10月8日に新国立劇場で2020-21シーズン開幕公演のベンジャミン・ブリテン作曲「夏の夜の夢」の公演3日目を見た。
2月のロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」以来実に8カ月ぶりの同劇場公演である。
実に感慨深いが、客の入りは七分といったところだ(すでに入場者数制限はなく全席販売になっている)。
あまり有名なオペラでもないのに、入場者が私の予想を上回ったのは、やはりオペラファンがこの劇場の再開を待ちわびていたのだろう。
このブリテン「夏の夜の夢」は、意外にもこの劇場初演である。
この劇場のブリテン作品上演では「ピーター・グライムス」(2012年10月)の名演が思い出されるが、16本ある彼のオペラでは、この2つのオペラは対極にある作品だろう。
こうしてみるとオペラがブリテンの作曲の中心的な存在だったのが分かる。
必ずしも英語がオペラに適した言語とは思えないが、英語オペラを作る過程でブリテンの音楽言語が確立されたのではないかと個人的には思った。
今回のオペラは、シェークスピアの有名戯曲をベースにした台本で作られているので、話は無駄のない運びでよくできている。
ただアテネの大公の結婚式のために同地の職人が演ずる第3幕の劇中劇は、どうにも笑えない。
いわゆる「笑えない」英国流ブラックジョークなのか、それとも笑えるようにする演出や演技があるのだろうか。
演奏は当初予定の外人歌手が来日できずにオール日本人キャストになったが、これが大健闘。
特にタイターニアの平井香織が素晴らしかった。ブリテンは初演時もお気に入りのコロラツゥーラ・ソプラノのジェニファー・ヴィヴィアンを想定してこの役を書いたようだ。
そしてその夫のオベローンの藤木大地、2組のカップルたちも好演。しかし、英語歌唱の微妙なニュアンスはやはり期待するのが無理というものなのだろう。
コロナ感染対策のために、いつもより、ピットを下げ、編成も小さくした飯森範親指揮東京フィルが、公演3日目ということもあるのか、見事な演奏を聞かせた。特に弱音のニュアンスに大拍手だ。
さらにこれこそこのオペラの主役かもしれない妖精たちを演じた東京FM少年合唱団が特筆すべき合唱を聞かせた。
この合唱団はマーラーの交響曲などでも頻繁に東京のコンサートに登場しているのを聞いているが、いつも好演している。
演出のベースは、デイヴィッド・マクヴィカーのベルギー・モネ劇場の演出をベースにして、コロナ感染対策を施したニューノーマル・スタイルを取り入れたレア・ハウスマンによるものだ。
間隔を開け、抱き合ったり、顔を向き合ったりしない 演出だが、違和感は無かった。
ともあれ、新国立劇場の再開を祝うにふさわしい演奏内容だったと思う。
ニューヨークのメトロポリタン歌劇場は、9月からの今シーズンを休場するという決断をして、オペラファンを落胆させたばかりだ。
ニューヨークやアメリカのコロナ感染は第二次拡大期に入ったという判断なのだろうが、東京の新国立劇場はこのまま今シーズンを全うしてもらいたいと切に祈るばかりだ。