バックパックというアイテムは、たとえそれがラグジュアリー・ブランドのものであっても決してエレガントなものではない。
しかし、体に負担がかからないからなのか、もうエレガントにカッコをつけている時代でもないからなのか、バックパックが日本の街にあふれている。
特にこの2つのブランドは群を抜いてあふれかえっている。「アネロ」と「フェールラーベン」である。
「アネロ」というブランドの口金付きのバックパックはなかなかのアイデア商品だ。
バックパックの上半分に大きな口金というか四角い骨組みが入っていてこれが四角にパカッと開く仕掛けなのである。作られてみると、なるほどで、コロンブスの卵である。
企画・生産しているのは大阪に本社を置く1988年創業のバッグメーカーのキャロットカンパニーである。
WWDジャパン2016年12月26日号P.4によれば「アネロ」がスタートしたのは2005年。口金リュックが発売されたのは2014年11月。2016年に入ってその勢いは加速して、この口金リュックシリーズは年間280万個を出荷した。
この貢献でキャロットカンパニーの2016年6月の決算で売上高は実に3倍の88億円を記録した。こんなサクセスストーリーは最近の日本のファッション業界では珍しい。
簡単に280万個というが、いま日本で一番ハンドバッグを売っているブランドは「ルイ・ヴィトン」か「コーチ」だろうが、いずれもせいぜい年間30万から40万個程度ではないかと推測されるから、その桁違いの出荷個数に驚く。
日本でもインバウンド需要がかなりあり、東アジア、東南アジアでも販売を始めている。爆発的人気はもう少し続きそうだ。
ユニークな構造もさることながら、人気の要因は3200~6500円という小売価格にあるようだ。この価格ならちょっと買ってみようかなと思わせるのだろう。
また「アネロ」というネーミングも今から思えばなかなか巧かった。スウェーデンのファッション・ブランド「アクネ」とかアメリカのカジュアル・ブランド「アバクロ」を連想させる。
たぶん「アネロ」の購買者のかなりは日本のハンドバッグメーカーの商品だとは思っていないだろう。
もうひとつの人気バックパックである「フェールラーベン」(FJALL RAVEN)はスウェーデンのフェールラーベン社(1960年創業)のブランドである。
「カンケン」は同ブランドのなかの1ラインである。カンケンはスウェーデン語で持ち運ぶという意味である。バックパックとして使えるのと同時にトートバッグとしても使用できる。
その誕生エピソードがなかなか面白い。1970年代後半、スウェーデンの小学生はショルダーバッグを使っていたために、背中に痛みを訴える者が続出して問題になっていたという。その解決策として生まれたのがバックパックである「フェールラーベン」のカンケンだったという。
1gでも軽くするために、素材はビニロン(日本製)、デザインもとにかくシンプル。曲線使いがないのも軽さと耐久性を考えたためという。ビニロンは染色しづらく、くすんだ色使いになるが「エコ」な感じがする。
貼られている「フェールラーベン」のロゴである北極キツネのワッペンはリフレクターになっていて子供たちの夜道での安全に配慮している。
このロゴはフェールラーベン社が北極キツネの保護活動を行っているために採用されている。なお「フェールラーベン」はスウェーデン王室の御用達である。
全体に「サステナブル」「エコロジカル」というコンセプトが感じられて図らずも今どきの商品になっている。そして、このバックパックでも売れている要因のかなりは1万2000円前後の小売価格である。
まあ、スクールバッグなので当然と言えば当然だが、インポート商品としてはかなりお買い得の値段である。
ある意味質実剛健で地味な商品であり、こうした商品がいまの日本の若者たちに支持されてベストセラーになっているのを目の当たりにすると、ファッション離れがかなり深刻であるのを実感してしまう。
(2017.3.4「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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