初台のオペラパレスでヴェルディのオペラ「ナブッコ」の初日(5月19日)を観た。
(※右の背景画像:「ナブッコ」in 東京新国立劇場)⇒
今年はヴェルディおよびヴァグナーの生誕200周年にあたり、各地で2大巨匠の作品が数多く上演されているが、今回もその一環だろう。
「ナブッコ」は、26のオペラを世に残したウェルディの第3作目に当たり出世作である。
しかし、内容は紀元前のユダヤ人とバビロニア人の宗教を絡めた戦争がテーマ(旧約聖書の有名なバビロン幽閉)で、西洋人ならともかく、日本人にはかなりわかりづらい。
内容はわかりづらいが、その音楽がそれを補って余りあり、初期のヴェルディ作品でも上演機会は多い。
今回の上演でも見事な統率を見せるカリニャーニ指揮の東京フィルのもと、ナブッコ役のガッロ、その長女のアビガイッレ役のコルネッティが見事な歌唱を聞かせてくれた。
さらに、幽閉されたユダヤ人たちを演じる新国立劇場合唱団が、第2のイタリア国歌とまで言われる「行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って」を始め、見事な合唱を披露している。
この合唱を上回るのはミラノのスカラ座合唱団くらいしか思い浮かばない。
しかし、今回の公演で最も注目すべきは、グラハム・ヴィックの演出だろう。
席に着くとすでに幕が開いていて、どうもユダヤ人たちが動き回っているのは百貨店か高級ショッピングモールと思しき場所。
ラグジュアリー・ブランド「アゴスティーノ」とかハイジュエリー・ブランド「MOMMON」とか「アップルストア」を思わせるテナントが並んでいる。
ユダヤ人はブランドに狂奔する現代の人々という設定なのである。ハンドバッグをかぶって踊る女子までいる。
ヴィックの演出ノートを読むと、今回の東京での新演出にあたり、宗教色を排して日本のオペラファンにわかりやすくかつ現代的な「ナブッコ」を目指したという。日本人はブランド教徒という皮肉だろうか(笑)。
そして、重要な役割を果たすのが、その百貨店(最近森田恭通がインテリアを担当して改装した伊勢丹新宿店を参考にしたのではと思う)だかモールに設置されたエスカレーター。
これ昨年の10月にパリコレで発表された「ルイ・ヴィトン」のファッション・ショーが着想源なのじゃないか、とファッション業界関係者なら誰でも思うはずだ。
なるほど、世界中に日本人のヴィトン好きはいまだに知れ渡っているのだろう。
そこにユダヤ人制圧に現れるバビロニア軍は、テロリストの集団として描かれる。なかなか良くできた設定だと思う。
もうこれだけで、ファッション業界関係者の私などは、拍手喝采である。
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ルイ・ヴィトンのショー
(in パリ・コレクション)
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まあ、荒唐無稽と感じたのか、正統的ファンは終演後のカーテンコールで小さく「ブー」をしていたけれど。
細かいことを言えば、第1部のエルサレムから、第2部のバビロンへの場面転換がほとんどなされていないのはいかがなものかとは私も思ったが。
原作の読み替えや現代化は、オペラ演出ではもう当たり前のことで、それが聴衆にどれだけ響くのかを競う時代になっている。
東京での新演出にその地ならではの工夫を凝らしたヴィック演出を高く評価したい。
特に、正統的演出でその時代の衣装を着た日本人が大量に現れる西洋オペラ上演にいつも感じるような一種の違和感が今回ほとんどなかったのはヴィックの演出の賜物だったのではないか。
最近のオペラ演出を知りたい方に特にお勧めしたい上演だ。
(2013.6.6「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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