私の会社は現在六本木7丁目にあるが、かつては市ヶ谷富久町や市ヶ谷本村町にあって、その頃は会社帰りに新宿のゴールデン街でよく飲んだ。
編集者や作家(銀座で飲めないような低所得?自称知識人)がオダをあげたりトグロを巻いていた。
その後ゴールデン街は火事騒ぎがあったり、地上げ屋に狙われたりして、その存続が大いに危ぶまれた。
しかし、つい最近久方振りに行ってみたが、街はなかなかの賑わいを見せていた。
その店は創業ママ(元全共闘の女闘士にして一時はマドンナブームに乗って参議院議員にもなった)の体調が悪く、店はバイトの男の子がひとりで切り盛りしていた。
男の子は吉本興業所属の若手お笑い芸人で、酔っ払ったオジサンに芸をやってみろと絡まれていた。
廃校になった近くの小学校に吉本興業の東京支社が入居したことでかなりの数の吉本の若手芸人がこのゴールデン街でバイトしているという。
このラーメン好きの男の子と麺談義をしていたら「この近くに『いわもとQ』という立ち食い蕎麦屋があるけどこれは一回行ってみたほうがいいですよ。僕は昼飯はほとんどここですよ」とヤケに力説する。
24時間営業らしいので、その店で飲んだ帰りにこの「いわもとQ」に寄ってみた。
深夜なのにかなり客がいる。
店の看板に「ありえない店をめざします」とあるが、大風呂敷ではなかった。これがイケルのである。
注文を受けてから麺を茹で始めるし、天麩羅は揚げたてである。
蕎麦にやや香りが不足しているが、280円のもり蕎麦にそれを言ってはならないだろうが、いわゆる街場の一般的な蕎麦屋の水準を大きく上回っているのである。
いわんや「富士そば」「小諸そば」「ゆで太郎」などの立ち食いそばチェーンはまるで歯がたたない。
東京の麺市場はラーメンブームが去って、現在「はなまるうどん」「さぬきや」「丸亀製麺」「楽釜製麺所」などの四国うどんチェーンの出店ラッシュに沸いているが、この「いわもとQ」が蕎麦の新型チェーンとして割って入りそうな予感がする。
現在「いわもとQ」は歌舞伎町、赤坂、麹町の三店のみ。
「いわもとQ」を運営する岩本清治・ライトスタッフ社長はセブン・イレブンでキャリアを積んだ人物で、100店の大目標を掲げ日本一の蕎麦チェーンを目指しているというが、簡単に実現するのではないか。
このチェーン最初は「いわもと」だったらしいが、「Q」を付け加える感性が実にイイ。
割り箸で蕎麦を啜る人の顔が「Q」に見えたからだそうだがこのQ効果が大きい。
牛丼屋、立ち食い蕎麦屋にはたまに入るが、最近は若い女子の一人客が目に付くようになった。「いわもとQ」でも老若問わず女性客が多い。
とにかく一度覗いてみて欲しい店である。特に特色のない街場の蕎麦屋や立ち食い蕎麦屋が打撃を受けるのは必至だろう。
これは私の本分であるファッションの世界でもそれ以外の業界でも同様である。
しかし、ファストフードの欠点をこだわりで補いながら低価格で勝負するという「いわもとQ」の商売がこれだけ輝いているのだから、日本がデフレスパイラルから脱却するのはまだまだ先の話だろうな。
(2012.2.22「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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