5月5日(日)の深夜、NHKBS4Kでヴェルディのオペラ「ドン・カルロ」が放映された。
2023年12月7日のシーズン開幕日の公演だ。なお版はミラノ・スカラ座初演時の4幕版。
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ネトレプコとガランチャ |
《ものがたり》
スペインの王子ドン・カルロの許嫁、フランスの王女エリザベッタは、政略結婚によってカルロの父であるフィリッポII世に王妃として迎えられる。絶望するカルロに対し、親友ロドリーゴは「圧政に苦しむ民を救おうと立ち上がろう」と彼を奮い立たせる。しかし、カルロは血気あまって王に向かって剣を抜いてしまった罪で捕まってしまう。
一方、カルロを慕うエボリ公女は、思いがけない出来事からカルロの本心を知ってしまい、エリザベッタへの嫉妬を燃えあがらせ、彼女を陥れる。さらに、カルロを救おうとしたロドリーゴは宗教裁判長の刺客により殺害される。ロドリーゴの身代わりによって解放されたカルロは、フランドルへ向かう前にエリザベッタに別れを告げる。そこへ国王と宗教裁判長が現れ、2人を逮捕しようとするが、前王カルロV世の霊声が響き渡り、カルロは前王の霊廟に引き込まれていく。
演出:ルイス・パスクワル
「ドン・カルロ」
<出演>
フィリッポニ世:ミケーレ・ペルトゥージ
ドン・カルロ:フランチェスコ・メーリ
ロドリーゴ:ルカ・サルシ
大審問官/修道士:パク・ジョンミン
修道士(カルロ五世):イ・ファンホン
エリザベッタ:アンナ・ネトレプコ
エボリ公女:エリーナ・ガランチャ ほか
合唱:ミラノ・スカラ座合唱団
管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー
収録:2023年12月7日 ミラノ・スカラ座
ネトレプコ(ロシア出身のソプラノ、52歳)とガランチャ(ラトヴィア出身のメゾ・ソプラノ、47歳)という女声は看板に恥じない貫禄の歌唱と演技で惹きつけられた。しかし、この大人気の2人もいい歳になった。
男性ではメーリとサルシがこの2人に匹敵する出来。この4人の素晴らしさで、深夜23時20分からは翌日の2時半までTVに齧り付いて見続けてしまった。さすがミラノ・スカラ座である。
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メーリとサルシ |
しかしフィリッポ二世と大審問官は迫力不足。とくに大審問官はピンチヒッターで、盲目という設定がまるで無視されていた。
シャイー指揮スカラ座管弦楽団は、まあ及第点というところ。もう少し厳しい縁取りの鮮烈なオーケストラ伴奏が好みだが、上手いことは上手い。
それにしてもこの「ドン・カルロ」というオペラは、私の最愛のヴェルディのオペラだが、キャストが揃えばヴェルディの最高傑作であることを納得させる。
ジュゼッペ・ヴェルディ
言わば歴史もので、ストーリーがかなり複雑だが、なんとなく歌舞伎を思わせる格調がある。王権神授説をベースにした王と教会の権力争いが見事に描かれている。
加えて政略結婚の悲哀(ドン・カルロは自分の許嫁を父親に取られる)がテーマになっている。
これに比べると同じヴェルディの現代ものオペラ「椿姫」は新派ということになるだろうか。5月末には新国立劇場でこの「椿姫」を鑑賞予定。
ヴェルディは改作を数えないと生涯28のオペラを作曲した。数えてみたら私が実際に舞台で見たのは、そのうちわずか10。
まあ、見なくてもいいという初期のオペラが半分ほどあるので、あとどうしても見たいのは「イル・トロヴァトーレ」と「仮面舞踏会」だけになった。
一方、ヴェルディと同じ年1813年に生まれたワーグナーのオペラでは初期の「リエンツィ」を除くと主要作品9作品は全て実演を見ている。どっちが好きかというのは難しい質問だ。
(2024.5.17「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽)
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