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1月17日に開かれた百貨店協会の賀詞交歓会で大西洋・同協会会長(三越伊勢丹ホールディングス社長)が冒頭、「良質な危機感を今年は持ち続けましょう」と挨拶した。

 聞きなれない言葉だと思って、本人に確認に行った。

「前向きな危機感という意味です」と大西氏。

 さしずめ倒産、廃刊、赤字などネガティブ・ニュースの方が読者にはウケがいいと内心思っている私などは、悪質な危機感をまき散らすとんでもない輩と思われているのだろうな、と苦笑した。

「ファッション消費なんていうのは、気分の要素が大きいんだよ。新しいファッションに身を包むと楽しい気分になるでしょ。まずジャーナリストの君たちがそう思ってくれないとね」と昔よく業界の重鎮から言われたものであるが、この「気分の要素」というのに、いつ頃からか「?」と思うようになった。

 もう消費者は笛吹けど踊らずの状態になってしまっているのではないか。気分で動くなんてことはもうないんじゃないのか?と私は最近そう思うことが多くなった。

大西洋 百貨店協会会長(三越伊勢丹ホールディングス社長)

 そこに飛び込んできたのが3月6日の大西社長の電撃辞任報道(日本経済新聞朝刊)である。

 学部(大西さんは商学部)は違うが、私と同じ卒業アルバム(1979年)に写真が載っている61歳の大西さんが明るく「良質な危機感」を訴えていたのが1月17日だから、それから2カ月もたたないうちの電撃辞任である。

 賀詞交歓会の時にもなんとなく疲れているなとは思ったものの、2009年に武藤信一・前社長の跡を継いで伊勢丹社長就任、2012年には合併した三越との三越伊勢丹HDの社長に就任。

 2013年には、副都心線の延伸にも助けられたが伊勢丹新宿店の大改装に成功して、一躍百貨店業界の輝ける星になった。

 ここ4年ばかりは、露出も多く、2016年には百貨店協会の会長に就任して、まさにミスター百貨店として八面六臂の活動を行っていた。

 その大西さんにとってここ1年は、中国の関税強化による爆買いの急減や長びく消費不況がボディブローのように効いて、三越伊勢丹HDでも閉鎖店舗や閉鎖を前提にした経過観察店舗がかなりの数に上って、苦境に立たされていたことは事実である。

三越伊勢丹ビル

 三越伊勢丹HDは、大丸と松坂屋を中核にするJ.フロントリテイリング、高島屋と並んで三大百貨店グループと数えられているが、その直近の決算予想を比較すると、三越伊勢丹HD(17年3月期予想):売上高1兆2500億円(-2.9%)、営業利益240億円(-27.5%)、J.フロントリテイリング(2017年2月期予想):売上高1兆1170億円(-4.0%)、営業利益450億円(-1.3%)、高島屋(2017年2月期予想):売上高9250億円(-0.5%)、営業利益340億円(+3.1%)。

 他の2社に比べ特に営業利益段階での三越伊勢丹HDの業績の急落が目を引く。特に目新しい施策を打ち出していないように見える高島屋の業績の底固さがいぶし銀のように光っていて、三越伊勢丹HDのひとり負けが際立って見えるのである。

 百貨店の顔として突っ走って来た大西さんにもかなりの逆風が吹いているように見える。合併して5年、伊勢丹と三越はうまく融和しているのだろうか。主要ポストは伊勢丹が握り、閉店するのは三越ばかりという表面の現象から見ても、いろいろと経営者には、我々には見えない重圧があったのだろう。

 退任の唐突さも「えっ」と思うようなものであり、かなり追い詰められていたのだろう。ここでひと踏んばってもらいたいとは思うのだが、大西さん一人が東奔西走しても、とりわけて消費動向がどうなるものでもあるまいとは思う。

エンポリオアルマーニ

 しかし先々週はアルマーニ社が「アルマーニ コレツィオーニ」と「アルマーニ ジーンズ」の2ブランドの1600店のうちかなりを「エンポリオ アルマーニ」に再編・統合するニュースにショックを受けたばかりである。

 アルマーニと言えばラルフ ローレン社と並んで、20世紀後半のデザイナービジネスでは大成功を収めたスーパースターである。すでに、ラルフ ローレン社は昨年1000人レベルのリストラ(弊紙16年6月13日号)を発表しているが、「プリヴェ」「ジョルジオ アルマーニ」を始めとしてアルマーニ社は、よりラグジュアリーな存在を目指していた。

 この世界的なファッション&アパレル不況にあってもラグジュアリーとSPAビジネスは好調・堅調であるとバカの一つ覚えのように私は言い続けて来たが、どうもそんなわけでもないという出来事が次々に起こっているのはなんとも不気味である。

 そういえば今年に入ってから日本のアパレル業界でも、6年前の就任時にはある意味業界の若き太陽として歓迎されていたオンワード樫山の馬場昭典・社長(49歳)の辞任などもアパレル業界にとっては、ショッキングな出来事だった。まさに今、そこにある危機という感じである。

馬場昭典 オンワード樫山社長

『業界の星』「業界の太陽」「スーパースター」と目されていたような人物がトップの座を降りてしまったり苦境に立たされている。

 悪質な危機感を振り撒くわけではないが、「この業界、真っ黒闇ではございませんか」と言ってみたいような気分である。「変わり目」とでも割り切らないとこのままブラックホールに吸い込まれてしまうような気にさえなってくる。

 聞けば今上天皇退位を機に平成は30年(2018年)で終わり、次の年号が2019年からスタートするという。

 良質な危機感を持って、この危機的状態を乗り切って次の御代(みよ)を迎えたら世の中の気分も少しは変わって来るかもしれないと思う他はない。

                

(2017.4.5「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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