初台の新国立劇場でワーグナーのオペラ「ローエングリン」の初日を観た(5月23日)。
【※右の背景画像:撮影/寺司正彦、提供/新国立劇場、福山雅治似のクラウス・フロリアン・フォークト(ローエングリン役)とマヌエラ・ウール(エルザ役)。エルザ姫が背中に付けているのは何?】⇒
現在ローエングリン役を歌わせたら世界最高の呼び声が高いテノールのクラウス・フロリアン・フォークトが2012年に続き同劇場に出演するのだから、新国立劇場も大したものである。
破格の出演料を払っているわけではないだろうから、その真摯な制作姿勢に共感しているのだろう。そういう海外の歌手が多いらしく、同劇場の急速なレベルアップの原因になっていると聞く。
あらすじを要約すると:
―弟殺しの疑いをかけられたブラバント国の王姫エルザを救うため、白鳥にひかれた船で騎士ローエングリンが現れ、ブラバント国乗っ取りをたくらむテルラムント&オルトルート夫婦の奸計を打ち砕く。
しかしエルザは、自らの素姓を絶対に尋ねてはいけないという白鳥の騎士との約束を破ってしまう。このため白鳥の騎士は姿を消しその代わりに行方不明だった弟が生還する―
今回、改めてこのオペラを見て感じたのは、このオペラの主役は白鳥の騎士ローエングリンではなく、エルザだということ。
というよりも、エルザの一夜の壮大な夢物語をオペラにしてみましたと解説するワーグナーが随所に現れるのだ。そう考えると不条理だらけのこのオペラも納得がいく。
今回エルザを演じたのは、マヌエラ・ウールという小柄な美人歌手。可愛いらしく天真爛漫なお姫様にぴったりのソプラノで応援したくなる。
第1幕でエルザのドレスにフードのようにくっついているのは何かとずーっと考えていたが、どうも飛行機に乗る時の頸椎保護用の枕のように見える。このディテールも「これは夢なんですけど」と言っているように思えてくる。
フロイド的な夢の世界は舞台に置かれたオブジェの数々(ロザリエ)で実に美しく表現されている。
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フロイド的夢の世界を描いたロザリエの美術は秀逸
(撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場)
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ローエングリン役のフォークトはやや風邪声気味ではあったがあの不思議な発声法に魅せられる。特に力んでいる風もないのに柔らかい声が遠くまで届いてくる。
白鳥に引かれてやってくるローエングリンという魔訶不思議な騎士にぴったりの声であり、風貌なのである。
女性客がいつもの倍はいたのではなかろうか。これもクラウス様見たさなのであろう。女性はいつまでたっても白馬(このオペラの場合白鳥だが)の騎士というのに憧れるようである。
なんとなく最近結婚して日本女性を嘆かせた福山雅治に雰囲気が似ているような気がしないでもない。
この2人の他にも、テルラムント(ユルゲン・リン)とその妻オルトルート(ぺトラ・ラング)、ドイツ国王ハインリヒ(アンドレアス・バウアー)など一流の歌手が熱唱を聞かせてくれる。
新国立劇場オペラ芸術監督の飯守泰次郎指揮の東京フィルが実に重厚で熱いワーグナー演奏を聞かせる。こんなワーグナー演奏は本場ドイツでももう聞けない。
第3幕で大活躍するはずのバンダ(金管別動隊)が音を外しまくったのはご愛嬌。
(2016.6.12「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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