前半はハイドンの交響曲104番「ロンドン」。かなりオーケストラを締め上げているのが分かる。
ティンパニーは硬いマレットの古楽器スタイルだが、他はヴィブラートありの現代風。ティンパニーの突出が気になる。もう少しシットリしたエレガンスが欲しい。繰り返しも励行して30分近い演奏。これは10分ほどのちょっとした序曲で良かったと思う。
20分の休憩後の最初は「ペトルーシュカ」(1911年原典版)。光彩陸離たる色彩の世界。シンバルの音色などちょっと気になるキズがなかったわけではないが、オーケストラの自発性・積極性が素晴らしい。
デュトワはハイドンとは違って手綱を緩めているようだ。フィナーレのペトルーシュカの死の消え入るような表現はやはり指揮者の晩年のみが可能な表現だろう。そして今回「ペトルーシュカ」(1911年原典版)は「春の祭典」に匹敵する大名曲だと感じたが、こんな経験は初めてだ。
続いて「ダフニスとクロエ」。もっとデリケートな開始を期待したが、最初は何気なく始まって、次第に熱を帯びてくる。この曲でもフルート(野津雄太)が舌を巻くような本当に素晴らしい演奏。
終演後、指揮台にフルート首席の野津雄太を上げて名演を讃えるデュトワ
最近良い演奏だと自然に涙が溢れるようになって困っているが、「ペトルーシュカ」にも増して目頭が熱い。クライマックスは特に切迫したものではないが、十分な迫力。
終演後は当然デュトワの一般参賀(ソロ・カーテンコール)があると思われたが、代わりにコンサートマスターの崔文洙(チェ・ムンス)が登場して「マエストロはお疲れで出て来れません。御了承ください」。
しかし、デュトワ・マジックを十分堪能した一夜だった。「音色の魔術師」であると同時にオーケストラ・トレーナーとしての卓越した手腕(練習は異例で5日間あったようだ)を見せつけた。
日本のオーケストラは、実力と名声と指導力のある指揮者の下では、厳しい練習もこなして十二分の成果を見せる好例ではないか。実際は指揮者をナメテいてこんな演奏会ばかりではないのだ。
それにしても、今回シャルル・デュトワ87歳、先週は88歳のエリアフ・インバル指揮都響でブルックナー交響曲第9番の名演を聞いた。
2人とも背筋がピンとして椅子のお世話にもならず元気一杯の年齢を感じさせぬ指揮ぶり。1936年生まれの2人の巨匠の凄い芸術を記憶に留めてこの上なく幸せである。