セレクトショップのユナイテッドアローズの創業者の一人で、自身も業界を代表するベストドレッサーである重松理(しげまつおさむ)・同社名誉会長に「最高のおしゃれって何ですか?」と尋ねたことがある。
答えは「着ているものがぴったり体にフィットしていること」だった。
それでは、例えばスーツならオーダーが最高ということになるのだろうが、そのオーダースーツ分野で、大革命が最近起こっている。
火付け役は、日本最大のファッションECモールのZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ(今年10月1日付でZOZOTOWNに社名変更)である。
他社のブランドを自社のECモールで売るのに飽き足らず、自社のプライベート・ブランド「ZOZO」を売るために採寸用「ZOZOスーツ」の販売(無料)を始めている。
採寸用ZOZOスーツ
まず、ZOZOTOWNから水玉状の白いマーカーが300~400個付いた「ZOZOスーツ」が送られてくる。スマホアプリを起動し、カメラで自分の体を12回に分けて360度撮影することでサイズを測る。計測時間は平均15分。
このサイズを基にして、同社のプライベート・ブランド「ZOZO」による様々なアイテムを購入することができる。
とくに、体にぴったりした着心地の実現がなかなか難しいと言われるスーツでもかなりの着心地が実現できているという評判だ。
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お試し価格2万4800円(税込み、定価は4万4800円)の「ZOZO」ブランドのスーツとシャツの発表会が7月3日に行われた。
記者発表会には、そのスーツとシャツを着たスタートトゥデイの前澤友作・社長も登場したのだが、その日2大スーツメーカーの青山商事とアオキインターナショナルの株価が約7%下落したことでも、その衝撃度がわかる。
この「ZOZOスーツ」によるスマホ採寸には限界がある。例えば、筋肉質の人間と脂肪質の人間の違いもあるはずだし、各人の身体には撫で肩、猫背などの固有の特徴もある。
経験のあるスタッフ(フィッター)によって、メジャーで実際に採寸するのがオーダースーツの基本だという意見もある。
オンワードグループのオンワードパーソナルスタイルが昨年秋からスタートしている「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」は、新時代のオーダーシステムとして早くも人気になっている。
スマートテーラー
採寸は経験豊富なフィッターが行う。依頼すれば、自宅での採寸も可能だという。
オンワードグループには、従来から様々な形でオーダースーツを百貨店中心に提供してきていた。
納品は、採寸から納品まで3週間、価格も5万円前後だった。これを、今回1週間、3万円(ポリエステル混紡ウール)に一気に持ってきた。
このほかに4万円~(100%ウール)、5万円~(インポート素材)がある。
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まず、期間短縮は、今までファックスで中国の工場に送っていた採寸情報を、メールで送信。そのままマーキング、カッティングのマシーンが受信するようになった。
こうしたことが可能になったのも、協力工場だった大連の縫製工場を子会社化したからだ。
また、物流でもパックライナーという画期的搬送技術が開発された。でき上がったスーツを圧縮パックして搬送するもので、これにより搬送時間が一気に短縮された。
こうした進化は今まででも可能だったのではないかと考えられるが、「ZOZOスーツ」がメインターゲットをメンズスーツにすることが分かって、オンワードグループが危機感を募らせたためではではないかと私は思う。
おしゃれの基本である「ジャストフィット」を実現するのに「オーダー」が最善の方法であるのは、従来から語られてきたが、これを大きなビジネスにするには、競争を本格化させる新規参入の「引き金」が必要だ。
今回の「ZOZOスーツ」はその好例だと思う。
果たして、「オーダー」戦争の行方はどうなるのだろうか。消費者としては、大変結構なことではあるが。
(2018.12.8「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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