私は自慢ではないがすべての年を鑑賞している。確かにこの演出・舞台・美術・照明はなかなかよく出来ている。そして細かいマイナーチェンジが毎回なされている。そして言うまでもないのだが、台本(フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ)の無駄のなさ、曲が素晴らし過ぎるのだ。
楽聖ベートーヴェンは「フィデリオ」を1曲書いただけで、オペラの分野ではさほどの成果を残さなかった。私が思うに、そのベートヴェン的成果の果実はヴェルディが摘み取ったのだと今回感じた。
この日は4月6日月曜日の14時開演の公演だというのにほぼ満席。私は5日間公演の中日のこの日が狙い目だと思っていた。この後3日の休みがあるので、歌手は全力投球すると考えたのだが、この予想は当たった。

先ずヒロインである高級娼婦ヴィオレッタ役のカロリーナ・ロペス・モレノ(1991年生まれ)。ドイツ出身のボリビア系アルバニア人というがどういう血統構成なんだろう(笑)。
基本はラテンっぽい感じのスリムな美人ソプラノだ。第1幕はもう叫びに近いような高音でハラハラさせたが、これがなぜか興奮するのだ。
なかなか聞けない体当たりの大熱演だった。しかしこの絶叫歌唱は早晩声帯を痛めてしまうのではないかと心配になった。

カロリーナ・ロペス・モレノ
アルフレード役はアントニオ・コリアーノ。端正な歌唱で尻上がりに調子を上げて及第点というところ。
そして、大拍手を送ったのは2023年の新国立劇場で「シモン・ボッカネグラ」「リゴレット」の両タイトルロールで超名演を聞かせてくれたロベルト・フロンターリ(1958年生まれ)だ。
もう60歳代半ばで「椿姫」のジョルジョ・ジェルモン(アルフレードの父親)役はまさに聞きたかった役だ。さすがに盛時の迫力はないが、自然で無理のない発声がこのジェルモン役にぴったり。
熱唱するヴィオレッタやアルフレードと発声法がまるで違う。その中に父親の息子への慈愛、ヴィオレッタに対する同情が滲み出てくる。

ロベルト・フロンターリ
いやあ、これぞヴェルディ・バリトン!この第2幕第1場はこのオペラのまさに核心なのだ。
「娘が結婚できなくなるから、息子のことは諦めて別れてくれ」なんていう日本の新派みたいなこの勝手オヤジの陳腐なセリフは演劇なら笑ってしまうだろうが、それがヴェルディのオペラで歌われると、なんという真実の声に聞こえることか。
いやあオペラって本当に素晴らしい。オペラの存在価値とはこういうところなのだ。

イギリス出身のレオ・フセイン指揮(1978年生まれ)の東京フィルの緩急自在のよく歌う演奏も良かった。この指揮者、タダモノではない。
加えて新国立劇場合唱団も毎度のことながら高水準だが歌い慣れているのか、第2幕第1場のアルフレードのヴィオレッタへの非礼を責める場面でのド迫力はのけぞる程だった。
滅多に聞けない凄演で本当に満足した。