電通勤務の新入社員が過労自殺した事件は社会問題にまで発展してしまった。(※右の背景画像「電通本社ビル」)⇒
その電通社員の心得をまとめ、社員手帳に記載されているというのが、4代目社長の吉田秀雄(1903.11.9~1963.1.27)が作った鬼十則だ。
こういう社内風土が今回の過労自殺を招く遠因になったなどという論調もあるが、そうだろうか。
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吉田秀雄元社長 |
この鬼十則はもっともなことばかりだといつも読むたびに納得させられる。ちょっと挙げてみる。
- 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
- 仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
- 大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
- 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
- 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
- 周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとは、永い間に天地のひらきができる。
- 計画を立て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
- 自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
- 頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
- 摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
こういう気持ちがなければ広告会社で年商2兆5000億円(連結)のバケモノ的存在にはなれないだろう。
しかし、これはどうなのかなというのも含まれている。
その第5則「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。」などは、ちょっと今の時代にそぐわないような気もするのだが、いかがなものか。
「殺されても放すな」というのは、戦時中に青春時代を過ごした人物の多分に精神論に過ぎる部分なのではないだろうか。
「殺されたり」「死んだら」、これはもう終わりである。この鬼十則は社員手帳から削除されることになったという。ある意味残念ではある。
それはともかく、電通にはもうひとつの戦略十訓なるものがあって、70年代に作られたらしいが、現在では使われていないという。これをちょっとあげてみよう。
- もっと使わせろ
- 捨てさせろ
- 無駄遣いさせる
- 季節を忘れさせろ
- 贈り物をさせろ
- 組み合わせで買わせろ
- きっかけを投じろ
- 流行遅れにさせろ
- 気安く買わせろ
- 混乱をつくり出せ
この十訓にはちょっと問題がある。「エシカル」「エコロジー」が大きな意味を持ち始めているこの時代に1,2,3を天下の電通が社員に推奨してしまってはかなりマズイ。
意味不明なのは4と8である。季節を忘れさせると消費が増えるのだろうか。むしろ季節を強く認識させると衣料消費などは増えそうに思うのだが。
8も流行に敏感な方が衣料消費には好都合だと思うのだが、これはファッション&アパレル関係者の考えることで、冬でもアイスクリームを食べるのは不思議ではないとか、流行なんか気にせずに何でも買わせてしまおうというのが供給側には都合がいいという事なのだろう。
この十訓はまだ消費意欲が旺盛な70年代に生み出されたものらしいが、消費が多様化しかなり先細った現代では、通用するのは少ないようだ。
電通戦略十訓2016年版のようなものが実は秘密裏に作られて上得意客だけ配られているなんてことであれば実に頼もしいのだけれども、まずそんなことはないだろう。
電通に頻繁に出入りしているあるアパレルメーカーのマーケティング部長A氏と話す機会があったが、とにかくA氏が驚いているのは最近のハロウィンの経済効果が1400億円近くあって、バレンタインデーを軽く上回ったことだ。
「あんなことにはお金使うんですよねえ。最近の若い連中は」と嘆くこと嘆くこと。
「ウチの娘なんか、最近のユニクロは高過ぎる。もうGUで十分だなんて言ってますよ。それでいてハロウィンの仮装なんかには平気で散財するし、ちょっとファッションの目先が変わっただけのM社の洋服なんかバカスカ買っているんですから、イヤになりますねえ」。
ともあれ、1日の最高気温も20度を切って、11月といえばファッション&アパレル関連企業にとっては稼ぎ時である。
ここからが9月10月の壊滅的売り上げ不振をカバーする正念場なのだが、ハロウィンの毒気にあてられてしまって、まだ気合が入らないようだ。
(2016.12.22「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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