古ぼけて、今にも死に絶えそうな「ヨーロッパ」という怪物が生き伸びているのは何故なのか?
訳知り風に言うならば「ヨーロッパ」という怪物の本質を知りたければ、「ファッション、オペラ、そしてサッカーを学べ」。
何故、私が週刊ファッション日記の番外編で、オペラへの偏愛を綴り、体調を崩してまで2018年第21回ワールドカップ ロシア大会の全試合をTVライブで見続けたのか。
それは、そこにヨーロッパという怪物の本質が見え隠れするからである。
例えば、今大会ですっかり株を下げたブラジルのスター選手ネイマール。
彼が、偽装(シュミレーション、ダイビング)で主審にファールを訴える姿、あれは長らくポルトガルの圧政に苦しんだブラジルの植民地根性の発露だろう。W杯はヨーロッパ帝国主義VS植民地の戦いでもあるのだ。
今では世界の警察を任ずるアメリカがサッカーやラグビーに大きな関心を示さずアメリカン・フットボールに熱中しているのは、第2次世界大戦前の植民地政策に乗り遅れたのと無関係ではないのではないか。
例えば、今回優勝候補だったドイツのグループリーグ最下位での不可思議な敗退。ナチス・ドイツVSソ連赤軍のレニングラード攻防戦での、信じがたいナチス・ドイツの敗北を連想したドイツ人は多かったに違いない。
W杯はそれぞれの国民の深層心理に刻まれた記憶の再現でもあるのだ。
W杯で優勝できる国は、①優勝経験国、②自国開催の国(1930年第1回大会はウルグアイで開催されウルグアイが優勝)、③優勝戦で優勝経験のない国を破る(例えば、2010年南アフリカ大会の優勝戦は優勝経験のない国同士スペインVSオランダのカードになってスペインが初優勝した)。
この3パターンしかないと言われ続けてきた。
馬鹿馬鹿しいジンクスではあるが、もう21回も続いていて、オリンピック以上に全世界の関心を集める大会のジンクスなのである。簡単には無視できない。
今回の優勝戦は、フランスVSクロアチア。変なジンクスに別れを告げてほしいとクロアチアの勝利=初優勝を心から願っていた。しかし、最初から結果は分かっていたのだ。
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クロアチア大統領
キタロヴィチ |
不運なオウンゴールと不運なペナルティエリア内でのハンドによるPKの2点がフランスにプレゼントされては、サッカーの質ではクロアチアの方が明らかに上でも、勝敗はどうにもならなかった。
なんというか、W杯では、サッカーの強弱ではなく、総合的な国力が問われることが少なくない。
ヨーロッパの盟主を任ずる大国フランスとユーゴスラヴィアが分裂してできた小国クロアチアの勝負は見えていたという言い方もできる。
準決勝のフランスVSベルギーも、サッカーというよりやはり国力の勝負という感じではあった。
そういう意味では、ブレグジット(EU離脱)で白眼視されたイングランドの好成績(準決勝でクロアチアに敗れ、3位決定戦でベルギーに敗れて4位)は、実に意外だった。
決勝トーナメントの1回戦がコロンビア(中心選手のハメス・ロドリゲスがケガで欠場)、準々決勝がスウェーデンというラッキーが大きかったようだ。
それでも、グループリーグと3位決定戦で2度ベルギーに負けるという屈辱を味あわされた。サッカー界のヒエラルキーでいえば全日本選抜が東北選抜に2連敗するようなものだ。
日本チームのことに触れておく。
善戦を賞賛されているが、結局1勝1分2敗という結果はそう褒められたものではないと思うが、確実にレベルが上がっているのは間違いない。
個人的には、サッカーって、ゴールキーパーの存在の占める比率が大きいなあというのが、偽らざる感想。
印象的なシーンは、乾、大迫などのシュート・シーンではなく、セネガル戦でものの見事に決まった芸術的なオフサイド・トラップを挙げたい。
これぞニッポンという感じだった。柔道なら技あり1本で日本の勝ち!である。私には、息の合った大夫、三味線、人形遣いが織りなす人形浄瑠璃のように見えた。
最後に、ファッションとワールドカップがらみの話をひとつ。
今大会には、常連の強豪国イタリア、オランダがヨーロッパ予選で敗退して、出場できなかった。これが、いまひとつ盛り上がりに欠けた原因とも言われたが、あるラグジュアリー・ブランド日本法人関係者は、こんなことを言っていた。
「イタリアの職人は、みんなサッカー気狂い。いつもワールドカップ期間中は、サッカーに気を取られて、仕事どころじゃないんだよ。イタリアの試合のある日なんて、全く仕事にならない。幸い、今回は予選敗退で助かったよ。不良品率が格段に下がって万々歳だよ。」
次は、2022年11月(猛暑を避けて開催期間後ろ倒し)のカタール大会。W杯が終わると、私はあと何回ワールドカップが見られるだろうかといつも思う。
生まれたのもW杯の年だし、WWDジャパンにかかわるようになったのもW杯の年、親父が死んだのは日韓W杯の年。
喪主なのに日本VSチュニジア戦のTV中継に熱中して隣の葬儀会場になかなか現れず大顰蹙を買った。親父、済まなかった。
日本の優勝をこの目で見るのはちょっと難しそうだが、あと5回ぐらいは見たいものである。