深夜の雪が雨になった

 屋根を打つ雨音が雪に消されている
 暗く寒い1日になりそうだ

 熱い珈琲飲みながら
 同じ本を読み返している

 あまりに面白くて
 原作者が8年程かけて歩いて綴った
 内蒙古からチベット、インドを
 何回往復したことか…

 その何度目かのチベットはラサの箇所で
 本を閉じてしまった
 もう過程は暗記できる程にわかっているのだが
 読み終える一抹の寂しさを感じたくなく
 閉じてしまった

 

 そして別の本を開く
 やはり旅の本だ

 その中で 井上靖が、旅情という言葉について語っている
 その旅情に引っかかってしまった
 読み進めながら
 多々ある思い出が蘇ってくる

 

 冬の北へ向かう夜行列車
 闇の中、後ろへ流れ去る街灯り
 不意に現れては去る踏み切りの警報音
 窓に映る眠たげな自分
 でも何故か眠れない

 若い頃
 日本海沿いに下った車窓から見た冬の海
 暗く海と空が繋がっている
 窓には海からの風に乗った雪が打ちつけている

 そこに 繋がっていた海と空の間に
 真っ赤な夕陽が落ちた
 カメラを手にしながら見惚れていた

 インドでもそうだった
 砂漠の中を走る夜行列車で
 眠れぬままにデッキから見た真っ赤な朝陽
 その朝陽を背に
 子供達が追いかけながら手を振っている

 

 MEYEROWITSのCAPELIGT
 8×10で撮ったフロリダの海岸風景集
 柔らかい光に包まれた
 不思議な不思議な写真
 未だ行った事もないのに
 心はCAPELIGTの空を飛んでいる

 

 RAJASTHNの砂漠の中
 360°砂山の中の一本道
 風の音しか聞こえない
 と、遠くから頭に籠を乗せた綺麗な女性が歩いてくる
 目が合うと優しい笑顔が返ってきた

 

 LADAKHの山の中
 歩みを止めて風も止むと
 心臓の鼓動が聞こえてくる
 人の声かなと振り向くと
 向かいの斜面を羊飼いの少年が
 ホ~イホ~イと羊を追っている

 春から夏へと
 気持ちは前へ前へと向かうが
 秋から冬へとは
 前へと向かっていた気持ちが蘇ってくる様だ

 

 本のページをめくる度
 沢山の引き出しが開いてくる
 でも私の旅は終わってはいない
 海の向こうで友が待っている

大和伸一【2025.12.18掲載】

 Photo by 大和伸一
 MP3 by 甘茶の音楽工房「ブナの森に舞う雪」
 Essay by 大和伸一
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