「windblue」 by MIDIBOX


既報のように、インポーターの三崎商事が8月1日に大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。帝国データバンクによれば、負債総額は46億6300万円、従業員は47人だという。

 営業は継続しており、アパレル業界の事業再生に特化した投資ファンドであるアパレルReSTARTファンド(株)との間で、スポンサー支援に関する基本合意書を締結している。

 個人的には自己破産ではなく民事再生で再建を目指しているのが意外だった。

 コロナ禍と最近の急激な円安が原因とか書かれている記事が多いが、三崎商事倒産に至るまでの同社固有の事情については書かれていない。

 幾分かは事情を知っているので記しておく。トルストイではないが「幸福な家族はどれも似通っているが、不幸な家族は不幸のあり方がそれぞれ異なっている」(小説「アンナ・カレーニナ」冒頭)。

 三崎商事は、創業者の三崎政二氏(みさきまさじ、香川県大川郡神前町1932年9月3日生まれ)が1963年に大阪・船場に設立した。

三崎商事本社

 政二氏は同志社大学卒業後、オリエンタル商会、コロネット商会を経て独立したが、コロネット商会(後に伊藤忠商事に買収されてコロネットに社名変更)の創業者の桃田有造氏に私淑していたようだ。

 いわゆるサン・フレール、アオイ、三喜商事の三社に代表される大阪のインポーターの本筋とはちょっと毛色が違っていて、1980年代に売り上げが3倍(1980年57億8400万円から1990年183億2500万円)に急成長したのは、創業者三崎政二氏の商才によるところが大きかった。

 1975年から輸入・販売を三崎商事が手掛けた「ゲラルディーニ」はビッグブランドに成長し今も同社のメインブランドだ。

 1984年、1985年には「ジェニー」「ビブロス」という当時の流行の先端を走っていた両ブランドを獲得して業界をアッと言わせた。

 その後も次々に海外ブランドを獲得したが、1996年激しい争奪戦の末に「ドルチェ&ガッバーナ」を手中に収めたのは、いまから思えば同社の最後の輝きだったかもしれない。

 2002年にはドルチェ&ガッバーナ ジャパン社が設立されてブランドの扱いはなくなり、その失地回復にかなり手間取ったようだ。

 1990年代後半に「グッチ」が売れまくっていた当時、「あんな竹の把手のハンドバッグを肩にかけたら肩コリになりますよ。それに比べたらこのソフトで軽い『ゲラルディーニ』は値段も安いし、大阪のおばちゃんたちはみんなこれですよ」と語っていた三崎政二氏の声が今でも聞こえてくる。

ゲラルディーニ

 インポーターのオリジナルブランドとしては大成功した「エルミダ」については、「あなた、このツイードがわかりますか?リントン社製ですよ。『シャネル』と同じですよ。それで値段は3分の1ですよ。これは買わにゃ損ですよ」と自慢していた。そんな商売人であった。

 三崎政二氏は75歳の2008年3月に代表取締役会長になり、社長職を長女の娘婿である三崎龍哉氏に譲った。すでにその2008年2月期の年商はピーク時の(1991年2月期213億8000万円)の60%程度の129億4400万円まで減少していた。

 1990年の日本のバブル経済崩壊の影響が最大要因だが、この2008年9月15日に起こったリーマン・ショックが第2の要因になってインポーター各社をさらに苦しめることになった。

 その7年後の2015年9月5日には、三崎龍哉社長が心臓発作で54歳の若さで急死してしまう。これが三崎商事にとってはまさに痛恨事だった。

三崎龍哉氏

 その後任には創業者の政二氏の長女で龍哉氏の妻だった三崎久美子氏が(当時53歳)が就任した。久美子氏は大学卒業後数年間三崎商事に勤務していたとは言え、経営の経験はなかった。

 その後、すぐに長男の勝弘氏が社長職に就任していた。この母と息子は古参役員をあまり重要視せずに人件費削減や店舗縮小の縮小均衡の経営戦略を進めていったようだ。

 2017年6月30日には、創業者の三崎政二氏が85歳で老衰のため逝去。葬儀の喪主は三崎勝弘社長だった。やはりこの2015年の現役社長の急死、2017年の創業者の死去のダメージは大きかった。

 古参役員たちが同社を次々と去った中で経営立て直しが進められて来たが、2020年2月からの新型コロナウイルスの感染拡大が全世界を襲う。そして2020年以来ジワジワと進んだ円安も経営を直撃した。

エルミダ/旅コーデ

 2020年5月15日に1ユーロ=115円だった為替レートは2022年6月24日には1ユーロ=142円まで下落した。

 日本のインポーターの場合1ユーロ=130円が損益確保の限界点と言われており、三崎商事が50周年を迎えた2012年2月期では59億6100万円あった売り上げはその後の10年間で半減し、60周年だった2022年2月期では売上高31億1000万円で大きな赤字を計上していた。

 三崎商事はインポーターの中でも借り入れがかなりあり有利子負債が大きいと言われており、ここに来て資金繰りの悪化に歯止めがかからず、自主再建を断念した。

 インポーターではないが、「グッチ」「エルメス」「フェラガモ」など高級ブランドを日本に紹介して来た高級品セレクトショップのサンモトヤマが2019年9月30日に自己破産したのに続いて、一時代を画したインポーターである三崎商事が倒産(民事再生申請)してしまった。

「資産を持っているインポート業界最大手三喜商事と伊藤忠の子会社であるコロネットはなんとかなりそうだが、他は分からない」と業界関係者は語っているが、コロナと円安というダブルショックが仮に消えたとしても厳しい道のりが待っている。

(2022.8.5「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

PAGE TOP


  banner  Copyright(C) Miura Akira&Habane. All Rights Reserved.