本来なら、METで上演されたオペラを即映画化して2週間後に世界中の映画館で上演するシステムなのだが、昨年4月からMETは閉鎖されており、かつての人気上演をアンコール上映しているというわけだ(3200円)。
新宿ピカデリーでは先週の金曜日から今週の木曜日まで朝10時から13時まで毎日1回のみこのオペレッタ「メリー・ウィドウ」が上映されているが、この他東銀座の東劇など松竹系でも上映。
話題になった公演だが、カメラワークも含めまさに映画のような見事な出来栄えである。
ハンナ役のルネ・フレミング(上演当時56歳)とダニロ役のネイサン・ガン
ハンナ役のルネ・フレミング(1959.2.14〜)がピッタリのはまり役。年齢的にはギリギリだが、歌唱も演技もやはり超一流。
新婚旅行中に急死した夫の莫大な遺産を引き継いだハンナは現在パリ在住。パリの男たちからは求婚の嵐。
しかし、この遺産が故国(バルカン半島の小国)からフランスに移ったら国家は破綻。これを阻止せんとハンナの元恋人の駐フランス大使館員ダニロが奔走という話。
ダニロ役はネイサン・ガン、その上司大使館公司ツェータ男爵役はトーマス・アレン、その若い妻ヴァランシエンヌはブロードウェイのスター歌手ケリー・オハラというところがいかにもメトロポリタン歌劇場であるが、このオハラが舌を巻くような芸達者。歌って良し、演じて良し、踊って良し。
ミュージカル「王様と私」の渡辺謙とケリー・オハラ
さらに狂言回し役のツェータ男爵の秘書ニェグシュ役のカーソン・エルロッドなども巧いことこの上ない。
ただし、このオペレッタの底に流れるバルカン半島の小国の悲哀や人生そのものの哀れという面はあまり描かれていないし、興味もないようだ。このあたりはやはりアメリカの歌劇場らしい。
第3幕のマキシムでのカンカン踊りの超弩級の見事さなどはやはりいかにもミュージカルとダンスエンターテイメントの街ニューヨークの歌劇場である。
同じオペレッタでも「こうもり」(ヨハン・シュトラウス)は格式高いヨーロッパの歌劇場でもレパートリーになっているのに、「メリー・ウィドウ」はまず演じられることはないという理由がよく分かる。
月曜日の朝っぱらからの上映だが、高齢者を中心に50人ぐらいの観客がいたのには驚いた。
こうなると評判になっているのに一度も見たことのない二期会の「メリー・ウィドウ」も是非実演で見たいとあらためて思ったのだった。