震災以降、落ち着きを取り戻してはいると言うものの、冴えない商況が続いている。
特に予想に反した暖冬で冬物衣料は全く動かない。商況が冴えないからといって、5年前に計画していた商業施設建設計画がストップするということは滅多にない。
震災以降も、3月二子玉川(二子玉川ライズ、)、4月阿倍野(マーケットパーク・キューズモール)、5月博多、5月梅田、10月有楽町で大型の商業施設がオープンした。
特に注目されるのは、百貨店とショッピングセンター(SC)が隣り合わせにオープンすることになった博多、梅田、有楽町だ。
博多は、JR博多シティにおけるアミュプラザと博多阪急、梅田ではルクア(JR西日本開発)と三越伊勢丹、有楽町ではルミネ有楽町(有楽町西武跡)と阪急メンズトーキョー(有楽町阪急改装)の激突という興味深い3つの対決である。
博多と梅田に関しては、いずれもJR九州、JR西日本が商業施設全体を運営しているので、対決といっても、その意味合いは薄れる。
梅田については、10月末にJR西日本が発表した初年度売上計画の修正によれば、SCのルクアが当初の250億円から320億円へ上方修正、三越伊勢丹については550億円から350億円へ大幅な下方修正。
両店の売り場面積はルクアが2万㎡で、三越伊勢丹が5万㎡。これを見る限り、オープン前にある程度予想されていたことではあったがすでに勝負あったの観もある。
博多、梅田と異なり、有楽町は純然たるSC(JR東日本の子会社であるルミネ)と百貨店の対決の構図であるが、ルミネ有楽町と阪急メンズトーキョーはほぼ同面積(1万3000㎡と1万㎡)で初年度売上目標は200億円と120億円。初日売り上げはそれぞれ2億2000万円と1億1000万円。
前者は「銀座(有楽町)のルミネ」としての注目も高く、オープン後10日間を過ぎても連日ごった返している状況で、3ヵ月もすれば上方修正が発表されるのではないかという声も出始めている。
こうして3地区を眺めても、アミュプラザ、ルクア、ルミネと名前は違えどもJR系のSCが従来型の百貨店に対して圧倒的な優勢を築き上げているのが分かる。
10年前までには考えられなかった事態といっても良いだろう。
多数の超優良客を抱え、外商ビジネス、大理石を敷き詰めた豪華な売り場にはラグジュアリー・ブランドが一堂に会し、・・・・そんな時代は夢のように霧散してしまったことが、これほどくっきりと現実のものになったことは今までなかったのではないだろうか。
何故、こんな事態が生じたのだろうか。そもそもの発端は92年8月に施行された新借地借家法だ。
貸主サイドに有利になるように借地借家法が改められ、ディベロッパーにとっては業績の上がらないテナントの入れ替えが従来よりも簡単に出来るようになった。
これはSC運営者にとっては極めて重要な新法で、軌を一にするようにこれ以降バブル崩壊で苦境に立った百貨店に代わって、SCがファッション流通の主役に躍り出ている。
SCの時代がやって来たのだった。その中でも、特にルミネが抜きん出た存在として注目されたのは、なんと言ってもJRをバックに駅にあるSCだったためである。
さらに、それを後押ししたのが、ユナイテッドアローズ、ビームス、ベイクルーズ、トゥモローランド、シップスといったセレクトショップの大型店舗を導入したことである。
現在、ルミネのメシのタネとも言うべき存在がこうしたセレクトショップになっているのは周知の通りだ。
もちろん、この間セレクトショップ側も、百貨店に代わるファッションリーダーとしての地位を不動のものにすることが出来たという次第である。
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こうした流れについていけなかったのが百貨店だ。
ファッションリーダーとしての自負が、本来小売業であるセレクトショップを自分の店に導入することは出来なかっただろうし、そもそも、100坪級のスペースと小売店の中に小売店を導入するという屋上屋を重ねるためには、高い掛け率を飲まなくてはならず、これも百貨店の自負を著しく傷つけることになって、拒絶反応が生じる結果になった。
改めて言うまでもないが、ルミネは基本的にはテナントにスペースを賃貸しするディベロッパーであり、百貨店は納入業者(卸売業者)の販売力に合わせて設定された掛率で販売を代行する小売業である。
ディベロッパーと小売業でここ20年の間にこれだけ地位の逆転が起こったというのは、考えてみれば当然の事態と言えるのかもしれない。
ファッションや雑貨の分野で起こったこうした事態はいずれ、高級化粧品やラグジュアリー・ブランドでも生じてくるという見方もある。
最近でも業界関係者を驚かせた「事件」が起こった。
11月3日に埼玉県越谷市にあるイオンレイクタウンにイオンがオープンさせた高級化粧品のセレクトショップ「コスメーム」だ。
(※右の背景写真)⇒
シャネルを始めとしてディオール、ランコムといったラグジュアリー・コスメティックが一堂に並んでいる。
しばらく前までは百貨店以外にこうしたブランドが販売されることはあり得ないことだった。まだまだSCの時代は続きそうな気配濃厚ではある。
そろそろ百貨店の反攻に期待したいものだが、秘策はあるのか。
(2011.11.29「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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