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「windblue」 by MIDIBOX


初台の新国立劇場(1997年10月開場)で5月26日(火)14時開演のオペラ「ウェルテル」(ジュール・マスネ作曲)を見た。4日間公演の2日目だ。

 新国立劇場で「ウェルテル」が初めて上演されたのは2002年(アルベルト・ファッシーニ演出)。2016年にはニコラ・ジョエル演出のプロダクションが新制作され、これが2019年に再演され、今回も7年ぶりに同プロダクションが採用されている。私は2016年、2019年の上演を見ている。

 奇を衒ったところのない写実的で重厚な演出・舞台だが、三度目の鑑賞の今回、照明(ヴィニチ・ケリ)の見事さに初めて気付かされた。2019年公演はシャルロットをドイツ在住の世界的メゾ・ソプラノの藤村実穂子が歌って話題になった。

今回のスタッフとキャストとあらすじは以下の通り。

 今回のシャルロットはイタリア在住の日本人歌手の脇園彩(わきぞのあや。1988年生まれ)が歌った。今回が脇園のロールデビューだったが、実に素晴らしい声、歌唱、演技だった。昨年9月ミラノ・スカラ座で「チェンネントラ」の主役アンジェリーナを歌うなどまさにワールドクラスの存在に登り詰めたのを感じた。

 2022年の藤村実穂子のシャルロットは母性的な女で運命に流されて行く控え目な印象だったが、脇園のシャルロットは主張もある知的で能動的な若い女を感じた。

 音楽評論家の香原斗志によると医学部志望の秀才だった桜陰高校出身の脇園はオペラ界の大谷翔平(プレジデントオンライン)なんだそうである。浪人中に「椿姫」を見てオペラ歌手になると決意して藝大に入学したのだ。

  脇園彩

 脇園は新国立劇場では来シーズン(2027年4月)に「ばらの騎士」のオクタヴィアンを歌う予定だ。イタリアオペラ、フランスオペラ、そしてドイツオペラの三刀流なるか。

 
 ともに今回がロールデビューのカストロノーヴォと脇園彩

  もう一人の主役ウェルテル役のチャールズ・カストロノーヴォもワールドクラスのテノールだが、第1幕はかなり力んだ歌唱で、これはリリコ・スピントどころかドラマティコではないかと思わせたが、第2幕からは落ち着きを取り戻し、見事な歌唱を披露。第3幕の「オシアンの歌」はまさにレッジェーロな美声・名唱で感動させた。

 

 他の配役は日本人歌手だったが、特筆されるのはシャルロットの妹ソフィー役の砂田愛梨。フランス語の発音が実に心地よく真っ直ぐな声と素直な歌唱が心に残った。もう一人上げれば、シャルロットの父親で大法官役の伊藤貴之の実に暖かい雰囲気の演技と歌唱。

 さらにアンドリー・ユルケヴィチ指揮の東京フィルの圧倒的な名演があった。このウクライナ人指揮者(現在プラハ国立歌劇場音楽監督)は、この新国立劇場では「エフゲニー・オネーギン」(2019年)、「椿姫」(2022年3月)で指揮しているのを聞いているが、こんなに凄味のある指揮者だったかな。

 
 アンドリー・ユルケヴィチ

 オーケストラのフォルテがこんなに意味深く迫真的なオペラ伴奏はなかなかあるものではない。ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月24日開始)と関係があるのではないかなどと考えてしまう。

 第3幕のシャルロットのアリア「泣くがままにさせて」のサキソフォン(角田圭都)を始め木管楽器の舌を巻くような表現。ホルンを始め金管楽器のここぞという時の迫力や繊細な吹奏には魂が震えた。

 東京フィルのコンサートはしばらく聞いていないが、新国立劇場のオーケストラピットに入った最近の東京フィルは並みのオーケストラ・コンサートより聞きごたえがあるのだ。

(20260.6.5「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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