映画「ビル・カニンガム&NY」を遅ればせながらDVDで観た。
82歳のビル・ガニンガムが、昼は自転車でニューヨークの街をストリート・スナップし、夜はパーティでセレブ・ファッションを撮り続けるのを追ったドキュメンタリーだ。
カーネギーホールの屋根裏部屋に住んでいるビルだが、立ち退きの刻限も迫っていて、何かと慌しい。
このファッションに憑りつかれたお爺さんには、物欲や金銭欲というものがまるでない。ついでに映画ではちょっとボヤけさせているが性欲というのもないようだ。こりゃ、ファッション仙人だな。
そもそも、NYタイムズのストリート・スナップとパーティページだけで暮らしていけるものなのか。暮らしぶりは実に質素だ。
パーティに行っても、そのパーティで水一杯でも飲んだら、「公正さがなくなってしまう」と、パーティ前にしっかり質素な夕食を済ませている(どっかのパーティ記者にビルの爪のアカでも煎じて飲ませたいものである)。
たぶん、ファッション・ジャーナリズムというのは、こうしたファッション仙人でなくては貫けない時代なのかもしれない。
このビルがフランスオートクチュール・プレタポルテ連合協会会長のディディエ・グランバックからレジオン・ドヌール勲章を授けられるシーンもあるが、いつものゴミ清掃員みたいな青い上っぱりをちょっとフォーマルに着こなしているのが本当にオシャレである。
グランバックの「皆さん、シュバリエを通り越して、一気にオフィシエの受賞ですよ」というスピーチが本当に軽薄に響く。本音を言えば、こんな勲章なんて辞退して欲しかったけれど。
この映画では、ビルとWWD-NYの決別の話が出て来る。ビルのストリート・スナップを、WWD-NYが勝手にIN&OUTに編集したことにビルが憤慨して、絶縁に及んだエピソードだ。
まあ、それをIN&OUTに編集してスノッブに笑いのめすのがWWD魂というもので、これはもう30年も日本版に携わっている私にとっては、当然の作業に思える。
ファッションにはただ「センスがあるかどうか」というファッション仙人と衝突するのは当然と言えば当然の成り行きで実に興味深かった。
まあ、WWDに居てはファッション仙人なんてなれませんが。
(2013.8.14「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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