(葉羽) 前回配信分に続く後編です。
そしてもうひとつが、いわゆる競馬サークルにおける社台グループの独占問題だ。
生産者にして馬主でもある社台グループ傘下の生産馬がダービーや有馬記念などのGⅠ(ジーワン:グレードワンと呼ばれる高額賞金のレース)を始めとしたレースを勝ちまくっているのだ。
ファン(馬券購入者)も「また、社台の馬が勝ったよ」と呆れている。
今日の社台帝国の基礎を築いたのは1990年にアメリカから購入した種牡馬サンデーサイレンスの大成功。
サンデーサイレンスは2002年に死亡し、最近はその子供の子供が走っているのだが、昨年のダービーなどは出走18頭の全てがサンデーサイレンスの孫だった(父の父がサンデーサイレンスか母の父がサンデーサイレンス)。
競馬先進国でこんな異常事態が見られるのは日本だけである。
社台の独占がもたらした弊害で、近親交配が増え、いずれ行き詰まると危惧する向きもある。
20世紀の競馬界でこの近親交配で失敗した大馬主として有名なのがマルセル・ブサックである。
いわずと知れたクリスチャン・ディオールに出資して20世紀のファッションの扉を開いた資産家である。
後にブサック帝国は破綻し(競馬投資の失敗もその原因のひとつかも)競売にかけられたが、それをセリ落としたのがその後LVMH帝国を築いたベルナール・アルノーである。
余談はさておき、昨年のサンデーサイレンスの孫18頭によるダービーの勝馬はオルフェーブル(金銀細工の意味のフランス語。父がステイゴ-ルドだからだろう)だった。
馬主は(有)社台レースホースで生産は社台の白老牧場。
オルフェーブルは皐月賞、菊花賞も合わせて勝ち、2005年のディープインパクト(父はサンデーサイレンス)以来、史上7頭目の三冠馬になった。
さらに12月の有馬記念にも勝ってJRAの年度代表馬に選ばれた。
しかし古くからの競馬ファンは白けきっているのである。
最新の育成システム・設備や調教技術、金にあかせた種牡馬・繁殖牝馬集めなど社台の圧倒的な強さは認めても、年々面白くなくなっていく競馬。袋小路に入っている観が強いのだ。
なにやら「ユニクロ」の独り勝ちと言われている日本のアパレル市場を私などは思い起こしてしまう。
「ユニクロ」の野望の対象がいまや海外市場での成功になっているように、社台のターゲットも凱旋門賞を頂点にする海外競馬制覇に移りつつある。
JRAはそのための資金稼ぎということなのだろう。その金の出所はファンの馬券購入金のわけで、なんというか実にいい面の皮なのである。
様々な勢力が覇を競い合い、群雄割拠して彩りに溢れるというのが、理想のマーケットの姿だと思うが、えてして高度資本主義というのは潤いのない独占・寡占のノッペラボウになってしまうものなのである。
本当につまらない世の中である。
(2012.4.11「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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