チヨちゃんの訃報を聞いてから、しばらくして、チヨちゃんの新たな「真実」が、しだいに風のたよりで伝わってきた。
な、なんと、チヨちゃんは夫以外の男性とデキてしまって、家庭を捨てて家出したとのこと。
しかも相手は妻子ある男性らしい。いわゆる駆け落ちというやつだ。
そして、その男性はチヨちゃんが、かつて見合いをした男性、そう、あのイケメンの農協職員だったらしい。
また、地元では、もっぱらチヨちゃんが男性をタブラカシタということで、実家からも勘当されたという。
以前の同窓会で、その事が話題にならなかったのは、今になって思うと、同級生の中では話題にしていけないタブーだったのか。
チヨちゃんの死因は病死らしく、一度は勘当された彼女だが、最終的に両親が遺骨を引き取り納骨したという。
実家の両親は娘の事で肩身がせまくなり、しばらくは、家に引きこもる生活をしていたという。
「♪悪い女だと人は言うけれど、いいじゃないの、幸せならば」なんて歌があったが、彼女は幸せだったのか。
家族を不幸にした彼女の幸せは本当の幸せではない気がする。
「♪人生いろいろ」は島倉千代子、チヨちゃんの歌だ。
「♪男もいろいろ」(確かにそうだが)
「♪女だっていろいろ」(その通り)
「♪咲き乱れるの」(チヨちゃんは、咲き乱れて・・・散ったのか)
それから、数年後にまた同窓会があった。
前回より私も含めて、みなそれなりに「人生いろいろ」の経験を重ねオジサン、オバサンになっていた。
物故者の名が呼名され参加者で黙祷したが、年齢の割には結構多い。
チヨちゃんの名もあった。
二次会のカラオケで、私は「♪人生いろいろ」を歌った。
途中から全員合唱になって、まるで昭和の歌声喫茶だ。みんな、だんだんと声が大きくなる。
「♪人生いろいろ」「♪男もいろいろ」「♪女だっていろいろ」と、それぞれの人生いろいろに思いをこめて歌う。
歌詞の中に「♪ねえ、滑稽でしょう、若い頃」ってあるが、歳を重ねて年老いても人生は死ぬまで滑稽で、こんなふうに、みんなで歌を歌っている。
しだいに涙が出てきた。みんな泣いて歌っていた。
そして、歌が終わり、互いの泣き顔を見て、笑った。
そんな私達を見て、きっと天国のチヨちゃんも泣き、笑ったと思う。
その夜は、三次会まで行って、数名の親しい友人と深酒をした。
昔話になり、学生時代に一番付き合いのあった友人が私に「チヨちゃんはお前に気があったはずだ。気づかなかったのか」と言われた。
「・・・・」返す言葉がなかった。
今度、墓参りに行こうと友人に誘われたが、たぶん私は行かない。
帰り道、夜空を見上げると明るい月が出ていた。
チヨちゃんの笑顔が月の中に見えた。
後書き、この物語はフィクションです。オーヘンリーの短編風にして三部構成にしました。
オーヘンリーの噂をすると、彼がクシャミをして「フィークション」。私が「風に吹かれて」、風邪をひき「フィクション」したわけではありません。
(2021.5.22)アンブレラあつし |