原田マハの小説「スイート・ホーム」(ポプラ文庫)に次のようなくだりがありました。
「・・・食器棚の一部は、母と私が買い込んだ料理本で埋まっている。・・・かなり年季の入った「家庭料理読本」もある。・・・母はいまでも「初心に戻って」この本を開くという」。
「スイート・ホーム」原田マハ
今でこそ「初心に帰る」なんてことは思いませんが、勤めていた頃は「家庭料理読本」のように初心に帰るきっかけを持っていました。
私は大学4年の時に有機化学研究室所属になり、入社後も15年間は有機合成化学に係る仕事をしていました。
有機合成は有機溶媒中で反応を行い、その後の処理でも溶媒を用います。
大学時に一通りの有機溶媒(少し専門的ですが、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、アセトン、エーテル等)は扱っていました。
大学留学時に有機合成実験に勤しむ筆者30歳の頃(筆者提供)
入社後の最初の赴任地は長野県上田市にある工場でしたが、最初は研修ということで現場に入りました。
有機合成で、ある医薬品原料を作っていましたが、最後の結晶化にイソプロピルアルコール(IPA)を用いていました。
それは大学時には扱ったことのない溶媒で、ちょっと独特の臭気があります。
IPA:イソプロピルアルコール
入社2年目からは研究所勤務でしたが、実験でIPAを使うと思わず「初心に帰る」気がしました。
入社した頃は希望と不安、そして程好い緊張感を抱いていたのが、月日が経つと共にそれらは薄まってきます。
惰性に流されていると感じた時、よくIPAの臭いを嗅いだものです。初心に帰るきっかけを持っていたことは、会社生活にプラスだった、と今にして思います。
ツーさん【2022.8.8掲載】
葉羽 僕の場合はアレだったな、県の採用面接で「公務員になろうとした動機は?」と聞かれた時、「実家は会社経営なのですが、父は『どうすればもっと利益が上がるか、という事にどうしても捉われる』と言っていました。私は、そういう事を考えず仕事すべてが”世のため人のため”になる・・そんな職に就きたかったのです」と(咄嗟に)言っちゃった。いったん自分の口から出た以上、それを全うしなくちゃならないと、苦しい時にはいつも思い出すようにしたいたんだ。