「東京ミッドタウンのホールAの入り口ってここだよね?入りたいんだけど?」とそのショーのチケットを係員に見せると、「ショーはAホールなんですが、入り口はBホールからになっています。そちらから入場お願いします」「はあ?」とケゲンな表情でBホールの入り口へ。
中に入ると従来のホールBには、メルセデス・ベンツが今年8月25日に発売したC63AMGクーペ(税込み1085万円)の真紅の雄姿が鎮座している。さらにメイベリン
ニューヨークの新製品ブースも設けられている。
なるほど、第13回目にしてJFW(東京発 日本ファッションウィーク)は、「第1回メルセデス・ベンツ
ファッションウィーク 東京」 として、完全に生まれ変わったことがいやが応にも理解できる仕組みになっている。
何回かそのC63AMGクーペを横目にするうちに、私のような車オンチでも、「このクーペは一体いくらぐらいするものなのか?」と思うほどだ。
メルセデス・ベンツ ジャパンはタイトルスポンサー料として3年間分の3億3000万円程度を一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構に支払ったとされている。
同様にスポンサー契約をしたメイベリン ニューヨークとDHLも3年間で1億2000万円を支払ったと推測されている。
メルセデス・ベンツに関していえば、その経済効果(ベンツが何台売れたか?)は、簡単に算出することはできないだろうが、いわゆるメディア効果(メディア全体への露出を広告換算した数字)は、ゆうに5500万円(1シーズンあたり)をオーバーしていることは間違いないだろう。
というより、最初から綿密な打ち合わせが行なわれ、「これでは、メディア効果はとても5500万円に足りない。ホールBに置いてあるベンツの前を必ず入場者が通過するようにしてくれ」とか、「ポスターの露出が足りないからあと何十枚を追加するように」とか、「TVに紹介される時は必ずベンツの前で撮影」とかいう注文がこと細かに指示されていたことであろう。
メディア効果に関して言えば、開始前からすでに保証されていたに違いない。
私を含め、タイトルスポンサーなるものにまだアレルギーがある輩は、複雑な思いで今回の事態を傍観しているだろう。古い話で恐縮だが、代々木に2つのテントが設置されていた1980年代中期の東コレ絶頂期を思い出すのである。
資生堂、トヨタ自動車、IWS(国際羊毛事務局)がスポンサーとして名を連ねていた。少なくとも外資系企業がタイトルスポンサードするなどという事態は絶対になかったと言っていい。この25年間でどれだけ日本経済が衰退したのかを痛感する。
今回のIMGにスポンサー捜しが委嘱される前には日本最大の広告会社電通が奔走したが成功には至らなかった。
メルセデス・ベンツは、ファッションウィークにタイトルスポンサーとして、お膝元のベルリン、4大コレクションのひとつであるニューヨークを押さえ、今回東京に駒を進めた(この他にロシア・ファッションウィークや、マイアミスイムのタイトルスポンサーでもある)。
さらに、ファッションの二大都市ミラノ、パリでも同様のプロジェクトが進行中なのだろうか。ナショナリズムが強固で、二大都市としての自頁があるミラノ、パリでそんな事態が起こるとはとても思えないのだが、ファッション業界の現状を考えるとあながちあり得ない話とも言えないだろう。
今回の東コレでは、最終日の10月25日(土曜日)に行なわれた「VERSUS
TOKYO」なるイベントが大いに注目された。
「VERSUS
TOKYO」はその提唱者の吉井雄一氏が名付けたショー&イベントだったので、てっきり「メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク(MBFW)」に「対抗」する存在なのかと思いきや、なんのことはないMBFWの一環であり、さらに6ブランドについては2列目以降の席が1000円という有料ショー(立ち見は無料)。
チケット売り上げの全額は、東日本大震災復興のために、日本赤十字に寄付されるという。
恐れ入ったのは、その「VERSUS TOKYO」の大トリをつとめた、「MASTERMIND」のショーである。なんとホールAは800人を超える観客で文字通り立錐の余地もなく埋め尽くされたのだった。
夜9時40分にまず4人組のJ-POPグループ「エイジアエンジニア」のライブパフォーマンスで始まったイベントは、「A
BATHING APE(ア ベイシング エイプ)」を手掛けるNIGOが舞台中央のDJブースに登場。
ショーはまずNIGOと「MASTERMIND」のコラボブランド「BAPE MASTERMIND」が披露され、その後「MASTERMIND
JAPAN」のショーが繰り広げられた。
圧巻だったのはショーのフィナーレ。暗転したステージが明るくなるといつの間にか中央にベンツの黒の大型車が鎮座している。
メルセデス・ベンツGクラスをベースにした「MASTERMIND JAPAN」のシンボルであるスカルが随所に施された、本間氏によるデザインカーのお披露目である。
客席の最前列から登壇したニコラス・スピークス=メルセデス・ベンツ日本社長と熱い抱擁。聞けば「マスターマインド」は2013年春夏コレクションをもってブランドを休止すると宣言している。
ショー後の囲み取材では、本間氏はなんと涙を浮かべながら「これまで支えてくれた人達に恩返ししたいという思いで、6年ぶりにショーを発表した」と記者に語った。なんとも、泣かせる話である。「東コレ」大トリでまたしてもメルセデス・ベンツは大量ダメ押し点をゲットした恰好である。
「勝者には何もやるな」はヘミングウェイの名言である。様々な解釈があるが、私流に解釈すれば「もういいんじゃないですか。あなた方は十二分に元を取っていますよ」ということになるのだが。
東コレはもはやデザイナーが新作を競い合うファッション・ウィークというよりは一大イベントに変貌したようである。
(2011.11.5「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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