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 その52 黙ってはいられない
「モーニングコーヒー」Benchi time

 NYタイムズの余りにも酷い記事。

 3月29日付の産経新聞の記事で、NYタイムズ紙が日本の大震災に関して「日本は自粛という強迫観念にとらわれている」という論評を載せたという紹介がされています。

◆NY紙「日本は自粛という強迫観念にとらわれている」
(産経新聞:2011.3.29)

 米紙ニューヨーク・タイムズは28日付で「津波後の日本は自粛という新たな強迫観念に襲われた」との見出しの記事を掲載し、日本国民の多くが地震や津波の犠牲者への弔意から日常の活動を縮小するようになり、国民経済への悪影響が懸念されると伝えた。

 東京発の同記事は、日本で「地震、津波、原発で何十万という国民が被害を受けたことから、被災地以外でも、少しでもぜいたくにみえる活動はすべて非難されるようになった」とし、日本国民のすべての層が生活面での「自粛」をするようになったと報じた。

 自粛はまず電力の節約という形をとり、日本国民が「電灯、エレベーター、暖房、トイレ座席の暖房まで止めるようになった」とし、安売りカメラ店の客案内の音声やカラオケ店への出入り、桜の花見、高校野球応援、東京都知事選の候補の音声までが自粛されていると指摘した。

 同記事は自粛が過剰になっていることを示唆し、企業や学校の行事のキャンセルが日本の経済全体の60%に及ぶ消費支出を大幅に減らし、「もともと停滞していた日本経済に浸食効果をもたらし、倒産を急増させるだろう」と述べている。

 また「東京都民にとっての自粛は被災地の人々との連帯を示し、自粛をする側を何か良いことをしているという気分にさせる安易な方法だ。しかし、当人たちは実際にどんな効果をもたらすかはあまり考えていないようだ」とも論評した。

 (~引用:ここまで)

 いかにもありそうな話ではありますが、この記事の「事実認識」には少なくとも二つの大きな誤認があります。

 その一つは、最後の段落で「東京都民にとっての自粛は被災地の人々との連帯を示し、自粛をする側を何か良いことをしているという気分にさせる安易な方法だ」としている箇所。

 計画停電による電力使用の自粛について、そもそも計画停電の必要性は「被災地に電力を送る」ためではなく「東京電力管内の電力の供給能力が需要に追いつかない恐れ」があるからです。

 東京電力管内の電力の主たる消費地は首都圏であり、その首都圏の電力は福島原発などをはじめとする地方から供給されていました。

 原発事故によってその供給力が減じられたため、首都圏は自ら電力使用を自粛しなければ不測の大停電の恐れがあり、いわば『自分自身のため』に自粛しなければならなかったのです。

 (もちろん、そのうちのいくらかは被災エリアの消費にも回るが、ウェイトは遥かに小さい。)

計画停電による地下鉄の混乱

(東京メトロ/浦安駅)

 そして、もう一点。

 「被災地以外でも、少しでもぜいたくにみえる活動はすべて非難されるようになった」ために、「カラオケ店への出入り、桜の花見、高校野球応援、東京都知事選の候補の音声までが自粛されている」とされていますが、その主な理由は、計画停電の初期に生じた混乱~地下鉄の営業停止により帰宅の足が奪われたことや、ガソリン不足により車での移動が制限されることにあります。

 論評にあるような「ぜいたくに見える活動が非難されるようになった」という理由もゼロではないでしょうが、そこは決して「主たる理由」ではなく、あくまでも首都圏に暮らす人々自身に生じた環境の変化が大きいと言えるでしょう。

 百歩譲って…

 被災地以外の人々が被災地のためにイベントや酒食を伴う遊興を「自粛」しているとしても、それは決して「他人に非難されるから」ではなく、「自らが信じる行動」と理解したい。

 何故ならば、今回の大震災による被災感情は、東日本にとどまらず、被災地の出身者、親兄弟や親しい友人・知人が被災地にいる人々など、全国で共有しているからです。

カトリーナ・ハリケーン被害

(被災地/2005年)

 アメリカに住むあなた方…あなた方は、カトリーナ・ハリケーンで多くの自国民が被災した時に、平気でお酒を飲み騒ぐことができたのですか?

 もし、そうだったとするなら、私たちはあなた方と「親しい友人」にはなれないでしょう。

 日本人は、苦しんでいる同胞を思い遣る心を捨ててまで「景気」を優先することなどあり得ません。

 それならばむしろ、共に苦しみを分かち合う道を選ぶのです。

 《配信:2011.3.31》

葉羽葉羽  NYタイムズ紙は、時にこういった見当違いの記事を掲載することがあります。せめて「事実関係」の把握と分析くらいは、しかるべき人にしっかりとチェックしてもらいたいものです。

 

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