【2011/7/23】
オープニングの朝。
無情にも、昨夜から降り始めた雨足が強くなっている。
滞在先の家で、めいめいが朝食を準備しながら、私はヴィグディスと、日本で言う"雨女、雨男"の話をした。
誰なの? 今日のこの日に雨を降らせるのは!!
覚悟して、雨合羽を着込んで家を出る。
自転車が使えないので、集合場所のコミュニティハウスに着くのに20分ぐらいかかる。
歩き出すと、もう足元はずぶぬれだ。
ハウスに着き、手分けしてオープニングレセプション用に椅子やテーブルを並べながらも、この激しい雨と、悲惨なテロ事件の翌日という最悪条件では、観客は来ないかもね…とささやき合う。
アーネが自宅から雨合羽やブーツをいくつか運んできて、全員が雨対応完了。
合羽についている帽子をかぶれば、もう後ろからは誰だかわからない。
みんなズンドウ、のっぺらぼう。
アーネが、私へのインタビューを録画したいと言い出し、私の手をとってズンズン歩き出す。
自作のところまで一緒に丘を登り、TVカメラマンのときより打ち解けた雰囲気で、ここに来ることを決めた心境や、作品に込めたテーマを語った。
|
丸山芳子:「From the Ruins」「廃墟から」
(※接合写真)
|
帰り道、彼女は2年後の開催に向けての考えを語り、私の再度の参加を望んでいるようだった。
午後2時の開催スタートの時間が近づき、観客が集まり出した。
50人ぐらいだろうか…悪条件としては意外にも多い。みんな雨対策万全のいでたちだ。
アーネからの挨拶のあと、みんなでテロの犠牲者のために2分間の黙祷を捧げる。
点在する作品の地図(防水対策で、1枚ずつファイルポケットに入れてある)とティータイム用のおやつが観客に配られて、さあ、アートツァーへ出発だ。
フィヨルドの海岸に出て、エリザベスのダンス、ジェロームの立体、エリンの音のパフォーマンスなどを鑑賞。
作者のコメントも聞き取りにくいほどの豪雨の瞬間もあるけれど、雨や霧という自然条件を楽しんじゃう大らかさが、このランドアートビエンナーレの前提にはある。
それを、みんなわかっているのだろう。髪や顔を雨にぬらしながら、いきいきした表情だ。
波打ち際のキャロラインの作品を廻ってから、私のを目指して丘を登る。
私がコメントする前から、観客が「Horer du meg…」とささやいている。TV報道を見たのかも。
私が語った後にいくつか質問があり、日本の状況や、それをテーマにする作者の心情にも関心があるようだ。
何人もが感動したことを言いにきてくれ、表現が伝わったことが何よりうれしかった。
私の丘の麓にあるヴィグディスの作品は、あらゆる生き物にとってのホーリーな場を創ったという。
枝の冠を乗せた大岩、中央の小山に動物の頭蓋骨。
そこに、ヒト(ダンサーのエリザベス)が軽やかに通り過ぎると、その一帯はみるみる作品世界の雰囲気を深めた。
|
各作家の作品:Vigdis Haugtro[Ballast]
|
メッテ・カミラは、地層が見える岩盤を覆う土壌の一部(上の切り込んだ部分)をはぎ取り、地層のラインと呼応させた行為が、シンプルで力強い。
|
各作家の作品:Mette Camilla Skadberg[Intervention]
|
エヴリンは、林の中の廃屋の過去を調べ、元の主夫妻が住んでいた頃を自分の想像も加えて描き、各窓に取り付けた。壊れかけた家が甦ったようだった。
|
各作家の作品:Evelyn Scobie[Abandoned House]
|
書ききれないが、どの作品もそれぞれに魅力的だったのは、各アーティストがこの一帯の環境の魅力に鼓舞されながら、それと向き合ううちに、その場の特性とよく共鳴できたからなのだろう。
シャリンゴイは人口400人ほどの静かな村。
すばらしい眺めの国立公園に隣接したエリアであっても、さほど多くの観客が訪れるところではないだろう。
まして、はるばる訪ねてくる美術関係者などは稀なのだと思う。
そうであっても、作品を創り上げた充実感は例えようもない。
それはきっと、フィヨルドの特別な風景を作品に取り込めたという貴重な体験と、大自然に包まれて、精神が浄化されたせいかも知れない。
(Jerome Durand[Balise N 103 "Me Too"])
<<2011.9.12 Release by Habane>> |