昨日(5月25日)、新国立劇場でオペラ「椿姫」の公演4日目を鑑賞。
第3幕ではそこかしこからすすり泣きの声が聞こえる。
「オペラで泣くものかな」と思うが、いやあ泣き所をヴェルディの音楽と中村恵理(ヴィオレッタ)が突いてくる。
2022年3月のコロナ真っ只中の時にも中村恵理は来日叶わぬ外人歌手の代役でヴィオレッタを見事に演じたが、その時よりもさらに深化している。
第1幕のヴィオレッタは歌の上手さと声の威力があれば、感情移入はそれほどでなくても十分聞かせることができる。その点、声の威力が今ひとつの中村恵理に不満がなかったわけではない。
しかし続く第2幕と第3幕では、ヴィオレッタ役は演技と一体になった作りものではない歌唱が求められる。役になりきらないと聞き手を納得させるのは難しい。
中村恵里は、それを十二分に成し遂げた。こんなに哀しいヴィオレッタは実演で聞いたことがなかった。
そしてこのヴィオレッタに触発されるように、第2幕以降、アルフレード(リッカルド・デッラ・シュッカ)もその父ジェルモン(グスターボ・カルティーリョ)も見事な歌唱を披露した。
とくに第2幕のジェルモンとの息詰まる対決は聞きものだった。
そして、第3幕のヴィオレッタの入魂の歌唱と演技。涙なくしては聞けない大名演だ。今後、「椿姫」を聞く時の、高いハードルになった。
(2024.5.31「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽)
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