|<<INDEX | <PREV  NEXT>|
 
 

その167

続、続、チヨちゃんの真実

 チヨちゃんの訃報を聞いてから、しばらくして、チヨちゃんの新たな「真実」が、しだいに風のたよりで伝わってきた。

 な、なんと、チヨちゃんは夫以外の男性とデキてしまって、家庭を捨てて家出したとのこと。

 しかも相手は妻子ある男性らしい。いわゆる駆け落ちというやつだ。

 そして、その男性はチヨちゃんが、かつて見合いをした男性、そう、あのイケメンの農協職員だったらしい。

 また、地元では、もっぱらチヨちゃんが男性をタブラカシタということで、実家からも勘当されたという。

 以前の同窓会で、その事が話題にならなかったのは、今になって思うと、同級生の中では話題にしていけないタブーだったのか。

 チヨちゃんの死因は病死らしく、一度は勘当された彼女だが、最終的に両親が遺骨を引き取り納骨したという。

 実家の両親は娘の事で肩身がせまくなり、しばらくは、家に引きこもる生活をしていたという。

「♪悪い女だと人は言うけれど、いいじゃないの、幸せならば」なんて歌があったが、彼女は幸せだったのか。

 家族を不幸にした彼女の幸せは本当の幸せではない気がする。

「♪人生いろいろ」は島倉千代子、チヨちゃんの歌だ。

「♪男もいろいろ」(確かにそうだが)

「♪女だっていろいろ」(その通り)

「♪咲き乱れるの」(チヨちゃんは、咲き乱れて・・・散ったのか)

 それから、数年後にまた同窓会があった。

 前回より私も含めて、みなそれなりに「人生いろいろ」の経験を重ねオジサン、オバサンになっていた。

 物故者の名が呼名され参加者で黙祷したが、年齢の割には結構多い。

 チヨちゃんの名もあった。

 二次会のカラオケで、私は「♪人生いろいろ」を歌った。

 途中から全員合唱になって、まるで昭和の歌声喫茶だ。みんな、だんだんと声が大きくなる。

「♪人生いろいろ」「♪男もいろいろ」「♪女だっていろいろ」と、それぞれの人生いろいろに思いをこめて歌う。

 歌詞の中に「♪ねえ、滑稽でしょう、若い頃」ってあるが、歳を重ねて年老いても人生は死ぬまで滑稽で、こんなふうに、みんなで歌を歌っている。

 しだいに涙が出てきた。みんな泣いて歌っていた。

 そして、歌が終わり、互いの泣き顔を見て、笑った。

 そんな私達を見て、きっと天国のチヨちゃんも泣き、笑ったと思う。

 その夜は、三次会まで行って、数名の親しい友人と深酒をした。

 昔話になり、学生時代に一番付き合いのあった友人が私に「チヨちゃんはお前に気があったはずだ。気づかなかったのか」と言われた。

「・・・・」返す言葉がなかった。

 今度、墓参りに行こうと友人に誘われたが、たぶん私は行かない。

 帰り道、夜空を見上げると明るい月が出ていた。

 チヨちゃんの笑顔が月の中に見えた。

 後書き、この物語はフィクションです。オーヘンリーの短編風にして三部構成にしました。

 オーヘンリーの噂をすると、彼がクシャミをして「フィークション」。私が「風に吹かれて」、風邪をひき「フィクション」したわけではありません。

 (2021.5.22)アンブレラあつし

PAGE TOP


 

 Copyright(C) Atsushi&Habane. All Rights Reserved.
MP3「おまぬけサンタ」 by TAM Music Factory