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 その162 本の海で眠る

「モーニングコーヒー」Benchi time

 「紙の本」の素晴らしさを再認識させてくれる施設。

 友人のIzumiさんが、東京弾丸美術館巡りの際に宿泊した「BOOK AND BED TOKYO」のことをFacebookに投稿していた。

 そもそもこういう施設の事を知らなかったし、読み放題の本と組み合わせたカプセルホテルの利用者がとても多いことに驚いた。

 

 それにもまして驚いたのは、この施設のアーティスティックな空間設計。

 天井から吊り下げられたたくさんの劇画原稿など、まるで異世界のようだ。

  BOOK AND BED TOKYO

 そして所蔵されている本もまた、普段の書店巡りではお目にかからないようなオシャレで珍しいモノばかり。

  BOOK AND BED TOKYOの書棚

 そう言えば最近、こんな空間をどこかで見たと思ったら、土湯温泉のホステル「TUMORI」だった。

 方やカプセルホテル、方や温泉ホステルということで空間造形は異なるが、共通しているのは蔵書のタイプ。

 普段の生活で周りにあるミステリやSF、ドキュメンタリー、科学雑誌、漫画本ではなく、アート系や旅紀行、エッセイなど「現実の異世界」にいざなう書物たちがそこにある。

  YUMORIの書棚

 現役時代の「旅」と言えば、その殆どが「仕事」に関わるもので、ホテル・旅館は「泊る」ためのものでしかなかった。

 メインは「その前」の飲み歩きなので、寝る場所さえあればよかったのだ。そこに暇潰しのネットがあれば申し分ない。

 だからこんなふうに「紙の本をお供にして寝る」という・・子供の頃にあった楽しみが、現代人の「癒し」として支持されていることに驚いたのだ。

  YUMORIの温泉施設

『黎明期の群像』を編集・執筆している時に県立図書館に通い詰めたが、「本の海」の中を漂うのはとても楽しかった。

 そう言えば最近、美術館の学芸員を退職した女性が市内で小さな本屋を始めた。

「商売」として成り立つのは大変だと思うけれど、きっと彼女は「本の海」に囲まれた生活が長年の夢だったのだろう。

 「はなみずき書店」にて

 ちなみに我が家の僕の部屋も「本の海」だ。数えたことは無いけれど最大時に二千冊くらいはあったのではないだろうか。

 置き場所がなくなったことと、さすがに家屋の老朽化で二階にある書斎の「本の重み」が気になってずいぶん捨ててしまった。

葉羽大震災の折には大変なことになり、しばらく放置したままだった(笑)

 話を戻して「BOOK AND BED TOKYO」だが、写真で見る限り非常に魅力的な空間だ。

 子供の頃に夢見た空間が、現実として目の前にある。

 

 これはやはり「紙の本」であるゆえの魅力だろう。

 アプリで電子書籍を読むのが通例になってしまったが、その場合はタブレットのコンテンツにしか注意が向かない。

 

 だけれども、こういう空間で読書をするということは、本の中の世界と同時に自分を包んでいる「本の海」を感じながら過ごすことができる。

 これを「贅沢な時間」と呼ばず、何と呼ぼうか。

 国が、地域の書店を守り残すための政策を考えていると言う。おそらく地方書店への補助金の創設などツマラナイ話に収束してしまうのではないか。

 いま紹介した「BOOK AND BED TOKYO」も「TUMORI」も本屋ではない。宿泊や飲食というものに「本の海」という付加価値を与えたものだ。

  BOOK AND BED TOKYO心斎橋店

 そして、それは逆に「紙の本」というものの真価を再認識させるものとなっている。やはり「民間」のアイディアは凄い。

 残り少ない人生だけれど、やはり残り時間は「紙の本」と共に過ごしたい・・そんなことを考えた。

 

 《配信:2025.3.10》

葉羽いつもの「奇妙な話」ではなく、本当の「コーヒーブレイク」でした(笑)

 

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