【2010/5/29】
こちらの生活は、もう3週間を越えた。
1日1日、展覧会に向けての準備が進んでゆき、出来事は盛りだくさんなのだが、明るいままの夜、机に向かわないうちに睡魔に襲われてしまう。
一番遠くに行ったのが約30km南のOulu市ぐらいで、他はほとんど近場だけで充分エキサイティングな体験をしている私に、地元のアーティストAnttiの奥さんKaisaが、自分の生まれたラップランドへ案内したい、と提案してくれた。
フィンランド体験に欠かせない「本場のサウナ」の話は後にとっておいて、先週末2日間のラップランドへの旅の記憶が新鮮なうちに記録しておこうと思う。
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Laplandがある北極圏 |
Lapland・・・こちらに来るまでは“フィンランドの秘境”のイメージがあり、地図中の地名の記載もまばらなこの空白地帯に踏み込むには、案内がないと難しいかも…と、興味はあるが最も行ける可能性の低いところ、と予想していた。
だから、Kaisaの提案に小躍りしてのった。
Kaisaは、私が滞在しているレジデンスに新しいアーティストがやってくるたびに、ラップランドへの旅を提案しているそうだ。
彼女自身も故郷に帰ることを何よりのエネルギー補給としているし、ラップランドへ友人を案内することが喜びなのだそうだ。
私のレジデンスを尋ねてきた友人の温子さんも誘って、3人で行くことにする。
土曜日の朝出発して、日曜日の夜には帰るという短い旅だが、フィンランドのほぼ真ん中に位置するここIiから、距離にして約400km北のフィンランドの最北部に近いイナリまでは、彼女だから知っている細いローカルな道を選んだり、穴場でひとときを過ごしたりして、片道約9時間の運転になる。
道中、ラップランドの入り口で中心都市でもあるロバニエミ市にて、アルヴァ・アアルト(フィンランドを代表する建築家)設計による魅力的な図書館や北極圏に関する博物館アルクティクム、話のたねにちょっとだけサンタクロース村をのぞいたり。
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アルヴァ・アアルト設計による図書館 |
ディズニーランドのごとく観光色の濃いサンタクロース村で最も興味深かったのは、“ここから北極圏”というArctic Circleの白線が地面に引いてあったことだ。
Kaisaに促されるまま観光客的に、そこをまたいだ写真を撮ってもらったが…。
いよいよ地球の極地に近づく興奮を覚える。
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“ここから北極圏” |
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たくさんの川や湖を横目に見つつさらに北上すると、いよいよ風景は森ばかりになっていく。
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森ばかりの風景 |
旅立つ前にみんなから「reindeer(トナカイ)に会えるよ」と言われた、そのトナカイは今子育て真っ最中。
なかなか現れてくれなくてじらされたが、次第に登場するようになる。
あまり人間を怖がらなくて、スローモーションのようにゆっくり遠ざかって行く姿は、極地の象徴らしいミステリアスな雰囲気を醸し出す。
ほかにも野うさぎや鷹、ここだけの珍しい鳥も現れた。
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トナカイ |
バイオロジストであるKaisaの説明によって、トナカイの食するライヒェンという苔のたくさんの種類を森で見ることができた。
そして長い時間のたった深い森が恐ろしげな雰囲気を持つとすれば、この人の毛髪のような種類のライヒェンのせいではないかと合点がいった。
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ライヒェン |
樹木の枝にひっかかったようにくっついて伸びているこの人毛状のライヒェンは、トナカイの大好物だが、高い枝から雪とともに落ちない限り食べられない。
地表のも枝のもどのライヒェンもからからに乾いていて、こんな餌であの体がつくれるのだろうか?
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森からみたKaisaの車 |
長い車中の移動のあと、ようやくイナリ湖のほとりのホテルに到着。(運転おつかれさま。)
つつましやかなホテルにてトナカイ肉の代表的な料理を試してみる。野生の臭みが残る味だが、きらいではない。
床に付いても今日の興奮が覚めやらず、なかなか眠れない。ここ、極地では太陽が完全に沈まず、地平線に残光を残したまま、また上ってくるという。
眠れないならその現象を目撃しようかとも思ったが、あいにく部屋は見えない側。
明日の旅路を居眠りするのは惜しいので、眠るように努力する。
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