと、知り合いのアーティストと会う約束をとりつけ、マーレットと相談して明日のスケジュールをすっかり作り上げてしまった。
ここでの滞在は明日一日しかないので、単にアーティストの情報を集めていく程度に考えていた私は、ほんとうにびっくり。さすが、実績のある中堅のアーティスト、押さえどころに話をつけていく。
こんな風に展開するとは予想もしていなかった。
その後、本棚にたくさんある作品集やカタログの中からエギルが見せてくれたアーティストの資料は、それぞれに興味深い表現で、“世界の北域”から集めるつもりなのに、ノルウェイ人アーティストだけでも選びきれないほど充分に思えた。
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