上野公園で地面に水を撒きながら絵や字を描いている。
傘の先にスポンジをつけ水を含ませて、上下逆さまに、ほぼ一筆描きで描く。
水なのでやがて消える。
4、5分で輪郭線が薄れ10分もすれば、あとかたもなくなる。
なくなればまた描く。
かなり怪しいおじさんである。
何が怪しいかというと無駄なことをしているからである。
人は行為に意味や目的を持たせたがる。
行為の動機が分からないと不安になり「君子危うきに近寄らず」と無視をして素早く立ち去る人もいる。
逆に好奇心があれば、その正体を知ろうとする人もいる。
行為の意味を尋ねてくる。
昨年の夏、たまたま出会った新聞記者の熱意に負けて取材に応じてしまった。
新聞の力恐るべし。
公園でも「新聞見ましたよ」と笑顔で声をかけてくる方もおり、こちらも笑顔で応じる「いいおじさん」になってしまった。
でも世間は広い。世界はもっと広い。
「怪しさ」はまだ通用する。
その怪しさを水に混ぜて傘の先から振りまく。
そして何もかも朝露のごとく消えていくのだ。
(2014.6.3)アンブレラあつし |