三浦綾子の「海嶺」(角川文庫)は、1832年に遠州灘で遭難し北米に漂着した3人が、期せずして世界一周する漂流記です。
その中にこんなくだりがありました。
「・・・このラナウドは十年後に日本へ密航した。捕鯨船にしのびこんだのである。日本に渡ったラナウドは、長崎奉行所に抑留された。そして抑留中、通辞たちに英語を教えた。日本に英語が入った初期の人物として、このラナウド・マクドナルドを忘れることはできない・・・」。
三浦綾子「海嶺」
ストーリーの本流からは外れた、隠し味みたいな挿入場面ですが、このラナウドのことを以前読んだことがある気がしました。
調べるとラナウドは、1年ちょっと前に読んだ吉村昭の「海の祭礼」(文春文庫)の主人公でした。
吉村昭「海の祭礼」
その吉村昭の太平洋戦争を背景とした「深海の使者」(文春文庫)に次のような記述がありました。
「・・・アメリカ陸軍情報部には、伊丹明というアメリカ国籍を持つ日本人青年が勤務していた。・・・終戦後、日本へもどると極東軍事裁判で日本側の通訳になった・・・」。
吉村昭「深海の使者」
その場面を読んでピンと来たのが、これは山崎豊子の「二つの祖国」(新潮文庫)の主人公ではないかということ。
名前は変えてありましたが、確かに主人公のモデルは伊丹明でした。
テレビ東京ドラマスペシャル
乃木希典や新選組の面々が登場する小説は何冊か読んでいて、歴史上有名な人物ですと特にどうというはありませんが、歴史上あまり知られていない人物にこんな形で再会すると、ちょっと感慨深いものを感じてしまいます。
そしてきちんと記憶していたことに、まだまだボケてはいないかと妙にホッとしたりもしました。
ツーさん【2024.10.14掲載】
葉羽 こういう発見って楽しいよね。僕も『黎明期の群像』を執筆するために調査していた時、杉原千畝の出身が後藤新平(福島医学校出身)によって設立されたロシア語学校だった事を知って驚いたよ。ま、その部分は字数制限でボツになったんだけど(笑)