たいへんな話題になっている。東証プライム上場企業のスノーピークの山井梨沙社長(34歳)が既婚男性との交際・妊娠を理由に辞任を申し出て、9月21日に電撃辞任した事件だ。
山井梨沙氏が実父の山井太(やまいとおる、62歳)氏の後任として社長就任したのは、2020年3月27日。それから2年6カ月の在任期間ということになる。
一体、既婚男性との交際・妊娠を知らされて、この父娘にはどんな修羅場が展開されたのだろうか。
父親山井太会長は、ビンタぐらいはしたのではないかというのは、この親娘のことをよく知らない人だろう。
山井太会長は驚きはしただろうが、「しょうがないなあ。この娘を社長にした俺の不徳の致すところだ」と即座に観念したのではないだろうか。
東証一部(当時。現在は東証プライム)上場企業に若き女性社長誕生。しかも右腕にはヘブライ語で「自分を愛するように隣人も愛せ」というタトゥーが入っているタトゥー社長として話題になったものである。
山井太会長が娘を抜擢したのは、2013年9月にアパレル事業課を立ち上げてデザイナーも務めた「Snow Peak Apparel」が成功したからだ。さらに2020年3月には新たなアパレルブランド「ヤマイ(YAMAI)」もスタートさせている。
山井梨沙氏は文化ファッション大学院大学ファッションデザインコース修士課程を2011年卒業後、某アパレルに1年間勤務したが、「思うような仕事ができない」と父に言ったところ、「それならウチでやればいい」ということでスノーピークに入社したようだ。
こうした入社の経緯もあるが、山井梨沙氏がたぶん今でもやりたい本当の仕事はファッション・デザインなのではないだろうか。好んで社長業をやっていたようには思えない。
娘の社長抜擢はスノーピークに新風を吹き込もうと思った山井太会長の一種の賭けだったのではないだろうか。
さすがに東証プライム上場企業の社長ということで、かなりお行儀よくしていたようだ。しかしインスタグラムには、「地」がかなり出ていたようで、ウンコ座りで煙草を吸うヤンキー丸出しの写真などの他に、自分の本棚を公開している。
「若草物語」(ルイーザ・メイ・オルコット)、「悪徳の栄え」(マルキ・ド・サド)、「孤独な青年」(アルベルト・モラヴィア)、「夜間飛行」(サン・テグジュペリ)、「フラニーとズーイ」(J・B・サリンジャー)、「悪魔と両性具有」(ミルチャ・エリアーデ)、「悪魔のいる文学史」(澁澤龍彦)、「エロティシズム」(澁澤龍彦編)、「ドラコニア奇譚集」(澁澤龍彦)、「薔薇十字の覚醒」(フランセス・イエイツ)、「行為と肉体」(市川雅)、「女性状無意識/女性SF論序説」(小谷真理)、「秘密の動物誌」(ジョアン・フォンクベルタ、ペレ・フォルミゲーラ)、「秘録・日本国防軍クーデター計画」(阿羅健一)と、ちょっと偏ってはいるがなかなか知的レベルが高い本棚である。
しかし東証プライム上場企業の社長の本棚にはとても思えない奇抜さだ。一般的にこういう人は企業経営には向いていない。もっとクリエイティブなセクションで活躍すべきなのだ。
インスタグラムにはちょっと刺激的な投稿もある。
◆セックスはしなさい/犬は撫でなさい/そろそろ夢はあきらめなさい
◆脚立から見える世界に住みついて/君のつむじを眺めて暮らす
◆鈴虫がうるさい夜は/父さんの形見の深いプールで眠る
今となってはいずれの投稿も意味深で、現実とダブって見えてしまう。俳人だか歌人の才能もあるようだ。この方、アウトドア関連企業の社長にしておくのにはもったいない才能だ。
山井梨沙氏は「クリエイティブな経営を目指したい」と常々言っていたというが、そのクリエイティブが行き過ぎてカーヴを曲がりきれなかったということなのだろう。それとも社長業は2年半と最初から決めていたのか。どうもそんな感じがする。
しかし、実に惜しい才能である。スノーピークの子会社というわけにはいかないだろうが、アパレルの新会社を立ち上げて、停滞する日本のアパレル市場に新風を吹き込んでほしいと思う。少なくとも知名度は圧倒的であるから、よほど酷い商品でない限り良いスタートが切れるのではないだろうか。
さて、注目の株式市場だが、すでに8月12日の第2四半期決算(1月〜12月)発表時に今期業績の下方修正を発表し、2744円(8月12日終値)から2081円(9月8日終値)までかなり下げたこともあり、9月21日の衝撃の社長辞任発表があっても、株価はさすがに翌日わずかに下げたものの、その後ほとんど変化はない。
山井梨沙社長がいなくなっても、業績にはあまり影響がないというのが、投資家の見立てである。