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8月15日は68回目の終戦記念日だった。本来は「敗戦記念日」と呼ぶべきだとは思うが、いずれにしても終戦から68年が経過し、太平洋戦争の風化はますます進んでいるようだ。

 その一方で「なぜ日本は勝ち目のない対米戦争に踏み切ったのか?」をテーマにする書籍の刊行が増えているように思う。

 第2次安倍内閣が戦争放棄の第9条を始め憲法改正を目指していることに関連しているのかもしれないが、私も「日本はなぜ開戦に踏み切ったか/両論併記と非決定」(森山優著、新潮選書)とか「未完のファシズム/持たざる国、日本の運命」(片山杜秀著、新潮選書)などを読んでみたが、溜飲が下がったということはなく、モヤモヤとしたものが残る。

「未完のファシズム」

「未完のファシズム」

 日米開戦と同じように論じるのには少々無理があるかもしれないが、景気は一向に本格回復してはいないのに、次から次にオープンする商業施設に関しても、同じような感慨を抱くことが多い。

 都心に限っても、最近の主なオープンを振り返ってみると、阪急メンズ東京2011年(9月オープン)、ルミネ有楽町店(2011年10月オープン)、東急プラザ表参道原宿、ダイバーシティ、ソラマチ(いずれも2012年春オープン)などはいずれも当初の売り上げ予想を下回っている店舗ばかりだと聞く。

 大阪の梅田地区に目を移すと、JR大阪三越伊勢丹(2011年10月オープン)が不振で、やはり梅田はオーバーストアだと誰しもが思った矢先にグランフロントが今年オープン。当然のことながら厳しい商況に直面している。(※右の背景画像「グランフロント大阪」)⇒

 情状酌量の余地があるケースもある。その商業施設オープンを決定してから実際のオープンまでに大型施設なら3~4年を要し、そのタイムラグの中で景気やその商圏の状況が大きく変わってしまう場合があるからだ。

 しかし、少子高齢化とデフレの波は少なくとも、ここ10年は進行しているわけだし、一昨年、昨年、今年にオープンした商業施設にGOサインを出したのは、2008年9月15日のリーマン・ショック後のことであり、やはり「なぜ?」という疑問は残る。

東京ソラマチ

東京ソラマチ

 日本がバブル景気に沸いた1980年代後半のことだった。ある百貨店のトップにインタビューしたことがある。

 バブル景気に乗って、その百貨店は積極的な出店計画を発表したばかりだった。あまりにも強気な営業計画と出店政策で、その中にはどう考えても勝算のない出店も含まれていた。

 私は恐る恐るその点を尋ねてみた。案の定、その社長は顔色を変え、少しばかり語気を強めてこう答えた。

 「あなたは経営というものをした経験がないよね。経営者には『事業欲』というものがあって、これはもう止むに止まれないものでね。これをなくしてしまったら経営者は失格なんです」。

 今でも、その「事業欲」という、普段あまり耳にしたことのない言葉を思い出す。その言葉は分かりやすく言えば、「野望」。天下統一を目指す戦国武将のような心意気のことだろう。

「野望」と言えば・・

「野望」と言えば・・

 もうすでに25年以上も昔の話である。バブル経済崩壊を数年後に控え、日本中が上から下まで強気になっていた年だ。この百貨店社長を責める気にはなれないが、参考までに述べれば、この時の出店店舗はほとんどが閉店の憂き目に会っている。

 もちろん、「事業欲」の趣くままに、進取の気象に富んだチャレンジャブルな経営とは逆の経営を旨とする企業もある。

 オンワードホテルディングスの馬場彰・名誉顧問が現役の社長・会長時代によく口にしていた言葉は「拙速は避けよ」。「仕事の質を二の次にして手っ取り早く片付けることをするな」の意味で時流に流されずじっくり構えて成果を出せということだ。

 もちろん企業買収などでは、電光石火の決断力・行動力を発揮する同社だが、本業に関しては、出店政策を始め意外なほど慎重な経営を信条としている。小売業・デベロッパーと卸売業者の業態の違いと言えばそれまでだが。

ダイバーシティ東京

ダイバーシティ東京

 アベノミクス効果で、景気は上向きだと喧伝されているが、これが末端の消費、なかんづくファッション・アパレル消費に本格的に波及するには1年近いタイムラグがありそうで、そのうちに不測の事態が起こって、今の上昇ムードが頓挫してしまう可能性がないわけではない。

 来年4月1日からの5%から8%への消費税率アップという関門も待ち構えている。悲観論や消極論を持ち出すと、前出の百貨店社長のように「事業欲というものがわかっていない」とお叱りをうけるかもしれないが、難しい局面であることは間違いない。

 幸いにして、新規出店はここ3年に比べるとペースダウンしているが、それでも一見無謀な大型商業施設のオープンも相変わらず控えている。

 「出店を止めたら莫大な違約金を取られる。それなら覚悟を決めて出店した方が潔い」という何やら日米開戦を決行した戦前の日本のような声も聞こえてくる。

 商業施設オープンは戦国時代の国盗りゲームではない。不採算なら閉店というツケを必ず払わされる。慎重な上にも慎重な決断が求められる。引き返したり、中止する勇気も必要だ。

                

(2013.9.13「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)


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