昨日(11月25日土曜日14時)にキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルのコンサートをサントリーホールで鑑賞。
最終抽選でやっと手にしたチケットだ。それでも熱望したAプログラムではなくBプログラムだったが、良席(1階14列ほぼセンターの20)だったので大枚(4万5000円)をはたいた。
NHK交響楽団を筆頭に日本のトップオーケストラのチケットは値上げされ現在9000円前後。ベルリン・フィルやウィーン・フィルにその5倍の価値はないというクラシックファンの声がある。
「凄いのは分かるが日本のオーケストラを5回聞いた方が良い」というのだが、最高を知らずして本当のファンと言えるのか。一体どこがどう違うのか知りたくないのだろうか。
それに5回分聞けるというが、そんなに食指が動く日本のオーケストラのコンサートというのはそんなにない。私はやはり最高の芸や芸術を死ぬまでに十分知りたいと考え、この世界最高峰の2大オーケストラの来日公演は聞いている。
それにわざわざベルリンやウィーンに行くことを思えば安いものである。「海外公演では手抜きする」などという声もあるが、今どき有り得ない話だ。
ハシタナクてかつ細かい話だが、11月12日日曜日にこのサントリーホールで聞いたウィーン・フィルのコンサートがS席4万2000円で、ベルリン・フィルはサントリーホールS席4万5000円だった。この3000円の差は何なのか。この日、なんとなく分かった気がした。
まずこの日の第1曲目はマックス・レーガー(1873〜1916)作曲のモーツァルトの主題による変奏曲とフーガ。作曲者生誕250周年ということで取り上げたのか。
ヨーロッパではよく演奏されているようだが、youtubeでいろいろな演奏で予習したが、なんともつまらない曲だ。唯一チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルの録音がなかなか意味深長な演奏だった。
この日は、クラリネット(フックス)の素っ気ないテーマ吹奏で始まったのだが、その後素晴らしい展開になる。特にヴァイオリンの弱音が信じられないほど繊細。「絹のような」という表現がピッタリなのだ。
フーガの前の短調の変奏はあまりの美しさにこのまま永久に続いて欲しいと思ったほどだった。フーガも実に各声部が立体的に生きている。これはやはり素晴らしいオーケストラだ。選曲の意図が納得できた。
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後半は、リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」。カラヤン時代からこのオーケストラの看板みたいな曲だ。冒頭のコントラバスとホルンのテーマの迫真力が暴風のように凄い。シュテファン・ドール率いるホルン軍団が大活躍。
ドールは指揮者みたいにオーケストラの先頭に立って樫本大進の「伴侶」のソロ(どうもあまり好調ではない感じ)にも付き添う。この曲ではこんなにホルンが大活躍していることに初めて気付いた。
ピッコロが先導する「英雄の敵」の凄まじい邪悪・嫉妬の攻撃性が身の毛もよだつ程で、聞いたことがない。「英雄の戦場」のド迫力にはのけぞった。このあたりは指揮者の解釈というよりスター揃いのオーケストラの自発性を感じた。
そしてコーダのドール(ホルン)と樫本大進(ヴァイオリン)のコーダの消えゆくようなあえかな世界には目頭が熱くなってきた。
このベルリン・フィルの凄さは実に分かりやすいのだ。ここがウィーン・フィルとの違いなのではないだろうか。当たり前だが、まず技術のレベルが圧倒的。
今回ウィーン・フィルではかなりハラハラしながら聞いたし、実際ハズしている箇所もあった。しかし、ベルリン・フィルではまずそんなことはない。
もちろんウィーン・フィルには技術を超えた表現があるのだが、まあ分かりやすい凄さの分だけ、ハシタナイ話だが前述した3000円の差になっているのではなかろうか。
前回ラトル指揮で「春の祭典」をこのサントリーホールで聞いた時(2013年11月18日)よりも、今回の方がこの楽団のパワーと高い技術に関しては明らかに上だった。
そして昨日コンサートマスター(樫本大進)と首席第2ヴァイオリン(マレーネ伊藤)、首席ヴィオラ(清水直子)と3人の日本人トップが揃い踏みしたのにも、改めて驚いたことを付記しておきたい。
(2023.12.1「岸波通信」配信 by
三浦彰 &葉羽)
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