世界の「水上生活者」たちの話。

今から30年ほど前、ケビン・コスナーが主演した『ウォーターワールド』という映画がありました。
海面上昇により海だけが広がる海洋惑星となってしまった地球で、人々は海上に浮遊島を建造して生き残っていました。
彼らの夢は、地球上のどこかに存在するはずの「ドライランド」を見つけること。
『ウォーターワールド』
もし、海面上昇がこのまま続けば、いつかその「悪夢」が現実となる日が来るかもしれません。
そして、その日が来ればウォーターワールドで描かれた「水上生活」の知恵が生きて来るかも・・。
さて、リアル世界で「水上生活」と言えば、まず思い浮かぶのがベネツィアでしょうか。
でも、水上での暮らしはベネツィアの専売特許ではなく、南米、アフリカ、中東、東南アジアと、世界全域に広く分布しています。
その形態は、Wikipediaによれば以下の4類型があるとのこと。
1 停泊させた船の中で生活を行うもの

2 陸上に建てる家と同様のものを水上に浮かべるフローティングハウス

3 浅瀬に杭を打ち、その上に高床式住居を建てるもの

4 河川沿いに一階を船着場、二階を住居とする水辺住宅

僕が現役時代、タイの水上集落を視察に行ったことがあります。それは、家庭排水をそのまま湖に放水している不衛生な住環境を日本のODAを活用して改善しようとする予備調査。
訪れたのはタイ北部の集落でしたが、現在、バンコク周辺でもこのような集落が残っているようです。(バンコク近郊「アンパワー地区」の水辺集落↓)
「排水改善」は為されているのかな・・ちょっと不安ですが。
また、『JUNの海外駐在員便り』のNEWS-72で「湖上の町再訪」が報告されたことがあります。
カンボジアの「湖上の町」とは、東南アジア最大の湖「トンレサップ湖」周辺に点在する水上集落群で、JUNが行ったのは乾季でしたが、雨季になるとこんな景色になります・・
トンレサップ湖は、雨季と乾季でその大きさが劇的に変動し、雨季には流れ出るメコン川の水が逆流し、琵琶湖の16倍の多大きさになるのです。
上は浮遊住居ですが、固定式の高床住居群はこんな感じ(↓)
高床住居群
床杭は、5メートル以上ありそうですね。
なお、JUNが現地でGoogle Mapを検索したら、すぐ近くに「ナイトクラブ」の表示が出ていたので驚愕。「嘘だろー!」と言っておりました(笑)
次の写真は、上空から見た「最雨季」のトンレサップ湖(↓)
これ「水害」の写真じゃないんです・・なんとも逞しいですね。
ところで、この日本でも大規模な水上集落が存在していたことをご存じでしょうか。それは他でもない「東京」にあったのです。
それは昭和初期、月島・佃島の川筋で活躍していた水運業者たちの住居。彼らは大型の運搬船で運ばれて来た物資を、都内の川筋を利用して艀(はしけ:小型船)で配送していました。
(※1960年頃に撮られた彼らの写真がWikiにありました↓)
その数は、昭和2年月島署の調査によると11,290隻で従事人口は31,036人。この半数が陸上に住居を持たない「水上生活者」でした。

彼らの福利厚生・防犯のため「水上学校」や「水上警察」などが設置されましたが、1960年代後半から水上貨物のコンテナ化が進み「艀」の需要が減るにつれ、水上生活者の人口は激減の一途をたどったということです。
次は、南米ペルーとボリビアにまたがる「チチカカ湖」。ここにはウロス島と総称される、集落自体が湖上を浮遊する「葦の浮島」があります。
チチカカ湖は、アンデスの標高3,800メートルの高所にある湖で、その大きさは琵琶湖の12倍ほど。
湖上には「トトラ」と呼ばれる葦を編んで浮かべた浮島がいたるところにあり、現在もウル族などの先住民が居住しています。

島も「トトラ」なら住居も「トトラ」製、家具もベッドも「トトラ」製で、薬代わりにもなり、お腹が空けば食糧にもなるという優れモノ。
一応、「錨」のようなもので固定されていますが、それでも動いてしまうのが自然の理。

複数の家族が集まって協力しながら居住していますが、仲が悪くなったりすると、島ごとノコギリで切り裂いて別れるのだそう(笑)
ラストは世界最大級の水上集落、ブルネイの「カンポン・アイール」。
その歴史は古く、1千年以上前に誕生し、15世紀の記録によれば25,000世帯が水上で生活をしていたと伝えられます。
ここが他の地域と違うのは、水上生活者の多くが貧しくて水上生活せざるを得なかったのに対し、ブルネイの場合「好んで」水上に居を求めた人々というところ。
したがって、立派な通路が整備されていたり・・

学校やモスクがあったり・・

水上博物館があったり・・

と、至れり尽くせり。さすがお金持ち国家ブルネイ!
なるほど・・これからは「やむを得ず」ではなく「快適な生活」を求めて水上生活を構想するのもいいかも♪ ・・と思ったら、既にそういう人たちがいました。
下は、ヨーロッパで流行中の浮かぶ家「ハウス・ボート」。
船舶免許要らずで、移動できる水上住宅。
そして、アムステルダムの「ワーテルブールト」(オランダ語で「水辺の住居」)。
これはハウス・ボートではなく、海面が上昇しても居住できる本格的なフローティング・ハウス。100軒近くの家屋がアイマ湖の岸壁に係留され停泊しています。
これらの「ワーテルブールト」は、潮の干満に合わせて水面を上下しながら浮かんでいるのです。(ほとんどが既に「入居済み」だそうです。)

このようなフローティング住宅のメリットは、こんなところにも・・ということで描かれたパース絵がコチラ・・
なるほど、水中の「地下室」。絶景だ~!
《配信:2025.7.28》

船酔いに弱い方はご注意を(笑)
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