とくに「立花隆 最後の旅」が衝撃的だった。2021年4月30日に80歳で死去して、その訃報が報じられたのは、なんと54日後の6月23日だった。
なんで「知の巨人」の死去はこんなに長く伏せられていたのか?
その謎が分かった。立花隆の遺言は「遺体はゴミと一緒に捨てて下さい。蔵書は全て古本屋に売り払って下さい」というもの。
さすがにゴミ扱いはできずに、家族葬され、骨は樹木葬されたようだが、死の一年前に体調を崩して入院した時も、全ての検査を拒否したのだという。
岡田ディレクター
17年間、立花隆を追い続けたNHKの岡田ディレクターは文京区の通称「猫ビル」と呼ばれる立花隆の仕事部屋を死後訪れて、空になった書棚を見て驚く。
遺言通り単行本だけで5万冊あった蔵書はほとんど全て古本屋に売り払われていたのだ。岡田ディレクターには、段ボール100箱分の資料が託された。
立花隆の晩年の興味の対象は、死後の世界に向けられていたという。
結局科学的なエビデンスは得られず、「人間は死ねば無に帰する」というのが立花隆の結論だったようだ。
しかし「人間」には文字による「共同知」(集団知)というものがある。「人間」以前の単なる遺伝子による種の伝達にこの「共同知」(集団知)が加わったのだという。
だから「人間」そのものは死によって灰に帰しても、それが伝達され進化を続けていく。どうもそれが立花隆の結論だったようだ。
このあたりは、田坂広志の「ゼロ・ポイント・フィールドに人間の意識が全てホログラム理論によって波動が蓄積される」という死後世界論に似ている。ゼロ・ポイントとは、万物の嚆矢である量子真空のこと。
このゼロ・ポイント・フィールドに接続できる人間というのが、イタコであり、霊媒師なのだ(このあたりは、田坂広志著「死は存在しない」(光文社新書 2022年10月19日発売に詳しい)。
番組中の立花隆の発言で面白かったことを以下に記す。
・本は外部記憶装置
・一冊の本を書くのに最低100冊の本を読まないとならない。インプットとアウトプットのIO比は0.01です。
・まず何か新しいものに興味を持ったら本屋に行って関連本を買い漁ります。本を書いて儲けてもそれがほとんど本代に消えていくわけです。
・私はもともと勉強好きな勉強屋なんですよ。
・癌には最終的には勝てません。そもそも癌の半分は人間の生きようとする活力と同じもの。半分はその活力を奪う悪の力なんです。
・震度7でも倒れない頑丈なビルを作ってくれというので出来たのがこの仕事場の猫ビル。お陰で借金だらけ。85歳までローンを払い続けないことになっちゃった。
とにかく立花隆を語る人々は、立花の資料を読み込む速さに驚嘆している。
そして、インタビューを受けた専門家が「ここは専門的なのでハショリますが...」というと「あ、ハショらないで下さい」と遮ったという。
ある意味で、専門バカが多過ぎて、それが真理到達を阻害しているというのが立花隆の一貫した立ち位置だったようだ。