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 その41 美しい国 

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今回の記事は2006年10月に第一次安倍内閣が誕生した時の記事です。二次にわたる安倍政権が幕を閉じた今、敢えて復刻掲載いたします。

鞍馬 大方の予想を裏切らず、安倍晋三さんが自民党の新しい総裁に選ばれ、新しい内閣総理大臣になりましたね。

■ 再チャレンジって何だろう

総裁選で何度も繰り返し、担当大臣まで作ってしまった彼のキーワードのひとつに「再チャレンジ」というものがあります。

彼は別の言葉で、「何度でもやり直しがきく社会」という表現を使っていましたが、結局「再チャレンジ」とは何だろうかと疑問に思います。

よく、シリコンバレーに代表されるアメリカ的労働市場と、日本の労働市場を比較して、前者を失敗を受け入れる、後者を失敗を許さない社会といわれるのを耳にします。

あまりに二元論的に考えすぎですが、アメリカにおいては、特に起業家について、「失敗をした人は同じ失敗を繰り返さないだろうからその分強い」と評価されるのに対し、日本では一度失敗すると「同じ失敗を繰り返すに違いない」と評価されて、二度と浮かび上がってこられないということです。

その傾向をもっとも如実にあらわしているのが、会社の倒産に関する法制度だそうです。

あくまで過去に受けた学校の講義を思い出しながら書いているので、どの法律のどの条文がそうだという具体的なことはいえませんが、多額の負債を抱えて会社を倒産させてしまった場合、日本の法制度では本当に身ぐるみをはがれて後には何も残らず、「夜逃げするしかない」状態に追い込まれてしまいます。

一方のアメリカの法制度では、そこまで追い込まれず、土地家屋や車などは、社会人としての生活を続けていく上で当然必要なものとして保障されるため、再起は十分可能な状態が保たれます。

さらに、私自身は日本でも、もちろんアメリカでも会社を興したことはないので、本当の所はわかりませんが、アメリカ社会というのがとても個人主義的、競争主義的であるという印象がありますが、それはあくまで当の本人が同じリングに立ち、ファイティング・ポーズをとっている間だけで、万が一戦いに敗れ、リングを降りたらば必ず拾う者が現れ、再起に向けた力を蓄える時間と環境を与えられるのだそうです。

もちろんこれは、あくまでその人に実力があればの話ですが。

個人的には、こういう話を聞いたことがあったので、「再チャレンジ」とか「やり直しがきく」ということをいわれると、きっとこのように法制度を改め、かつ失敗を必ずしも汚点と考えないような文化を日本国民の心の中に醸成していくということなのかなと勝手に拡大解釈してしまいます。

■ 多重債務者と再チャレンジの関係

一方で、再チャレンジ担当大臣になった山本有二さんは、私がたまたま見たニュースでは、初めての記者会見で再チャレンジについて質問され、「多重債務者の問題を何とかしなければならない。」とお話しになっていました。

ご本人のホームページでも、「再チャレンジの関係では格差の是正・多重債務者の課題など、与えられた課題に真正面から取り組みます。」(山本有二氏ホームページの「ごあいさつ」より抜粋)と、書いています。

格差とか多重債務というのは、個別の家計や個人の問題です。

つまり、安倍政権が考える再チャレンジというのは、どうやら起業家レベルという限定されたものではなく、むしろ個人を対象にした政策であるようです。

再チャレンジ懇談会

それを裏付けるのが、2005年6月に財務省が作成した、「データから見た多重債務者の像」という報告書です。

報告書中の「当初借入目的」の項では、年収によってかなりの変化があるものの、最大の目的は「生活費補填」となっています。

一部の報道では、多重債務者というのは少なく見積もっても国内に150万人いると推計されているそうです。

財務省の報告書や一部の報道による推計が事実であるならば、国内で約60万人が、生活をするために借金をしなければならない人たちであるということになります。

これには正直驚きました。

■ 美しい国

私の勝手な拡大解釈のおかげで、最初は「この大臣なに言ってるんだ。」などと思っていましたが、彼らが解決しようとしている問題は、現在国内で広がっているといわれている格差の問題であり、再び事業を起こすとかそういうレベルではないのだということに改めて気づかされました。

ただ、これを実現するというのは大変な苦労が必要です。

たとえば自己破産の手続きを簡素化して、多重債務者が解放されやすいようにしたとしても、結局収入が足らない状況は改善されないのでほうっておけば再び生活をするために借金を繰り返すという悪循環が続いてしまいます。

元多重債務者が生活できるような仕事を見つけられる環境をつくる必要がありますし、子どもがいる場合は将来の就職に不利益を及ぼさないように他の家庭と同等の教育を与え、子どもの代で再び多重債務者にさせてしまわないためにもやはり十分な働く場が必要です。

安倍政権はイノベーションによって、彼らの働く場を作ろうとしているのかも知れませんが、技術革新は、新しい市場を生み出すだけでなく、産業から人間を少なからず追い出してしまう効果もあることを忘れてはいけません。

つまり、技術革新が起こらなければ、多くの人手を介して行っていた作業を、一人でできるようになったり、完全に機械に置き換えるようになってしまうことがよくあるということです。

私が以前いた会社では、それまで客先と郵便でやり取りしていたものを、メールで送ることができるようになったため、郵便の仕分けという、アルバイトさんの仕事がなくなってしまいました。

その結果、数名のアルバイトさんが解雇されていきました。

そう考えると、結局、イノベーションで得をするのは、頭脳労働者だけで、非頭脳労働者や肉体労働者との格差はますます広がって再チャレンジどころの騒ぎではなくなるんじゃないかと思えてきてしまいます。

鞍馬【2020.9.22 リニューアル・アップ】

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